15. じょうほう の しゅうしゅう
よろしくお願いします。
2時間程して、日が傾いてきた頃に僕達は別荘に集合した。
リビングで、大急ぎで作った村とその周辺の地図を囲んで車座になる。
ドーヴの治癒院で話を聞いた、カンさんというリリナさんの護衛の人からの情報と、この村の人達から集めた情報を擦り合わせながら、今後の作戦会議を始めた。
まず口火を切ったのはユーナから。
「盗賊が来たのは南側に少し行った先にある森の中から。一応軽く見てみたけど、村から森へ大人数で移動した痕跡があったから間違いないと思う」
「奴らはその森の中に潜んでるってことかな」
「ただ聞いた話だと、森の中には拠点に出来そうな場所は無いみたい。洞窟とか廃村跡とか、何も無いって」
「皆で野営しているとでも?まさか」
いくらなんでも盗賊団一同露天でごろ寝はないだろう。
きっと何かある。
テント村か何か作っているのだろうか。
「そこら辺はこれからの偵察で調べてみよう。寝泊まりするならおそらく水場の近くだろうから、川か泉か湧水か、その辺りを探れば多分見つかる」
「なるほど」
人が生活する上で水は絶対に必要なものだから、ほぼ間違いなくその確保がやりやすいところに拠点は置かれているはず。
川の場所ならある程度村人に聞いて地図に書き込んであるから、まずはその辺りを中心に調べよう。
「盗賊がこの村を監視してる気配はあった?」
僕の問いかけに頷くユーナ。
「相手の姿までは見えなかったけどね、森の中から見られてる感じはしてた。だから……いるね」
ユーナの感覚強化に引っかかったのなら、どうやら間違いは無さそうだ。
盗賊は遠くに逃げたりはしていなかったか。
「数はわかったか?」
「少なくとも1人じゃない。2人か、3人か」
この村を見張っている監視役が最低2人。
とりあえずは、敵の足跡を追跡するという方法は取れなくなった。
にしても……
村を略奪した以上、討伐隊が組まれるというのは盗賊達も当然予測はしてるはず。
なのに今でも村の近くに居座っているということは、何か追加で狙っているものでもあるのだろうか。
続いてはアリサからの報告。
「次に襲撃してきた盗賊は大体5~60人程。歩兵がほとんどだが馬に乗った者が内20人程度。矢の斉射から騎兵の突撃、村が混乱したところで歩兵が来たそうだ。これは護衛のカンさんの話とも合致する」
「多く見ても60人か……」
「いや、この近くに拠点を持ってるとして、留守番にある程度の人数を残してる可能性もあるからもう少し多く、100人くらいいると見込んでおこうか」
「100人!?」
「さすがに多過ぎなんじゃない?」
「そこは念のためってことで」
こういうのは慎重になってなりすぎということはない。
「盗賊の武装は剣に槍に弓矢。金属鎧を着込んでいる者と、それに火球の魔法を放っている者が数人いたと」
「魔法使いまでいるのか……」
「手斧とか山刀とか棍棒竹槍なんかを持ってたって話はあった?」
「私が聞いた限りでは無い」
「なんとなくそんな感じはしてたけど、どうやら敵はチンピラとか犯罪者の集まりとかじゃないね」
「どこかの戦の敗残兵の集団か、もしくは傭兵団崩れか。いずれにしても厄介だな」
「殲滅は……厳しいかな」
「いざという時はすぐに撤退出来るようにしておこう」
「他に何かある?」
「いや、こんなところだな」
続いてリヴが手を上げる。
「襲撃の時、盗賊が話をしてるのを聞いた人がいたんだ。隠れるのに必死でちゃんと聞き取れたわけじゃないんだけど『もう1回くらいは取れるな』みたいなことを言ってたって」
「もう1回取れる?もう1回ここを襲うってことかな。でもこの村でこれ以上奪えるものなんて……あ」
それに気づいたのは、僕とアリサがほぼ同時だった。
「支援物資か」
そうだ、僕達と一緒にここまで来た、荷馬車15台分の物資と商品。
レンガや材木などは持って逃げるのはまあ無理としても、メインの物資である食料品なら奪い取る価値がある。
