22. とうばつ の せつめい
よろしくお願いします。
夕方までの空いた時間、僕達は昼食に装備品の手入れに食料品など必要な物の補充に日向でゴロゴロにと、急いで用事を片付ける。
最後に少しだけ宿で仮眠を取った後寝ぼけ顔のアリサを僕が背負って、薄暗くなってきた空の下3人でギルドの説明会へと向かった。
入口からギルドに入ると、正面のホールには既に100人を超える冒険者達が集合して、中は彼らの話し声で喧騒に包まれていた。
この人達が今回のゴブリン討伐に参加する人達か。
150人……いるかな?
緊急依頼を受けられたということは、最低でもランク5級以上の人達だろう。
3人でホールの隅の方に移動して少しの間待っていると、やがて奥から職員数名と、冒険者らしい男女4名程を伴ってキサイギルドマスターが現れた。
皆が彼女の姿を認め、ホール内の話し声が止む。
静かになったところでギルドマスターが口を開いた。
「こんばんは。まずは皆、こうして緊急依頼を受けて集まってくれたことに感謝します。話はある程度聞いてるとは思うけど、このドーヴから東の森の中で大規模なゴブリンの群れが発見されました。その数は1000前後で、おそらくは相当数の上位種がいると見られ、場合によってはゴブリンキングやゴブリンジェネラルが群れを率いている可能性もあります。放っておけば確実に周辺に被害が発生し、近くの道を通行する荷馬車への襲撃などこの町にも影響があると思われるため、早急な討伐が必要として緊急依頼を出しました」
ギルドマスターの話に、冒険者達が軽くざわつく。
聞こえてくる声は強気なもの、慎重なもの、キングやジェネラルという言葉に驚愕するものなど様々。
一拍置いたギルドマスターは、そんな彼らを見渡して話を続けた。
「敵の数が多いので、今回は軍と共同での討伐になります。私達は先日のホウロとドーヴ間の調査に人が出ているということもあって人数が少ないので、ゴブリンの主力は軍が対応して、皆にはその支援をしてもらうことになります。皆の指揮については、3級パーティの『黒の門兵』にお願いしました。今後の詳しい動きについては、彼らから話を聞いてください」
ギルドマスターはそこまで言うと横に目配せをする。
それに応じて、先程彼女と一緒に奥から出てきた冒険者達が進み出た。
彼らは重戦士風の男性3人に、魔法使い風の女性1人。
男性3人は30代くらいで、女性はもう少し若いくらいだろうか。
今まで会ったことはないけれど、冒険者達の指揮を任されるということは、このギルドでも一目置かれてる立場の人達なんだろう。
その内の男性1人、中でも一際大柄な体格の人が前に出て声を発した。
「3級パーティ『黒門』リーダーのジンだ。ギルドマスターからの要請で、今回お前らを仕切ることになったんでよろしく頼む。で、聞いてのとおり、まあ面倒なことになってる。相手がゴブリン共ってことで本当なら俺達の稼ぎ時なんだが、残念なことに人手が足りねえ。だから今回は軍がメインだ。まずは今朝、群れを見つけた3級のアークと、4級パーティの『乱れ風刃』と軍の部隊と合わせて、10人ぐらいが偵察に出た」
あの人が今回の冒険者のまとめ役か。
ジンさんという人の話を聞いて、冒険者達が仲間と小声で話しているのが聞こえてくる。
「アークさんが見つけたのか」「流石だな」「いつもくっついてるガキ共は?」「どうでもいいわあんな奴ら」など。
ガキ共というのは『進撃の聖剣』のことだろう。
やっぱり評判は良くないらしい。
とはいえ彼らは6級なので、この討伐には参加出来ないからここには来ていないはず。
ジンさんの話は続く。
「先行偵察に続いて、軍から100人が威力偵察ってことで今日の昼にドーヴを出発した。そして主力部隊の1000人が明日の朝この町を出発する。俺達はその本隊にくっついて現場に向かうことになる。向こうではゴブリン共と出くわしたら、敵の主力は軍がやる。俺達は軍の両脇で、討ち洩らした奴や逃げる奴を片付けるっていう段取りだ。軍の食い残しでつまらねえと思うかも知れねえが、それでもホブやアーチャーやメイジあたりが流れてくる可能性は十分にある。腕に覚えのある奴は、うまく当たるように祈っといたら良い」
