6. ふうがわり の いらい
よろしくお願いします。
「さらっと帰ろうとしてますけど、お話はまだ終わってませんからね?」
誤魔化せなかったか。それならば……
「ああ、なんだか急にお腹が痛くなってきて……」
「それで、依頼とはどういう内容なんだ?」
「緊急依頼ってわけじゃなさそうだけど」
お腹を押さえてその場にうずくまる僕を無視して、席に座ったままだったアリサとユーナがソランさんと話を始めてしまった。
取り残される僕を見てホードさんが苦笑いしながら、「それでは、私はこれで」と部屋を出ていく。
「実は、このクロウ共和国政府会議の1員である、レンダイ先生からの依頼なんです」
しくしくと泣き真似をしながら席に戻る僕を横目に見つつ、取り出した手帳を開いてソランさんが説明を始める。
政府会議というのは、要はこの国の政府の中枢。
国民の代表者が集まって、政策や国の運営方針を話し合う機関。
王様のいない御前会議みたいなものだろうか?
そんな所のメンバーからの依頼とは、また大物が出てきたな。
そのレンダイという人は、ここドーヴの出身。
元はこのクロウ共和国が、共和制になる前の王国を治めていた王家に連なる家の出で、本名はレン・クロウ・ダイ。
国名と同じ『クロウ』という名字は名誉的なもので、公式的な行事や式典の時ぐらいしか使われることは無い。
それでレンダイ先生というわけか。
聞けばなんでも、本人がそのように呼ばれることを好んでいるらしい。
今は商会を経営していて、この町の名士の1人として政府会議に参加しているのだそう。
「それで依頼の内容なんですが、ギルドに来たのは『盗賊の討伐』とだけでして。詳しくは直接説明するので、レンダイ先生のご自宅に来てほしいとのことなんです。確か数日前に、西にあるヤッヒルという村が盗賊の襲撃を受けたという話がありましたので、もしかしたらその件についてかとも思うんですが」
今のところ特に討伐の依頼などは来ていないので、ギルドとしてはまだ動いてはいない状態らしい。
「討伐依頼か。でもなんでそれを私達に?盗賊の討伐なら他にもやれそうな人達いると思うけど」
ユーナの質問に、ソランさんは少し困った顔になった。
「それについてなんですが先方からの条件が幾つかありまして、『早急に動けること』『腕が確かなこと』『口が固いこと』『女性のみのパーティもしくはパーティに女性の冒険者が複数名いること』というものなんです」
「女性の冒険者が複数名……」
とアリサが呟く。
なるほど、それでアリサとユーナのいる僕達に話が来たわけか。
にしても確かに変わった条件ではある。
「なんか……変じゃない?」とユーナ。
基本的に盗賊やゴブリンやオークの討伐なんてのは、不測の事態があった際に暴行を受ける危険が高いという性質上、敬遠する女性冒険者も少なくない。
そんな仕事をわざわざ女性冒険者を指名して依頼をかけるなんてのは、一体どんな理由があるというのか。
「……まさかとは思いますが、討伐依頼というのは建前で、冒険者の中から愛人を見繕おうとしてるとかじゃないでしょうね。僕嫌ですよ、アリサとユーナと別れるなんて」
先方の家に顔を出した途端2人を拐われて手切れ金押しつけられてポイとか、冗談じゃない。
そんな僕の言葉を聞いて、横でアリサとユーナがそろって腕を組み、笑顔でうんうんと頷いている。
「いえ、さすがにそれは無いと思いますが……」
「なにぃ、ソランさんはアリサとユーナに魅力が無いと言うのですか。それは聞き捨てなりません。ここは2人の素晴らしさについてこの4人で徹底的に話し合い……うなぁう」
ソランさんに詰め寄ろうとした僕の首根っこを掴んで脇に除け、アリサが代わって話を続けた。
「確かに変わった条件ではある。だがもし何か後ろ暗いところがあるなら、ギルドに依頼を出したりはせずに直接冒険者に接触を図るだろう。おそらく討伐の依頼自体は真っ当なもので、それに付随して何か事情のようなものがあるのではないか?」
「う~ん、確かにそうかも……愛人募集なら『腕が立つ』よりも『美人』とかを希望してきそうだし」
アリサの考えを聞いてユーナが思案顔になる。
2人の言うとおりかもしれない。
