10. じょうけん の りゆう
よろしくお願いします。
僕は、ロウダイさんの顔を真っ直ぐに見て返事をした。
お嬢さんのリリナさんが誘拐されてから既に4日経っている。
そして僕達が今すぐにドーヴを発ったとしても、村に着くまでに2日。
盗賊が今もヤッヒル村の近くに潜伏していると仮定して、村の周辺を調査し隠れ家を特定して攻撃を行うまでには、加えて時間がかかる。
実際には万全の対応を期すためにも、準備にさらに時を要することになるだろう。
それだけ時間が経てばリリナさんの身は確実に無事ではないし、盗賊にしてみれば、病弱な身体で自分達の欲望に応えられない女性を生かしておく理由が無い。
盗賊の討伐にしても、相手がどれだけの規模かは現状不明。
村の防衛戦力で防ぎきれないとなれば、敵は相当数の人数が見込まれる。
となると正直、僕達3人だけでは心許ない。
僕はそういったことをロウダイさんに説明し、その上で
「時間はかかるかもしれませんが、軍に出動を要請するのが最も確実と考えます」
と伝える。
それに対してロウダイさんは、
「わかっている、その上での依頼だ。我々が君達に頼みたいのは、まず第一に生死は問わんから娘をこの家に連れ帰ってほしい。後は可能であれば盗賊共の皆殺し、これは可能であればで良い。出来なかった場合は、早急に戻って来て私に報告してくれ。私から軍に出動を要請する」
つまり盗賊に対しては、隠れ家の特定程度に留めても良いということだろうか。
それであれば……
いやでも、拐われた人達を救出するには盗賊の隠れ家に潜入する必要はあるわけだから、やっぱり簡単なことじゃないな。
偵察や潜入であれば僕の得意ではあるけれど、問題は人質への対応になる。
遺体であればマジックバッグに入れて運べるけど、そうでなかった場合は……
僕が考え込んでいると、代わりにアリサが声を発した。
「依頼の条件に『女性が複数いること』というものがあると伺いました。その理由をお訊きしてもよろしいでしょうか」
彼女の質問に表情を曇らせるロウダイさん。
と、そこで急に部屋のドアが開いて、先程執務室で胸を押さえて苦しんでいた年配の男性が入ってきた。
顔色は若干悪く、秘書のセインさんに支えられてはいるけど、足取りはしっかりしている。
「父上、大丈夫なんですか?」と声をかけるロウダイさんを手で制してその隣に腰かけると、鋭い視線を僕達に向けた。
「よく来た。わしはレンダイだ。このクロウ共和国の政府会議に身を置いている」
「お忙しいところお邪魔しております。僕は3級冒険者のコタロウと申します。こちらは妻でパーティメンバーのアリサとユーナです。この度はお目にかかれて光栄に存じます」
僕達の自己紹介にレンダイ先生は軽く頷いて、隣のロウダイさんにどこまで話をしたかの確認をする。
少しして、僕達に向き直って口を開いた。
「なるほど、直接会うのは初めてだが、君達の噂は聞いている。先日ホウロに向かう街道に現れた1級モンスター。それを討伐したという新人冒険者が君達だな?」
驚いた。
その件については冒険者ギルドから箝口令が敷かれているのに、既にその情報を掴んでいる。
まあ箝口令とはいっても当然政府には報告を上げているだろうから、その関係でかもしれない。
ここにきてしらばっくれても仕方ないので僕達が首肯すると、ロウダイさんと後ろに控えたセインさんが驚いた顔になった。
先生は話を続ける。
「それであれば腕は確かだろう。手柄を吹聴している様子も無いから、口が固いというのも信用出来そうだ。女性が2人いるから条件にも合う。依頼の内容については息子から話を聞いているだろうが、ここはひとつ、君達にこの件を頼みたい」
「ちょうど今お伺いしていたところだったのですが、なぜ女性が複数名いることが条件なのでしょうか?」
アリサの質問に、先生は沈痛な面持ちで軽く俯いた。
「野盗に拐かされたとなれば、孫娘はもはや無事ではあるまい。家内達は連絡を受けて伏せってしまったが、わしと息子は既に覚悟は出来ておる。生きておるのか死んでおるのか、いずれにせよ想像したくもない程に惨いことになっているのだろう」
「君達には娘を出来る限り早急に、他人の目に触れること無くこの家まで連れ帰ってほしいのだ。特に、男の目には」
「なるほど、そういうことですか。軍では……」
2人の言葉を受けてアリサが呟いた。
軍隊は男所帯だ。
アリサがそうだったように女性の兵士や騎士などもいるけど、その数は決して多くはない。
先日ゴブリン討伐に同行した部隊も、千人規模の部隊だったのにもかかわらず僕は女性兵士の姿を見ていない。
確かに冒険者よりも軍に任せた方が盗賊の討伐も、拐われた人達の収容も確実だろう。
でもそうなれば当然女性達の収容も男性が対応し、彼女達は大勢の軍人達の目に晒される。
同情と憐憫と、おそらくはそれ以上の好奇の視線。
肉親の情として、この人達にはそれが許せない。
「うむ、言葉に尽くしがたい辱しめを受けた孫娘を、更に晒し者同然の目にあわせるなど断じて認められん。これを踏まえて、どうか引き受けてもらいたい」
「娘の無惨な姿を、これ以上大勢の不躾な目に晒したくはないのだ。頼む……」
僕達に頭を下げるレンダイ先生とロウダイさん。
可哀想だとは思うけど……どうしようかな。
僕は隣のアリサとユーナと顔を見合わせた。
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