ジンさんの冗談めかした言葉に、冒険者達から軽く笑い声が上がった。
ジンさんも彼らに笑い返してみせて、
「後は……道中の飯だが、これは今回軍の持ちになるそうだ。ただし、現場に着いて事が始まってから食う分だけは、自分で用意しといてくれ。戦ってる最中に飯なんか炊いてる暇はねえからな。明日の朝は夜明けの鐘の時間にここに集合して、それから東門に向かう。遅れんなよ。俺からは以上だ」
と話を終えた。
続いて再びギルドマスターが前に進み出て、
「最後に、今回の報酬は参加パーティ1組につき金貨1枚。討伐完了後に成功報酬としてもう1枚。加えて討伐の功績に応じて別途上乗せがあります。以上、何か質問は?」
との言葉に、冒険者達からぱらぱらと手が上がる。
「今回軍は誰が指揮するんですか?」
「隊長にザック・ヨウソ、副隊長にコーガ・エーベルだ」
ジンさんの返答に、冒険者達が軽くどよめいた。
「ザックが出るのか」「やべえな、大物食われちまうぜ」などという言葉が聞こえてくる。
副隊長のコーガさんは昼間会ったけど、隊長も有名人なんだろうか。
皆の反応からして、きっと2人共強い人なんだろう。
元軍人であるアリサに知ってるか聞いてみると「会ったことは無いが噂だけなら」とのことだった。
その後いくつか戦闘終了後の動きや追加報酬などについての質問が上がり、途切れたところで本日は解散。
ギルドを出ていく冒険者達に続いて僕達も帰ろうとしていたところで、後ろから肩を叩かれた。
振り返るとそこには、先程ギルドマスターやジンさんと一緒に前に出ていた重戦士の男性。
彼は「よう」と軽く手を上げて、僕達に話しかけてきた。
「あんたらがコタロウとアリサとユーナだな?俺はセキ、さっき前で話をしてた『黒門』のメンバーだ。俺達からちょっと頼みたいことがあるんだが、一緒に来てくれねえか」
特にこの後用事なども無いので了承して「こっちだ」と歩いていく彼の後を付いて『黒の門兵』とギルドマスターがいる所へ。
付いて行った先では、先程前に出て話をしていたジンさんが僕達に目を向けた。
「よう、来てもらって悪いな。さっきも名乗ったが、オレは3級パーティ『黒門』のリーダーやってるジンだ。よろしくな」
「コタロウです。で彼女達が妻のアリサとユーナです。こちらこそよろしくお願いします」
僕達が挨拶すると彼は「かしこまんなよ。んな柄じゃねえ」と笑いながら言う。
「ギルドマスターから聞いたぜ。若いが3級なんだって?大物食いやったらしいじゃねえか」
「まあ、勝てたのは運が良かったというか……出くわしたのは運が悪かったというか……駄目元で急所を狙ったら上手くいったというか……」
僕の言葉にジンさんはふんふんと頷く。
「まあ、その辺の話はこの件が落ち着いたら聞かせてくれや。で、頼みたいことなんだがな。明日は軍の方に行って道案内をやってもらいてえんだ」
「道案内?」
「ああ。今回のゴブリンの大群、見つけたのはアークとお前らだろ?んでアークは今現場に行っちまってるからな。後は実際に実物を見て、現場を知ってるのはお前らだけってことになる」
まあ軍も偵察隊を先行させているし、実際間違えるような道でもないのだけど念のためということと、行軍がてら発見時の詳しい状況を聞かせてほしいとのことで軍から要望があったのだそう。
どうせならとついでに行軍中の軍と冒険者との連絡役みたいなことも頼まれて、断る理由もないので了承する。
「すまねえな。それじゃ話はこれで終わりだ。明日からよろしく頼むぜ」
と片手拝みをするジンさん達と、隣のギルドマスターに挨拶をして、僕達はギルドを出て宿に戻った。
◇
「討伐隊の隊長はザックって人か。私は知らないけど、1000人単位の部隊長ということはすごく強いのかな?」
「率いる人数が多ければ強いというわけでもないが、相当な剣の使い手という話は聞いている。後はかなりの男前だとか……」
「へえ、それはちょっと楽しみだね」
「え、イケメン!?アリサ、ユーナ、この依頼は断ろう!」
「「まあまあまあ」」
「何その嬉しそうな顔!?」
「「いやいやいや」」
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