「だとすると、中々頭も回る連中だな」
村内からの略奪品だけではなく、少し待てばドーヴ辺りからの支援物資が届くと読んでいたわけだ。
「いやでも、軍の護衛がいるんだぜ?」
「いるっていってもあくまで間に合わせの人員だし、数も50人程とそこまで多くもない。夜襲でもかけて、混乱に乗じて奪えるだけ奪って逃げるなら、出来ない話じゃないかも」
「じゃあ、また襲ってくるということですか?」
「おそらく近い内にね。ここ数日中か……下手したら今夜。そして多分そのままこの近辺からもドロンするつもりだと思う」
敵が近日中に再度の襲撃を計画しているとしたら、今から軍や冒険者ギルドに通報してもおそらく間に合わないだろう。
これは僕達も対応を急ぐ必要がある。
ただ逆に考えれば、ユーナの話と合わせて敵はまだ遠くへは行かずに、この近くに留まっている可能性もさらに高くなった。
相手がいるかいないかわからない状態よりも、いると考えて動けるならその方がまだやりやすい。
続いてはケイから報告。
「それから、盗賊に拐われた人なんだけど……依頼人の娘さんと村の女の人が3人、合わせて4人だって」
「その方達を、これから助けに行くんですよね」
「助けるっていうか……はっきり言うけど、ほぼ間違いなく救出じゃなくて遺体の回収になると思う」
僕の言葉に、『斬羽ガラス』の面々が沈痛な表情を浮かべる。
「もう、殺されてるってことですか?」
尋ねてくるシュナに、僕達3人はそろって頷いた。
僕は実家にいた時に、アリサは軍隊時代に、ユーナは僕と出会う前に、それぞれ盗賊の討伐をした経験がある。
盗賊に拐われた女性や子供がどんなことになるか、目の当たりにしたことがある。
「も、もしかしたら、まだ生かされてるかも……」
「正直、あまり期待は出来ないと思うよ。盗賊にしてみれば顔とか完全に見られてるわけだし、逃げる先に一緒に連れていくなんて邪魔になる。生かしとく理由がないんだ」
これは先日ロホスさんの家族を助けた時や、ホウロでオークの群れと戦った時は少し状況が違う。
拐われてから日数もかなり経っている。
無事である可能性は限りなく低い、というよりほぼ無い。
それでもケイ達はまだ諦めきれない様子。
無事な人がいると思いたい気持ちはわかる。
「奴隷として売り飛ばすために生かしとくとか……」
「人間を売り買いするのってけっこう面倒くさいんだよね。誘拐した人をそこらの市場で並べていらっしゃいいらっしゃいとやったところで、売れるようなものでもないでしょ。そういう、拐ってきた人でも買い取ってくれるような闇の商人につてでもないと」
軍や冒険者の追っ手から逃げ回るのが常の盗賊が、行く先々でそうした悪徳商人と繋がりを作るのなんて不可能に等しい。
だから略奪の際に人を拐うのって、基本的慰みものとしての女性や子供狙い。
用済みになれば殺してポイが連中の基本だ。
僕の返答に、ケイ達は俯いて黙り込む。
そんな彼女達に、僕達もまた無事であることを祈っていることを伝えて元気付けた。
別に僕達も、決して拐われた人達の死を望んでるわけじゃない。
当然生きていてほしいし、無事であるなら救出したい。
ただ、今回については最悪の事態になってる可能性が高いし、その覚悟もしとかなきゃならないってこと。
村内から集めた情報はこんなところだったので、続いて僕達は今後の行動についての打ち合わせに入った。
◇
「ハア……酒でも飲みたい気分だぜ」
「これから作戦開始だから、酒なんか飲んでもらっては困るぞ」
「お酒は無いけど、樽で買って持ってきましたオレンジジュース。出張価格でコップに1杯銀貨1枚で提供してます。皆さんいかが……ぁ痛たっ、アリサがぶった!?」
「こんな所で何を闇屋のような真似を始めているんだ」
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