17. そうさくへ の しゅっぱつ
よろしくお願いします。
日中から降り始めたしとしと雨は、夕方を回る頃には少し強めの雨へと変わっていた。
僕達は空が暗くなり始めた頃合いに別荘に集合、出発前に最後の装備の点検をする。
僕の新しい武器は深緑色の刃、ドーヴの武器屋で作ってもらった蛇貫石製のククリが2本。
これまでの強敵との戦いの経験を踏まえて、両手持ちでも使えた方が良いだろうと柄を少し長めにしてもらった。
1本残っている黒曜鋼のククリは予備の予備に回している。
他にはアリサの予備武器で、紅色の刀身のショートソード。
以前山道で戦ったブラッドレクスの角を加工した剣で、他に注文していた装備品よりも一足先に出来てきたもの。
敵に大きく接近された時や、狭い所で戦う際にということで彼女用に頼んでいた。
今回は森の中での戦いが想定されるということで、役に立つ場面もあるんじゃないかと思われる。
それからユーナが持っているリシルド鋼製の剣は、暗闇で光って目立つといけないからと、炭を塗りつけて黒く染めている。
ただなんか材質的に1、2回振ったら炭も全部落ちてしまいそうな様子ではあったのだけれど、まあそれだけ隠蔽が保てれば十分かなと思うことにした。
ユーナがこの剣を使うとしたら、本当に最後の最後という時になるだろうし。
後は山に入る際のいつもの準備。
服装の、光を反射するところや引っかかりそうなところをチェック。
雨が降っているのでドーヴで買ってきた雨具を着込み、頭にバンダナを巻いて、森から採ってきた木の枝や草を服のあちこちに挿し、顔にはドーランを塗りつける。
服装は全員黒か暗めの色のもの。
これは当然『斬羽ガラス』の3人も一緒だ。
特に顔の処置をする際には多少抵抗されたものの「指示に従うって言ったよね?」と言って押し通した。
シュナの顔にドーランを塗りながら「フッ、キミ達も少しでも同じ目にあいなさい」なんて言っていた人がいたけど気にしない。
そんな感じで準備を終えたらいよいよ出発。
窓からアリサが空を見上げて呟いた。
「雨が強くなってきた。どうやら今夜襲撃の可能性は低くなったな」
「え?ああそうか。この雨じゃ火が使えないもんな」
降りが強ければ建物などに火を放って敵を撹乱というのが難しくなるし、飛び道具も思うようには飛ばなくなる。
盗賊達は果たしてこの不利をやむなしとして奇襲を決行するか、それとも雨が止むまで様子を見るか。
少なくとも僕達にとっては有利に運びそうだ。
僕は濡れるのはあまり好きではないのだけれど。
それでは、いよいよ出発。
僕達は別荘を出て、村人や巡回の兵士さん達に奇異の目で見られながら村の外へと向かった。
僕達は、ヤッヒル村の東側から外に出て森の中に入る。
森を大回りして、盗賊が襲ってきた方角である村の南側へ。
真正直に盗賊の痕跡をそのまま追った方が楽ではあるけど、おそらく盗賊側もそれは読んでいることだろう。
ユーナが見張りの気配に気づいているし、おそらくは罠なども仕掛けられていると考えるべき。
どちらにせよ敵に接近がばれるのは面白くない。
というわけで、僕達はわざと道を外れて茂みの中に入り込んだ。
地図を頼りに森の中を流れる川を探し当てたら、周囲を警戒しながら川を遡る。
隊列はまず僕が先頭、間にケイ、リズ、シュナを挟んで後ろにアリサとユーナ。
『斬羽ガラス』の3人には、僕が歩いた後を絶対に外れないよう厳命している。
今夜は強めの雨が降っていて増水しているようなので、僕達は川からは少し距離を取って暗闇の中を進む。
雨音で草木のずれる音や足音が誤魔化せる一方、視界が悪くなるので感覚を研ぎ澄ませ、罠や見張りを警戒しながら上流を目指した。
◇
「あのさ……言いたいことが色々とあるんだけど」
「全ては生き延びる確率を上げるため。敵に見つかるよりはましでしょ?」
「どっちかというと今は通報されないかが心配なんだけど」
「大丈夫。事前にこういう格好で動くって話は通してるから、盗賊と間違われたりはしない……と思う」
「盗賊とは思われなくても、不審者とは思われてるだろうけどね」
「まあ何ていうか……頑張れ」
「大丈夫。私は出来ます。私はへっちゃら。私は強い子。私は……グスッ」
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。




