14. むらへ の いどう
よろしくお願いします。
翌日、僕達はアリサが手配してきた乗り合い馬車に乗り、盗賊の襲撃を受けたヤッヒル村に向かった。
僕達が乗っている馬車の他、周囲には大型の乗り合い馬車がもう8台に荷馬車が15台という大所帯。
これはちょうどこの日、政府が手配した村の守備戦力と支援物資がドーヴ市を出発することになっており、その護衛を当てにして民間の商人と乗り合い馬車が同行しているという形のため。
軍隊や冒険者が大人数で町から町へ移動する時などは、こういうことがたまにあるらしい。
道中魔物や盗賊が現れた時などは、軍隊は当然民間人を守るために戦うし、冒険者などは自分達のついでに彼らを助けて、商人はそのお礼に多少のお金を払ったり食事を提供したり、なんてことをやるそうな。
確かに高いお金出して護衛を雇うよりも、こっちの方が安上がり。
ただ商人の都合に合わせて軍や冒険者が移動してくれるわけではないので、そこら辺は上手くこういうのに出会えれば好都合、軍や冒険者ギルドに移動の予定が無さそうなら護衛を雇う、みたいな感じなんだとか。
こんなことを、僕達の乗る馬車の馭者さんが話をしてくれた。
僕達以外では、軍から来た兵士達が50人程他の馬車に乗ってヤッヒル村に向かっている。
彼らはこの先ずっと村に常駐する人達ではなく、村が落ち着くまでの一時的な守り手。
もう大丈夫と判断したら引き払うことになるので、その後は村で護衛の冒険者を雇うなりすることになる。
ケイ達と着いてからの行動の打ち合わせなどをしながら目的地に向かう道中、また退屈しのぎに前世の歌を歌ってみる。
今日歌うのは躍りの歌。
夏もそろそろ終わりにさしかかってきているのだけれど、前世では今ぐらいの時期になるとちょっとしたお祭りみたいな感じで、大勢で輪になって踊っているのをテレビで目にすることがあった。
その時に流れていた歌で、様々な曲があった中で1番気に入っているもの。
牧場で踊っているところを歌った曲のようで、歌っていると情景が目に浮かんできて良い感じ。
歌詞で歌われているシャンシャンシャンという音は、鈴か何かの音だろうか。
それとも手拍子とあるからその音だろうか。
当然周囲の皆にも珍しがられて「それは踊りの歌なの?」と訊かれたので、「輪になって踊ろう」と答えたら誰からともなく手拍子が始まった。
途中の道のりでは特に異常事態などは無く、2日後の昼前に僕達はヤッヒル村に到着した。
話に聞いていた通り大きな湖のほとりにある村で、夏場の避暑などに良さそうな景色の良い場所だ。
普段はのどかな所なんだろう。
こんな事態でなく、旅行で来ればのんびり出来そうな村だった。
でも今は盗賊の襲撃後ということで、何軒もの建物が倒壊していたり、火を放たれた痕があちこちに残っていたりとかなりの被害が見て取れる。
ヤッヒルには今回訪れた人達全員が泊まれるような大きな宿は無く、いくつかあった観光宿も先日の襲撃で壊されたり焼かれたりしている。
なので村長さんに挨拶した後、支援物資を運んできた兵士と役人の人達は村で用意されていた宿舎へ。
一部の商人がかろうじて無事だった宿屋に泊まり、あぶれた人達は野営ということになる。
僕達は出迎えに出てきた村長さんに用向きを伝え、レンダイ先生からの紹介状を見せて別荘の鍵を借りた。
鍵は外出時には必ずかけて、その都度村長宅に戻してほしい、くれぐれも汚さないようにとのこと。
教えてもらった場所に行くと、そこにはドーヴのお屋敷よりは小さいものの、村の他の家よりは大きくしっかりした造りの一軒家。
ふと見てみるとこの村、僕達がこれまで行ってきた村や集落に比べて立派な家が多い。
要人やお金持ちの静養地になっているということで、ここの人達も収入が良いのか。
それともあまり見苦しい建物は置いたら駄目とかになっているのか。
鍵を開けて別荘に入ると、中は広々としたリビングに台所や浴室・寝室などがあった。
ただ別荘ということで部屋数はそこまで多くはないし、家財も必要最小限。
僕達3人と『斬羽ガラス』とざっくり分ける感じで部屋割りを決めて荷物を置いて、そのまま休憩を取る。
少し休んで昼食を済ませたら、ここに来る道中で打ち合わせていた通りに、皆で情報収集のため村内に散らばった。
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