13. ぼく の なまえ
よろしくお願いします。
お待たせしました。
今回から主人公の名前が変わります。
「へ?」
何を言われたのかわからない、という様子のロホスさん一家。
そんな彼らに、僕は棒きれで盗賊を示しながら言う。
「だってこいつらにロホスさん殺されかけたし、マリーノさんとアンナさんは酷い目にあったし。腹も立ってるでしょ?こいつ首領か副首領みたいだし、よければ仕返しに。どのみちこいつもとどめ刺しますから、やるなら今です。好きなだけ」
「っ!?……っ!!」
「……」
僕の言葉を聞いて、必死の形相で暴れ出す盗賊。
でも、念入りに縛り上げた拘束が解ける様子は無い。
ロホスさん達は少しの間、そんなもがく盗賊と僕の差し出す棒を見比べていたけれど、やがて震える手で棒を受け取った。
結局盗賊は、ロホスさん達に気がすむまで殴り付けられた後で僕がとどめを刺した。
こうやってけじめをつけとけば、気持ちを切り替えて今後の生活に戻るきっかけになるんじゃないだろうか。
それに嫌な目にあった記憶が薄れるのも早くなるかも?
まあ、そうなったらいいなと。
盗賊は討伐の証拠として、首を切り落として持って行こうと思ったけど、ちょっと考えてやっぱりやめにする。
ここから領都まではまだ2、3日くらいかかる距離。
着く頃には微妙に腐って嫌なことになってそう。
塩漬けにでも出来ればまた違うんだろうけど、あいにくそんな大量の塩なんか持ってない。
最後の始末として、洞窟の中に残っていたゴミや使い物にならない道具や取り外した罠の廃材、それから盗賊の死体などを出来るだけ一ヵ所に集める。
そこに、灯りとして使われていた油皿を持って来て、皿の油をかけて火を付けた。
集めたゴミと死体が燃え上がり、洞窟の壁や天井を赤々と照らし出す。
恨みを含んで死んだ人間の死体は、ほっとくとたまにアンデッドとして起き上がることがある。
でもこうやって1度燃やしとけば、アンデッドになる確率がかなり減るんだそうな。
あと燃え残った死体は朽ちるだけだし、洞窟の中で燃やしたから山火事の心配も無いと思う。
ついさっき洞窟の外で盗賊6人くらい燃やしたけど、まあそこは必要だったということで。
どこも燃え移ってないのはちゃんと確認したし。
後始末が全部済んだら、僕とロホスさん達は一緒にその場を出発。
ロホスさん達は馬車も傷ついたし、商品のポーションもかなり駄目になってしまったために1度領都ラヌルに戻るとのこと。
僕も領都に向かっているところだったので、道中の護衛も兼ねてそれに同行することにした。
馬車に乗せてもらって一緒に領都に向かいながら、ロホスさんと今後についての話をする。
話し合いの結果、盗賊から回収した略奪品については、品物は全部ロホスさん、現金は僕がもらうということで話がついた。
馬車いっぱいの荷物なんてもらったところで、僕には運ぶ手段が無い。
仮に領都に持って行けたところで、僕にはそこでお金に換えられるようなツテなどもないのだから、もういっそのことロホスさんにあげて、役に立ててもらった方が良いだろう。
お金は金貨・銀貨・銅貨取り混ぜて、大体金貨20枚分くらいの金額があった。
これに加えて、ロホスさんからはマリーノさんとアンナさん救出の報酬ももらえる。
それだけもらえれば、盗賊の討伐報酬としては十分と思っていいんじゃないかな。
この上さらに荷物まで全部寄越せなんてのは、いくらなんでも欲張り過ぎだろう。
これで今後旅を続けるのに、気持ち的にかなり余裕が出来た。
ちなみに、ロホスさんから預かった財布はいったん返した。
荷物が山程あっても当面のお金は必要だろうし、町に着いたら荷物をお金に換えて、その上で報酬は払ってくれればいい。
それから肝心の報酬額については、
「あの、本当に金貨2枚でいいんですか?」
申し訳なさそうに訊いてくるロホスさんに、僕は笑って答える。
「ええ、ロホスさんも生活あるし、僕は盗賊から取ったお金でかなり儲かりましたし、それで良いですよ。僕は町に着いたら冒険者ギルドに登録しますから、お金が出来たら僕宛にギルドに預けといて下さい。後で受け取りますから」
「荷物も全部もらって……何から何まで、本当にありがとうございます。ところであの……今更なんですけど、お名前は?」
……そういえばまだ名乗ってなかったっけ?
うっかりしてた。
「ああすみません、まだ名乗ってませんでした。僕は……」
リーオ、と言おうとしてふと思う。
僕はもう家を出た。
貴族も辞めた。
家も身分も立場も全部捨てて、リーオ・ヒル・ルシアンはもういない。
名前が同じということでわざわざ関連付ける人もいないとは思うけど、リーオを名乗り続けることで万が一実家に迷惑がかかったりするのもいけない。
じゃあ、今の僕は?
僕の、名前は?
ただのリーオ?
それとも……
「……コタロウ」
それは前世での僕の名前。
この世界に生まれてからも、忘れたことなんてない名前。
日本の、僕を可愛がってくれた家族がつけてくれた名前。
家族の皆から、そう呼ばれるのが大好きだった名前。
決めた。
今から、僕の名前は……
「僕の名前はコタロウです!」
お読みいただきありがとうございます。
以後はこの『コタロウ』という名前で固定になります。
今後ともコタロウをよろしくお願いします。




