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19. ひなん の どうちゅう

よろしくお願いします。

さて、村人達が準備を終えて集まるまでにはまだ少し時間がありそうだけど、今のうちに何かやることはあるかな……あ、そうだ。



僕は積み上げてあったゴブリンの死骸をマジックバッグにしまい込むと、アリサとユーナに「ちょっと森に仕掛けしてくる」と伝えて急いで森の中に入った。


村から少し離れた場所に数ヶ所罠を張る。


罠といっても落とし穴とかではなく、薪を小さめに切った木の板をロープにいくつも結びつけて、それを足下に張り巡らせておいたのだ。


乾燥した木の板は、触れ合うとからからと甲高い音を立てる。


敵がこのロープに触れると振動で板同士がぶつかり合って音を立て、敵が来ていることがわかるという仕掛けだ。


ゴブリンが来る様子は今のところ無いし、この後しばらくこの村は無人になるわけだけど、別に今じゃなくても討伐隊がここに到着した時などに役に立つこともあるかもしれない。


無駄になるかもしれないけど、やらないよりはましだろう。




仕掛けを終えて村に戻ると、僕を見つけたユーナが声をかけてきた。


「コタロウ、あともうちょっとで皆集まるよ」


そう言う彼女の向こうでは、それぞれ避難の荷物を持った村人達が集合していて、村長さんが急いで人数を数えている。


「118、9……あと4人だ!誰が来てない!?」


「セイの奴とカミさんと子供が……あ、来た!」


大きな荷物を背負った村人の1人が指差した先には、赤ちゃんを背負い、子供の手を引いてこちらに走ってくる家族連れの姿。


「よし、これで全員だ!」


一家が広場に駆け込んで来るのを見て、村長さんが声を上げた。


それを聞いて、アリサが皆に指示を出す。


「それでは今からドーヴに向かおう!道中は私達が護衛する!おそらく2晩ほど野営することになるから、すまないが了承してくれ!では出発だ!」


アリサはさすがに元軍人だけあって、こういうのの指示出しが様になっている。


本当ならこの村からドーヴまでは1日くらいの距離なのだけれど、今は大人数で年寄りや子供もいるので、もう少し時間がかかると思われる。



彼女の指図で、村人達は大体3列ぐらいに並んでドーヴに向け出発した。


大体というのは、彼らは別に騎士や軍人というわけでもないし、中には荷車に子供や年寄りを乗せている人もいるので、統制などはあまり期待出来ない。


大きくバラけたりさえしなければそれでいいのだそう。


僕達3人はというと、列の前にアリサが立って皆を先導。


中間辺りに弓で全体をカバー出来るユーナ。


そして最後尾に、気配に敏く、敵が追ってきた際などには火炎ビンなどで牽制の出来る僕が付いて、後方を警戒するということになっている。


こうして僕達は村人達123人と共に、ドーヴまでの道程を向かった。


後はとにかく、不測の事態が起きないことを願うばかりだ。




幸い後ろからゴブリンの大軍団が押し寄せてくることも、何かやたら強い魔物などに横から襲われたりすることも無く、僕達は森の中で2夜を明かした後ドーヴまでの道を順調に進んでいる。


大都市の近くということで強力な魔物や盗賊などは基本的に出てこないらしいし、そもそもこれだけの大人数が移動していれば、それだけで小さな魔物などは近寄ってはこない。


ドーヴの方で何か規制でもかかっているのか、道中で旅人や行商人などにはほとんど会うことは無かった。


それでもたまにドーヴの方から人が来ることがあったので、その人達にはこの先でゴブリンの群れが発生しているので注意するよう、出来ることなら討伐が済むまでこの先には行かないように伝えている。


話を聞いた人の反応は、危険ならばと来た道を戻って行く人もあり、なるべく急いで抜けるからと先へ進む人もあり。


そんな感じでその日の朝方、あと後少しでドーヴが見えてくるという場所に差し掛かった時、前方からアリサの「前から馬車が来るぞ!」という声が聞こえてきた。



村人に道の端に避けるよう指示していると、走って来た馬車が列の横で止まった。


見れば御者台で手綱を取っているのはアークさん。


乗っている馬車は行きと違って幌付きのものになっているので、きっと無事ドーヴに着いて、そこで交換してきたのだろう。


アリサが皆に一時休憩を指示し、僕達3人で馬車に駆け寄る。


「アークさん、お疲れ様です。そちらの首尾はどうですか?」


「ご苦労様。あの後俺達から報告を上げて、ギルドで討伐隊が組まれることになった。それからゴブリンの規模が大きいということで、軍も動くことになったよ」


「そうですか、良かった……」と、ユーナがほっと息を吐く。




アークさん達の通報に当然の話、ドーヴの冒険者ギルドは大騒ぎになったのだそう。


3級冒険者で功績も信用もあるアークさんの証言に加え、証拠としてホブゴブリンの死骸を出されたということで、ギルドは信頼性の高い報告と判断。


直ちに行政府と軍に人を走らせると同時に、討伐隊の派遣を決定した。


掲示板に緊急依頼を貼り出し、ゴブリンの群れの位置を知っているアークさんと共に、ちょうどギルドに顔を出した4級冒険者パーティを捕まえて先行偵察を依頼。


運輸ギルドから馬車を借り上げ、報告を受けて軍から飛んで来た兵士5名と合わせて、偵察隊として送り出したというのがこれまでの経緯。




馬車の荷台を覗くと、そこには冒険者と兵士と合わせて10人程の男性が乗っていて、僕に気づくと「よう、3級さん」と声をかけてきた。


奥には、食料品の箱や水の入った樽などの物資が山になっている。


「おはようございます。3級冒険者のコタロウです。アークさんからも聞いたと思いますが、とにかく大量のゴブリンがいるので、くれぐれも気をつけてお願いします」


と頭を下げる僕に皆は笑顔を返してくれる。


「何、俺達はあくまで偵察だから、もし攻めてきたらさっさと逃げるだけさ」


「村の人をドーヴに連れて行くんだって?後少しだからそっちも気をつけろよ」


「ドーヴに着く頃には討伐隊の用意も出来てるだろうから、後はそちらと話をしてくれ」


「わかりました。あと村の外の森の中にちょっと仕掛けをしてあります。地面にロープを張って、何かが触るとからからって音を立てるようにしてあるので、もし音が聞こえたら注意してください」


「ああ、わかった」



挨拶を済ませて、彼らの感心した顔に見送られて馬車の前に戻ると、そこではアリサとユーナがアークさんと話をしていた。


「……それじゃ、村人の避難についても話はしてある。町に着いたら警備隊から指示があるだろうから」


「わかった。ところでアークさん、『進撃の聖剣』の3人は?」


「ああ、あいつらなら置いてきた。さすがに今回は一緒に連れては行けないからな」


「うん、その方が良いね」


アークさんの言葉にアリサもユーナも頷く。


確かにこれは彼らでは力不足だろう。


ゴブリン=ザコという認識で、集団になった連中の危険さも理解してなかったみたいだし。


あの態度では他の冒険者達との集団行動も、あまり上手くいかなさそうな気がする。


血気に逸って群れに突撃でもかまそうもんなら、目も当てられないことになる。



「よし、では俺達は行ってくる。君達も村人達をよろしく頼むぞ。この件が片付いたら、今度一緒に飯でも食いに行こう。それじゃあな」


話が終わると、そう言ってアークさんは馬車を走らせ、僕達は去っていく馬車に手を振って見送るのだった。

お読みいただきありがとうございます。


また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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