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24. ごぶりんと の かいせん

よろしくお願いします。

隊列の先頭から


「隊長、先発隊の兵が!」


という声が飛んで来た。


見ると隊の前方から、必死の形相でこちらに走って来る1人の兵士の姿。



兵士は「報告!報告!」とかすれ声で叫びながら、隊に駆け寄るとその場に崩れ落ちる。


彼は周りの兵士の人達に助け起こされ、1人が差し出した水を一気に飲み干すと、駆けつけたザック隊長に対して大声で告げた。


「この先の村に、ゴブリンの群れ数百が来襲!先行偵察隊は全滅の模様!現在先発隊と交戦中!!」



ゴブリンの群れが動いた。


その報告に周囲の空気が一変する。


あわただしく動き出す兵士の人達。


敵はやっぱりあの村に来たのか。


ところで今あの伝令の人、先行偵察は全滅って言った?


じゃあアークさんは?


一緒にいた冒険者や兵士の人達は?


僕の頭を、避難の途中で会った彼らの笑顔がよぎる。



どよめきが広がる中、ザック隊長が冷静に指示を出す。


「総員戦闘準備!!敵はもう目の前にいる!ダツ殿は冒険者達にこのことを伝えろ!それから伝令!」


矢継ぎ早の命令。それに応じてダツさんが隊列の後方に向かって駆け出し、2人の騎馬兵が隊長の前に走り出た。


「先発隊に通達!そのまま防御に徹し、粛々と我が方に向け後退せよ!決して焦って退くな!背を向ければ、敵はいきり立って噛みつくぞ!!」


「了解!!」と叫ぶと同時に、伝令の兵士が前方へと駆け出す。



僕がそれを見ていると横から、


「早速出番のようだな。このまま我々も行くぞ!」


と声がした。


見るとそこには、僕と一緒に廃村跡の偵察に出る予定のゴウラ小隊長。


そして返事をする間もなく隊員の1人が横から僕の首根っこを掴んで馬に乗せ、そのまま2人乗りで走り出した。


後方ではゴウラ小隊長の「では予定通り我々は、敵拠点の偵察に出ます!」という報告の声。


僕は走る馬の上から、遠ざかっていくコーガ副隊長に「アリサとユーナにこのこと伝えてくださーい!!」と叫んだものの、果たして聞こえたかどうか。




その後討伐隊はザック隊長の指示の下、街道とその両脇に軍が、さらにその両翼の森の中に冒険者達が展開する形で陣形を組んで前進。


前方で戦闘が行われているのを確認後、まもなくして討伐対象であるゴブリンの群れと激突した。


まずは騎兵が突入し、先発隊とゴブリンとの乱戦の中から生存者を確保。


続いて長槍を構えた歩兵が突撃しゴブリンの前衛を撃ち破る。


そして突撃に押されて周囲に散ったゴブリンを、両翼に展開した冒険者達が狩り立てていく。


しかしここで、ホブゴブリン・ゴブリンナイトといった上位種が行動を開始。


百を超えるとみられる上位種の猛反撃を受け、隊形を乱して崩れる軍前衛。


部隊長達が声を枯らして激を飛ばし、戦線を支えようとするも止まらない。


手柄首ありと見て乗り込んだ冒険者十数名も瞬く間に蹴散らされ、かえって混乱を助長する始末となった。


血気に逸った者達を追ってきた冒険者の後続がゴブリン勢を横から突かなければ、前線は総崩れとなるところだった。


これを危険と見た本陣は、各部隊に力を抜くよう指示。


戦線は積極的な指図も行わず、踏み留まることもせず、押されるがままゆっくりと後退する。


そこに本陣からコーガ副隊長率いる部隊が到着。


重装隊、槍隊を巧みに転用させて打撃を与え、さらに騎馬隊が突撃してゴブリンを追い散らす。


そこに両翼から態勢を立て直した冒険者の一部が再攻撃を仕掛け、大激戦となった。




僕はゴウラ小隊長率いる部隊に連れられて、そんな戦場を遠巻きにしながらゴブリンの拠点となっていた廃村跡へと向かう。


馬で森の中を走りながら、小隊長は激戦の続く戦場を見て呟いた。


「……乱戦で弓と魔法を封じられているな。初手の斉射で敵の数を減らせなかったのは痛い」


「やばいですか?」


「いや、多少手間取るだろうが、我らの勝利は揺らがんよ」


僕の問いに、ゴウラ小隊長は自信のある表情を崩さない。


それだけザック隊長のことを信頼しているということだろうか。



兵士が、冒険者がゴブリンが入り乱れて組み合い、斬り結ぶ戦場から、僕達のいる所にまで届く怒声と悲鳴。


その中からさらに聞き捨てならない言葉が飛んで来る。


「森が動いた!」


「敵の本隊が来るぞ!!」


「斥候が敵の大将を確認した!」


「ゴブリンキングだあ!!」



ゴブリンキング。


ゴブリンの上位種で『王』の名を冠したランク1級モンスター。


千単位の大群を指揮出来るだけではなく、個体としての戦闘能力も相当なものがあるらしい。


アリサとユーナは大丈夫かな。


下手に遭遇とかしてなければいいのだけど。



僕と一緒に騎乗している隊員の人にも戦場からの声は届いたらしく、


「ゴブリンキングがいたか……じゃあ隊長が動くな」


と呟くのが聞こえた。


「ザック隊長ならキングにも勝てますか」と尋ねた僕に、彼は口元に笑みを浮かべて答える。


「隊長は強い。あの方程強い方を、俺は他に知らない」


「話している時間はない。我々はこのままゴブリンの拠点に向かうぞ」


小隊長に促されて、隊員達は馬を進める。


僕達は戦場から離れて、山の中を廃村跡へと向かった。



「敵の新手が来るぞ!このままここで迎え討て!」


「あんたらの旦那はどこほっつき歩いてんだい!」


「わからん!」


「どっか行っちゃった!」


「ビビって逃げたんじゃねえだろうな!」


「「そんな可愛いげのある奴じゃない!!」」

お読みいただきありがとうございます。


また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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