9. いらい の ないよう
よろしくお願いします。
僕達が応接室に入るとメイドさんは「ただいまお飲み物をお持ちします」と言い置いて、急ぎ足で部屋を出ていった。
長椅子に腰かけて、アリサとユーナと3人で顔を見合わせながら待っていると、間もなく先程のメイドさんが戻ってきてテーブルにお茶を並べてくれる。
メイドさんに出直した方が良いか尋ねるとこのままもう少し待ってほしいとの答えだったので、出されたお茶を吹き冷ましながらその後待つこと30分程。
やがて部屋のドアが開いて先程の中年男性と、秘書のセインさんが入ってきた。
立ち上がって頭を下げる僕達。
中年男性は僕達に座るようにと手で示しながら僕達の対面に腰かけ、その後ろにはセインさんが控える。
中年男性は僕達3人に素早く視線を飛ばし、少しかすれた声で話し始めた。
「待たせてすまない。私はロウ・ダイ。このクロウ共和国の政府会議の一員である、レンダイの息子だ」
「父に倣って、ロウダイと呼んでもらおうか」と言われたので、僕達もそのようにする。
「お初にお目にかかります。僕は3級冒険者のコタロウと申します。こちらは妻でパーティメンバーのアリサとユーナです。何分無骨者揃いでございますので、多少の不調法はお許しいただけると幸いです」
僕の挨拶に、ロウダイさんは少し驚いたように目を見開いて「ほう」と息を漏らした。
「ああいや、すまない。思いの外丁寧な挨拶が返ってきたと思ってな。畏まる必要などはないから楽にしてくれてかまわない。依頼は父の名で出していたので本来は父がこの場にいるべきなのだが、今は体調がすぐれないため私が対応するので承知してくれ。それから先程は醜態を晒してしまったが、この事については他言無用にしてもらえると助かる」
「口外はしないとお約束します」
ロウダイさんの頼みに僕達は首肯する。
実をいえば多少の興味はあるけど、それでも人様の家の込み入った事情を他所に吹聴する趣味などは無い。
僕達の返答に、ロウダイさんは「感謝する」と言って疲れた笑みを浮かべた。
「それでは早速だが依頼の話をしたい。まずは我々の依頼を受けてくれたことを感謝する」
「それについてなのですが申し訳ありません、まだ依頼をお引き受けすると決めたわけではないのです。何分冒険者ギルドからは盗賊の討伐とだけしか聞いておりませんもので、敵の規模や状況などによっては僕達の手に余る可能性もあります。なので詳しいお話を伺ってから、お引き受けするかどうかのお返事をさせていただこうと思って、本日はお邪魔した次第です」
僕の返答にロウダイさんは「確かに」と頷いた。
「それでは順を追って説明する。ここから街道を西へ2日程の所に、ヤッヒルという名の村がある。ミッキ湖という湖の湖岸にある風光明媚な土地だ。先日、その村が盗賊の襲撃を受けた」
ヤッヒル……
確かさっきギルドでソランさんが言ってた、数日前に盗賊に襲われた村というのが確かそんな名前だったような。
「その村に常駐の防衛戦力や冒険者では防ぎきれず、盗賊は村内を略奪した後逃げていったらしい。しかしその際に、村の女性数人に加え、その村で静養中だった私の娘が拐われた」
なんでもロウダイさんの娘さんのリリナさんは生まれつき病弱であり、祖父のレンダイ先生の勧めもあってヤッヒル村で療養生活を送っていたところ、この災難に逢ったのだそう。
ヤッヒル村は空気も景色も良い場所ということで、レンダイ先生を始めとしたクロウ共和国内の名士やお金持ちの静養地にもなっている。
そんな場所だから十数人程ではあったけど有事に備えての人員は置いてあったし、リリナさんにも護衛は付けてはいた。
しかし今回襲ってきた盗賊は、どうやらそれを上回る戦力だった様。
リリナさんのことがあったので、ヤッヒル村からの知らせは真っ先にここレンダイ先生の家に駆け込み、それでギルドよりもいち早く事態の発生を掴むことが出来たということ。
村の安全については、既に軍とドーヴの警備隊から人員が送られることが決定している。
ところが盗賊の討伐に関しては、「数日だけ」との条件でレンダイ先生が軍の派遣や冒険者ギルドへの依頼にストップをかけていたのだそう。
話を聞いてアリサとユーナが悲痛な顔になる。
盗賊に誘拐された女性が一体どんな目にあわされるか、想像するまでもない話だ。
「その対応を君達には依頼したい」
「お話し中失礼します。その村で襲撃があったのはいつですか?」
ふと気になった僕は、話の途中ではあるけどロウダイさんに尋ねてみる。
ロウダイさんの言う「対応」の内容如何にもよるけど、この依頼、断る可能性が高くなってきた。
「4日前だ」
4日前、か。
……厳しいな。
ロウダイさんの答えに、僕は少し考えてから顔を上げた。
「……誠に残念ですが、お嬢様の救出をお望みでしたら、お力になることは難しいと思います」
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