17. そうていがい の てき
よろしくお願いします。
「これは……」
「うわぁ……」
「最悪の事態だな……」
今僕達がいるのは、山の中の廃村を望むちょっとした高地。
木々の中に身を潜めて様子を見るその先には、廃村内を埋め尽くす程のゴブリンの大群がひしめいていた。
数は……300?500?
いや、多分もっといる。
千単位ってことは……おそらくないとは思うけど、それでも脅威的な数。
さらに、それぞれが武装しているのが遠目からでもわかる。
あれはもう、群れというより軍団だ。
廃村跡を完全に占拠しているゴブリンの大軍勢に、僕達全員が言葉を失っていた。
そんな中、誰かの発したごくりと生唾を飲み込む音で我に返った僕。
急いで小声で皆に指示を出す。
「周囲の警戒を!」
僕の声に気づいた皆が、慌てて周りに注意を向ける。
こんな敵の大群の目の前で、もし偵察にでも見つかろうもんならその時点でアウトだ。
幸い周辺に敵の気配は無い様子。
僕は続けて皆に提言をする。
「退きましょう。僕達だけでは対処出来ません」
「賛成だ」
「異議なし」
「そうだね」
僕の言葉に、アークさんとアリサとユーナからは即座に首肯が返ってきた。
しかしそこに異論を唱える者達が3人。
『進撃の聖剣』のヒルスとキャリーとマクトである。
「なんだよ、あんたら3級なんだろ。戦わねえのかよ」
「偉そうにしてるくせに、いざとなったら逃げるのね」
「3級なんて言っときながら口ほどにもない。ゴブリンなんてザコだろ」
僕は「今はとにかくここから離れて」と文句を言う3人を引っ張って皆と一緒に廃村跡から距離を取り、そこで彼らを見据えて説明をする。
「あのね、ただでさえあの大群に加えて、ゴブリンは集団戦が出来る魔物だよ。それにゴブリンの上位種がどれぐらいの強さかわかってて言ってるの?あれだけの規模の群れなら多分、相当な数の上位種いるからね?」
ゴブリンは通常のものであればランクは5級。
これがホブゴブリンやゴブリンナイト、アーチャー、メイジ等の上位種でランク4級。
ただしこれは個々の魔物として見たランクであり、群れを組んでいた場合はランクが1つ上がる。
群れの規模によっては更にランクが上がる。
それだけ、ゴブリンの群れというのは脅威と見なされているのだ。
今回僕達が発見した群れは数百匹単位。
しかも偵察部隊にホブゴブリンという上位種がいるということは、本隊には一体どれだけの戦力が控えているのか、正直想像もつかない。
それに一番大きな理由として、
「仮に戦って運良く撃ち破ることが出来たとしても、あの大群を殲滅することなんてこの少人数じゃ無理。それで奴らを逃がせばどうなると思う?たとえ雑兵であっても逃げられれば、そいつらにこの近隣の村や集落が襲われる。僕達だけじゃ駄目。こっちも大人数そろえて、一気に根こそぎにしないといけないんだ」
「で、でもそれは……アークなら……」
「彼の言うとおりだ。気づかれない内に急いでここを離れるぞ!」
何か言い返したいけど反論が見つからない様子の彼らを連れて、僕達は先程のゴブリンとの戦闘が行われた場所に戻った。
急いで周囲に敵の気配やゴブリンの死骸の取り残しが無いかを確認すると、それから僕はマジックバッグから壷を取り出し、ドーヴの肉屋でもらってきた家畜の血と臓物を周囲に撒き散らす。
「それは?」
「証拠隠滅。敵に仲間が殺されたってことを知られると警戒されます。なのでその痕跡を隠したい」
死体であれば回収して隠すことは出来るけど、問題は血痕。
こんな森の中で、飛び散った血の痕を消すことなんてまず不可能だ。
それなら上書きしてしまえということでこの対処。
敵の偵察にこの戦いの跡が見つかったとしても、何か獣を捕まえて喰ったんだろうと思ってくれることを期待する。
実際側には鹿の死骸がそのままになってるし。
「そんな小細工で隠せるわけが……」と愚痴るマクトに「やらないよりはまし」と答えて、僕達は急ぎ山を下った。
手ごろな川でもあれば臭い消しで入って逃げたいところだけど、あいにくこの付近には無さそうだ。
森を抜けて街道に出た僕達は『クリーン』の魔法で顔のドーランを落とし、皆でドーヴの方角に向かって走り出した。
◇
「アークさん、ここから1番近い村か集落は?」
「この先の、来る途中に泊まった村が確かそうだ」
「今馬車が待機してる村ですね。じゃあすぐにそこに行ってこの事を伝えて、住民を避難させましょう」
「あれだけの数だから、多分すぐに森の中の食べ物を喰い尽くす。連中がエサを探して動き出したら、真っ先にあの村が襲われる。あまり時間はないよコタ」
「村民の避難誘導は私達がやるので、アークさんは馬車でドーヴへ向かって、ギルドに討伐隊の出動を要請してください」
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