表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/453

23. とうばつへ の しゅっぱつ

よろしくお願いします。

翌朝、早くに起き出した僕達は依頼への出発の準備と軽い基礎練を済ませて、集合場所である冒険者ギルドに向かった。


いつもは寝起きの悪いアリサだけど、こういう時などはきっちり起きる。



ちなみに昨晩の説明会でジンさんが言っていた夜明けの鐘というのは、こうした大きな町などで時間を知らせるために鳴らされる鐘のこと。


国や町によって違いはあるけど、基本的には『夜明けの鐘』と『昼の鐘』と『日暮れの鐘』の、1日3回鳴らされることが多い。


『夜明けの鐘』については、夜明けと名前がついているけど実際は日の出と同時に鳴らされるわけではなく、日の出から多少の時間が経ってから鳴らされる。


大体朝の6時から7時の間くらいに鳴らされると思えば間違いない。


『昼の鐘』は太陽が空の真上にきた頃、『日暮れの鐘』は空が暗くなってきた頃。


ぶっちゃけ鐘を鳴らす係の人の大体の感覚で鳴らされるので、そこまできっちりはしていないのだ。




しばらく歩いてギルドに着いて、先に来ていたキサイギルドマスターと『黒の門兵』の人達に挨拶。


後は集まってくる冒険者達を眺めながら待っていると、やがて外から大きな鐘の音が聞こえてきた。


まだ若干来ていない者もいるようだけどそのうち追い付いてくるだろうということで、ジンさんの号令で130人程がギルドを出発。


冒険者に加え、現地での状況確認ということでギルド職員2人が合わせて同行している。



後から追いかけてきた遅刻者達を加えながら東門の前に着くと、門の前には先日会ったコーガ副隊長が立っていた。


彼の側には兵士が数名ともう1人、背が高くて茶色い髪の中年くらいの男性。


その男性を見た時、僕の背筋がほんの僅か、すうっと冷えるのがわかった。


離れた所からだけどなんとなくわかる。


上手くは言葉に出来ないけれど、あの人きっと物凄く強い。


きっと彼がザック・ヨウソ隊長だろう。ということは……



彼は歩いていく僕達を認めて、手を上げて話しかけてきた。


見ると確かに整った顔立ちで軍人らしい引き締まった体つき、いぶし銀の魅力あるナイスミドルって感じだ。


「おはよう。今回は皆よく来てくれた。私は今回の討伐隊の隊長を務めるザック・ヨウソだ、よろしく頼む」


「冒険者を仕切るジンだ。わざわざ出張ってもらってすまねえな。相手が魔物なら本当は俺達が踏ん張らなきゃいけねえんだが、生憎と今は人手が足りなくてな」


ザック隊長とジンさんはそう言って握手。


対面するのは初めての様だけど、ジンさんのあの口調はどうやら誰が相手でも変わらないらしい。


ザック隊長も特に気にした様子はないので、どうやら今回は軍と冒険者とで張り合ってギスギスなんてことにはならなさそうだ。



「何、ホウロへの道の異常のことなら聞いた。今回は兵に実戦経験を積ませる良い機会だと思っている。気にしなくていい」


「そう言ってくれるとありがてえが、聞いてるか?今回のゴブリンの群れは……」


「ああ、上位種が多数いる可能性が高いらしいな。兵達にはそれも踏まえて腰を据えて挑むように伝えてある。万が一キングやジェネラルが出てきた場合は私が出るので、見かけたら至急報告してもらいたい」


「噂に名高い獅子剣ザック殿の太刀打ちかい。そりゃあ見逃せねえな」


そう言って笑い合う2人。



続いてジンさんのパーティメンバーと同行のギルド職員が挨拶して、次に僕達がジンさんに手招きされる。


「今回ゴブリンの群れを見つけた3人だ。行きはそちらにくっついて道案内と連絡係を頼んであるから、なんかあったら訊いてくれ。ちなみに全員3級だから、腕の方は問題ねえだろう」


