30. ただひとり の せいぞんしゃ
よろしくお願いします。
僕達はその後特に問題もなく、無事に戦場となった街道の村に戻った。
村の周辺では、冒険者達がゴブリンの死骸の始末や魔石の取り出し、軍の人達が戦いの後片付けやキャンプの設営などをやっている。
僕達はまず皆で本陣がある村中央の広場に行き、コーガ副隊長やゴウラ小隊長からザック隊長に経過を報告した。
持ってきたゴブリンジェネラルの死骸を確認してもらい、軍の人達に収容してきた先行偵察隊の遺体を引き渡す。
「うむ、良くやってくれた。先行偵察隊の皆は残念だったが、敵も討てたことだし、彼らは我々の方で丁重に弔うので安心してくれ。それから、ゴブリンジェネラルの討伐も素晴らしい戦果だ。軍を代表して感謝する」
「こちらこそ、ありがとうございます。でもゴブリンジェネラルは僕だけじゃなくて、別動隊の皆さんと力を合わせての成果です。あくまでも『皆さん』が『僕のささやかな助力の上で』倒したもので、僕だけの功績では断じてありませんので」
「そ、そうか。後で彼等にも話を聞いて、功績にはしっかりと報いよう」
顔を近づけて1人だけの戦果ではないと強調する僕に引き気味のザック隊長と、僕をジト目で見てくる小隊の面々。
そんな彼等の視線から一生懸命目を剃らす。
僕は皆との挨拶もそこそこに後ろで「またこいつは……」という顔をしていたアリサとユーナと共に、そそくさとその場を後にした。
僕達は軍での用事を済ませて、足早に冒険者側の陣地に戻る。
まずはギルド職員のダツさんかホードさんを探して、アークさん達の遺体についての相談を……なんて2人と話しながら歩いていると、ふと前方に10人程の人だかりが出来ているのが目に入った。
近づいて覗き込んでみると、そこには殺気立った冒険者達と、それをなだめようとするギルド職員のダツさんとホードさん。
そしてそんな彼等に囲まれて、顔面をぼこぼこに腫らした『進撃の聖剣』パーティの1人、ヒルスの姿があった。
人だかりから少し離れた所で冒険者のまとめ役の、『黒の門兵』パーティのジンさんが腕組みをして静観していたので、挨拶がてら状況を尋ねてみる。
「ジンさん、お疲れ様です」
僕が話しかけると、ジンさんは固い表情を崩さずに横目でちらりと僕を見た。
「お前か、お疲れ。ゴブリンの巣を潰しに行ったって聞いたが、そっちの首尾はどうだ?」
「無事に終わって、拠点になってた廃村跡も始末してきましたよ。にしてもこれは……どういう状況で?」
「どうにもこうにも、見ての通りだ。アイツとその仲間がヘマして、そのせいでアーク達の先行偵察が全滅した。で、今皆で締め上げてるところだ」
「……彼等のせい?」
「本人は違うって言っちゃいるがな。ゴブリンの群れを蹴散らして掃討も粗方終わったところで、あの野郎森の中からヒョコヒョコ出てきやがった。この村の家から盗んだ食料食いながら森の中に隠れてたらしい。火事場泥棒狙いかってことで軍で取り調べた後にこっちに回されてきたんだが、向こうで自分等がゴブリンに見つかったみたいなことを吐いたんだそうだ」
低い声で語るジンさん。
なるほど、彼等がゴブリンの群れをここに誘導してしまったわけだ。
そのせいで仲間が死んだ上に、軍に犠牲者が出たことで冒険者としての信用が思い切り潰された形になった。
それは皆怒るだろう。
まあいずれは彼とも話をしなきゃいけなかったんだし、ここにいたのならちょうど良かったのかな。
僕はジンさんに、ゴブリンの拠点でアークさん達の遺体を発見したことを伝え、ギルドへの報告と合わせてヒルスと話をしに行ってもいいかと訊くと、ジンさんは黙って顎で人だかりの方を示した。
ヒルスの糾弾には加わっていないけど、彼も内心かなり腹に据えかねているのかもしれない。
僕達が罵声の響く一団の方へ歩いて行くと、先程から僕達に気づいてすがるような目を向けていたヒルスが、大声で助けを求めてきた。
「あ、あんたら!頼む、助けてくれ!」
助けるって何よ。
周囲の冒険者達の目がこちらに向く中、僕はヒルスに「君は後」と言い置いて、ギルド職員のダツさんの前に立つ。
「あ、皆さん……」
とこれまたすがるような顔を向けてくるダツさんにギルド証を示し、周りの皆にも聞こえるように少し大きめの声で告げた。
「ゴブリンの拠点になっていた廃村跡で、アークさん他先行偵察隊の人達と、『進撃の聖剣』パーティのメンバー2人、キャリーとマクトの遺体を発見、収容しました」
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