16. おもいあがりへ の せっきょう
よろしくお願いします。
「え?……いや……」
僕の問いかけに驚いて口ごもるヒルス。
先程ゴブリンと戦っていた際、僕は新手が来ることの警戒もあって可能な限り周囲に注意を払っていたのだけれど、そんな中で彼ら『進撃の聖剣』は一切戦っている様子が無かった。
アークさんと僕達の4人で襲ってきたゴブリンを全て倒した後に、木の後ろなど物陰から出てきて勝った勝ったと騒ごうとしたというところ。
この3人、アークさんが見込んではいるみたいだし、たとえまだ低ランクで腕っぷしも弱かったとしても何かしら役に立とうとする意志があるのならということで、態度などの不安はあったものの今回一緒に来ることに同意はした。
ただ今のこれはいけない。
僕は突然言われて戸惑う様子の、そんな彼らを睨み付けながら言葉を続ける。
「さっきゴブリンに見つかったの、君のせいだよね?で、ゴブリンが襲ってきたら君達3人、戦うわけでもなくただ隠れてたよね?どういうつもり?調査の邪魔をしたいの?」
「ま、待ってくれ」と間に入ろうとしたアークさんをアリサが捕まえて「アークさん、少し」と離れた所に引っ張って行った。
それを見送って、僕は再び言葉に詰まっている彼らに顔を向ける。
「何か役に立とうとするでもなく、ただ付いて来て騒ぐだけっていうなら一緒に来ないでほしいんだ。邪魔、っていうよりも危ないんだよ」
「で……でもさっきは、あんたらで十分だって思って。実際倒せて!」
「さっきはたまたま対処出来たってだけで、場合によっては1人がやったヘマでパーティが全滅することだってざらにあるんだよ?さっきみたいなことを今後も続けるようなら、そのうち私達がキミ達のせいで殺されることになる。さっきゴブリンに見つかったことだって、その様子じゃ悪いと思ってなかったでしょ?そんな人達とは一緒になんて動けないよ」
助けを求めるように目を向けたユーナからも厳しい言葉をかけられて、彼らは怒りに拳を震わせる。
「お……俺達は、いざというときの奥の手なんだよ!アークがそう言ってるんだ!」
顔を真っ赤にして叫ぶヒルス。
確かに、彼らに頼ることがあるとすればそれは本当に最後の手段ということになるだろうから、そういう意味では奥の手と言えるのかもしれない。
とはいえ、
「大きい声出さないで、敵が寄ってくるかもしれないから。あのね、いざというとき役に立つにしても、だからって普段の行動を邪魔してくるような奥の手だったら僕達には必要無いんだよ。はっきり言うけど、君達ここで帰って。このまま一緒に行動するのは危険だし、君達は依頼を受けたわけじゃないから罰則だって無い」
僕の言葉に、3人はさらに目に見えて怒りを募らせる。
誰が立てたものか、ぎりっという歯ぎしりの音。
「ふざけないでよね……!さっきから偉そうなことばっかり!」
「何が3級だよ!どうせ何か卑怯な手を使ってランクを上げたんだろう!お前らくらいなら僕達だって!」
怒声を上げて攻撃の構えを取る3人。
即座に僕は両手に引き抜いたククリをヒルスとキャリーの首に押し当て、ユーナは弓につがえた矢の先をマクトの眉間にぴたりと向けた。
一瞬何が起きたのかわからない様だった3人。
でも自分達が今どういう状況なのかを理解すると、その顔がみるみるうちに青ざめる。
僕達の動きにすら反応出来ないとか、大した奥の手じゃないか。
「お前らくらいなら僕達だって……何?」
「……」
固まって声も出せない彼らにもう戦意は無いと判断して、僕達は軽く息を吐く。
武器を引こうとしたその時、横からアークさんが駆け込んできた。
後ろからは少し遅れてアリサが歩いてくる。
「ま、待ってくれ!こいつらのことは俺が謝る!今後は言うことを聞かせるから、ここは俺に免じて勘弁してくれ!」
「アークさん……」
その場で頭を下げるアークさん。
さすがにこれ以上どうこうするつもりもないので、僕はユーナと合わせて武器を収め、下を向いたままのアークさんに声をかけた。
「いいですよアークさん。調査はまだこれからだし、行きましょう」
「……すまない」
「ただし、また同じようなことがあったら私達は別行動を取りますから、お願いしますね」
ユーナの最後の釘刺しに、アークさんは消沈した顔で頷いた。
それから僕達は、改めて目標の廃村に向けて行動を再開。
今の一件もありお互い気まずいということもあって、今度は僕とアリサとユーナが先を歩き、後ろからアークさんと『進撃の聖剣』がついてくるという形になった。
後ろからは相変わらず彼らのお喋りが聞こえてくる。
これまでと違うのは、それが僕達に対する文句ということ。
「なんだよ、偉そうに」「さっきちょっと油断したからっていい気になってさ」「もっとちゃんとした勝負なら、あんな奴ら……」など、一応小声で話してはいるようだけど、こっちにもしっかり聞こえている。
いちいち目くじらを立てても仕方ないので彼らは無視することにして、僕はアリサに小声で話しかけた。
「アリサ、さっきアークさんとは何て?」
「……さすがに増長が目に余る。このままずるずると今の状態を続けていると、いずれ取り返しのつかないことになりかねない、とは言っておいた。この依頼が片付いたらきつく言い聞かせる、とは言っていたが……」
「あの様子じゃ……どうだろうね」
横で聞いていたユーナも呟く。
今のところアークさんが彼らを叱りつけたりする様子は無く、彼らの態度も変わる様子は無い。
多少は堪えたのかもしれないけど、本当にこれ、大丈夫なのかなあ?
かなりの不安を抱えた状態で僕達は森の中を進む。
敵はさっき倒したので全部とかだったら嬉しいなあ。
これ以上何事もなく終われば良いんだけどな。
……なんて思っていた時が僕にもありました。
◇
「なんかね、あの3人いざという時の奥の手なんだって。アークさんがそう言ってたんだってさ。ね、コタ」
「うん……まあ、本人が勝手に言ってるだけなのかもしれないけど」
「奥の手?最後の切り札ということか?奥の手の使い方間違ってないか?後でアークさんにその辺も訊いてみるか」
「訊けるかなぁ?あの3人いつもアークさんにべったりだけど」
「まあ、機会があったらで良いんじゃない?」
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。
裏話
アークさんは『進撃の聖剣』の3人に対して「お前達は奥の手だ」みたいなことを言ったことはありません。
「いざという時にしっかり動いてくれれば良い」的なことを言ったことはありますが、それをヒルス達が誤った方向に解釈しています。