ジンさんに促されて、僕達は前に出てそれぞれ自己紹介。


既に顔を会わせているコーガ副隊長が、僕達を見て軽く手を振ってきた。



「コタロウです」


「アリサです」


「ユーナです」


「ザック・ヨウソだ、よろしく頼むぞ。まだ若いようだが、ランク3級とは大したものだ」


そう言って隊長は僕達とも握手をして、


「さて、いつまでも話しているわけにもいかない、そろそろ出発するとしよう。我々の部隊は門の外で待機させているから、ついてきてくれ」


そう言って皆を連れて町の外へ。



そこには道の脇に、大勢の兵士の人達が待機していた。


思い思いに地面に座ったりして休憩していた彼らだったけど、コーガ副隊長の号令がかかるとすぐに立ち上がって隊列を作り、小隊ごとに手早く点呼を済ませる。


ザック隊長に部隊長達から人数の報告が終わると、隊長はひとつ頷いて声を上げた。


「それでは出発する!ラサギ方面へ向け、前進!!」


こうして僕達は千人規模の集団になって、ゴブリンの群れ討伐へと出発した。


荷馬車襲撃の調査依頼から、思いの外大事になっちゃったな。




ドーヴを出発してから1日。


途中で一晩野営して、僕達討伐隊は現在住民を避難させた村まであと少しというところに来ている。


本当なら少しでも早く現場に着きたいところだけど、急ぎすぎて現場に到着した時には全員くたびれて戦えませんでしたでは話にならない。


また、夜中に現場に着いてしまって敵の目の前で一晩お休み、なんて間抜け以外の何物でもないので、そこら辺は時間の調整をしながら行軍というのはする。


隊列はまず軍が先を歩いて、その後をジンさんが指揮する冒険者の集団が付いていくという形。


そして僕達3人と、同行のギルド職員の1人のダツさんという人が、隊長のいる軍の部隊本部にくっついて冒険者との連絡係のようなことをやっている。


出発前に言われた道案内などといっても、基本は街道をそのまま進むだけなので、現在は特に案内などする必要は無い。


なので道中ザック隊長やコーガ副隊長、それに軍の部隊長の人達に発見したゴブリンの群れの様子を話したり、こちらからは「国防軍と州軍というのはどう違うんですか?」とか「身分制度が無いこの国では、軍の立場の上下はどうなるんですか?」などと話を聞きながら、特にトラブルの発生なども無く行軍は進んだ。




そんな中、ふとあることを思いついた僕は、馬に似た魔獣に騎乗して歩いているコーガ副隊長に話しかけた。


「副隊長、ちょっと相談なんですが、もしゴブリンの群れが動き出していたら、僕達ちょっと別行動取らせていただいても良いでしょうか?」


「別行動?何かあるのか?」


突然言われて怪訝な顔の副隊長。


「いえ、群れを発見した廃村跡なんですが、あそこちょっと見てこようかなって。敵の主力は移動しててももしかしたら居残りがいるかもしれないし、あと今後今回みたいなことが起こらないように破壊してきた方が良いと思うので」



ゴブリンがまだ廃村跡に留まっていて、そのまま殲滅出来ればそれで良い。


もし動き出していたら、ということで。


たった今思いついたことで、冒険者側に行っていて今この場にいないアリサとユーナにも、まだ話してはいない考えなのだけれど。


僕の提案に副隊長は得心したように、


「なるほど、一理あるな」


と頷いて「話をしてくる」と翼の生えた赤いトラの形の魔獣に乗ったザック隊長の元へ歩いていった。



それから少しして副隊長が戻ってくると、


「隊長の許可が下りた。ただ冒険者だけを行かせるわけにもいかないから、こちらからも偵察として兵20名程を同行させる。君は彼らの案内ということで頼む」


と、連れてきた兵士の人達に顔を向けた。


彼らは全員馬に騎乗していて、大きな鎧や盾こそ装備してはいないもののそれぞれが長剣と弓、人によっては斧や鎚などを持った重武装の人達で、皆強そう。


普通の騎兵とは違う、ちょっと特別な任務を担当する人達なんだろうか。



僕は彼らの前に出て軽く会釈。


「冒険者のコタロウです。僕の急な提案に力を貸していただいて、ありがとうございます。よろしくお願いします」


「ヨウソ隊小隊長のゴウラだ。よろしく頼む」


僕の挨拶にゴウラ小隊長は、引き締めた表情を崩さずに答えた。


実直そうな感じの人だ。



「とはいえ、まだ敵が移動していると決まったわけでもないのだから、何も今すぐ動くことはない。その内に先発隊からの報告も来るだろうから、それを待ってから君達も動くのが良いだろう」


という副隊長の言葉に僕達も同意する。同行のギルド職員のダツさんにもこのことを伝えて僕達が隊を離れた場合のことをお願いし、僕が


「じゃあアリサとユーナが戻ったらこのことを……」


と言いかけたところに、それはやって来た。

お読みいただきありがとうございます。


また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