もし変なこと考えてた場合、相手が高ランク冒険者だと暴れられて被害が出る可能性だってあるわけだし。
とにかくまずは事情がわからないことには始まらないか。
考え込む僕達に、ソランさんが頷いて言う。
「はい、ギルドとしてもそのように考えましてこの依頼を受理いたしました。もしこの依頼を受けていただけるのであれば、レンダイ先生のお話を伺った後で、差し支えない範囲でギルドにも報告いただければと思います」
「報酬については?」
「こちらも詳しくは直接話をしてとのことです。ただ最低でも1人頭大金貨は約束すると」
「大金貨か、大きいね」
呟くユーナ。
確かに1人につき大金貨はかなりの高額だ。
ただし逆に考えれば、少々面倒なことを頼まれる可能性ありということ。
「『白鷹の翼』とかは?彼女達なら高ランクだし、全員女性のパーティだし、適任だと思うんだけど」
僕が考えてる間にユーナが質問をして、ソランさんが答える。
「何分至急の対応を求めるとのことでしたので、まずは3級冒険者でアリサさんとユーナさんのいる皆さんにお声がけしました。お引き受けいただけなければ『白鷹の翼』への打診を検討しますが……」
ただ『白鷹の翼』は、ここドーヴではなくホウロの町を拠点としている。
ドーヴからホウロに使いなり便りなりを送ったりして、彼女達にこちらに来てもらってとなるとどうしても数日かかってしまう。
さらに場合によっては、彼女達が留守の可能性もあるわけで。
一応ドーヴには他にも腕利きの冒険者はいるのだけど、生憎と今動けそうなパーティには女性の冒険者がいなかったり、いても1人だけだったりで先方の要望からは外れてしまう。
そういうわけでここは是非、僕達にこの依頼を受けてほしいのだとソランさんは言った。
「う~ん、どうしようね?」
「私は……とりあえず話を聞いてみても良いと思う」
「私も。もし変なこと考えてるとしたらこんな大っぴらには動かないだろうし」
「なるほど。それじゃまず行って先方の話を聞いてみて、それから依頼を受けるかどうか考えようか」
それでもし胡散臭いものを感じたら、その時は僕達の手に余るって言って逃げてくれば良いか。
となると万が一荒事になった時用に、逃亡用の煙幕ボトルを準備しておいた方が良いかな。
「それでは、とりあえず先方の話を聞いてみます。その上で依頼を受けるかどうかは決めようと思うので」
僕の返事にソランさんは頷いて、テーブルの上に2枚の紙を差し出した。
「わかりました、ありがとうございます。それではこちらがレンダイ先生のお宅の住所です。本日であれば午前中は在宅とのことでしたので、この後向かっていただければと思います。入り口前に門番の方がいますから、ギルド証とこちらの紙を見せれば取り次いでいただけるはずですので。後、正式にお引き受けいただける場合は、お手数ですがギルドまで一度ご報告ください」
「わかりました」
そう言って用紙を受け取った僕に「よろしくお願いします」と頭を下げるソランさん。そんな彼女に僕は早速、
「それじゃまず最初に知る限りで良いので、レンダイ先生の人となりを教えてください。気さくな人ですか?それとも気難しい人ですか?あと好きなものとか嫌いな話題とかあれば知りたいです。それから何かお土産とか持っていく必要はないですか?無いと機嫌を損ねるような人ではないですよね?他には……着ていく服はこのままで良いですか?といっても一張羅みたいなものは無いんですけど。え~とそれ以外には……」
いつものごとく質問責めを始める僕に慌てながらも、「え~とえ~と……」と手帳をめくり出すソランさん。
そんな彼女にアリサとユーナが「すまないがいつものことだと思って……」「わかる範囲で良いからね」と声をかけていた。
◇
「コタって、盗賊とやりあったこと、あったって言ってたよね?」
「え~と、10人ちょっとの集団を討伐したことあったかな」
「お前1人でか?」
「うん、6人くらい燃やして4人くらい斬って、後1人情報を引き出すのに指を落として目を……」
「わかったもういい」
「可愛い顔してやることはやってるんだよねこの子」
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