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9. かり の しゅうせい

よろしくお願いします。

見つけた、あれが盗賊の隠れ家だな。


おそらく洞窟か、廃集落の跡地か何かを拠点にしてるんだろうと思ってたけど洞窟だったか。




僕の視線の先には小さな崖に、多分自然に出来たと思われる横穴の入り口。


立て幅は成人男性より少し高いくらいで、横幅は人が2人並んで通れるかどうかというところ。


洞窟の周囲はちょっとした広場のようになっていて、入口の前には武器を持って立っている男が1人、見張りだろう。


馬は近くには見あたらない。


そして僕が追ってきた足跡は、その洞窟の中へ続いている。


奥行きがどれくらいかはわからないけど、これくらいの規模の穴なら盗賊の隠れ家としてはちょうど良さそう。



ただ思うのが貴族の屋敷の門番じゃあるまいし、犯罪者の隠れ家なんだから、見張りがああやって堂々と入口前に立ってるってどうなんだろう?


ここは見張りも、隠れて監視しなきゃいけないところだと思うんだけど。


まあここに来るまでの痕跡を隠そうともしてなかったし、警戒しながら歩いてたけど罠のようなものも無かったから、誰かに見つかるなんて思ってなくて、見張りは魔物が出た時などの連絡用に立たせてるってところだろうか。


それとも何か、人が近づくと「ここは○○盗賊団のアジトである!通ることはまかりならん!」とか言われたりするんだろうか。




まあいいや、これならこれでやりようはある。


むしろ集落を隠れ家にしていた場合よりも楽かも。


なんせ盗賊が1ヶ所に集まっていて複数の建物に分散したりしてないし、出入口も限られているわけだから。


それにこれまでの痕跡やあの見張りの様子からして、盗賊団といってもどっかの戦の敗残兵の集まりや、傭兵団崩れみたいな軍組織じゃない。


おそらく町を追われたチンピラや犯罪者が何人か集まって旅人を襲って、それに味を占めたみたいな感じだろう。


それならなんとかやれるかな。


あとは出来ればもう少し情報が欲しいな。



僕はリュックを隠し、地面に這いつくばって気配を立てないようにゆっくり進む。


出来る限り洞窟に近づくと、藪の中に潜んでここに来るまでに集めてきた木の枝を削りながら、少し様子を見ることにした。




しばらく見ていると、洞窟の中から1人の男が出てきて見張りの男に声をかけ、それまで見張っていた男が洞窟の中に入って行った。


見張り交代か。


てことは見張りは基本1人でローテーション制、多分下っぱの役目なんだろう。


てことは次の交代は1時間先か2時間先か。


15分とか30分なんてことはあるまい。



さっきまで見ていた限りでは、中の盗賊が頻繁に様子を見に来るということもなし。


そして洞窟の中からは、大人数の笑い声や大声での会話などが聴こえてくる。


多分打ち上げの最中なんだろう。


実際今見張りに立っている男も少し酒が入っている様子だし、「なんでオレが……」みたいなことをぶつくさ言っている。


宴会に参加出来ないのでふて腐れているんだ。



てことは、しばらく誰も出てこない可能性が高い。


人質のことを考えれば、時間の余裕もあまり無い。


仕掛けるなら……今!




両手に握ったロープをピンと張る。


僕は小石を拾い、見張りが欠伸をした瞬間を狙って僕のいる反対側に投げた。


石が木に当たり、下の茂みに落ちてがささと音を立てる。


「ん……何だ?」


見張りが音に気を取られた一瞬を狙い、可能な限り音を立てないようにして藪から跳び出しダッシュ!


「ぁえっ!?ガグェッ!?」


猫的身体能力をフルに使って素早く見張りの後ろに回り込み、男の首にロープを引っかけてそこから背負い投げ!



一瞬で首が締まって意識を失った男を藪の中に引っ張り込み、そのまま少し離れたところまで引きずっていく。


リュックを隠した所まで連れてくると、男の口にぼろ布を詰め込んでそれから洞窟を確認。


誰か出てくる様子は……無い、中からは相変わらず笑い声。


よし、気付かれてないな。



僕はそれから、男が気絶してるだけでまだ生きてることを確認し手足を拘束、背中をどついて叩き起こす。


「ンガ?ガーーーーッ!?」


目を覚まし、自分の状態に気づいて暴れ出した男を押さえつけて、剣で喉を軽く刺した。


「騒ぐな、大声を出せば殺す……!」


低い声で脅しつけると、男は目を見開いておとなしくなった。


剣は首に軽く刺したまま、口の中の布を取ってやる。


「騒げばこのまま刺す。死にたくなければ答えろ。中には何人いる?」


「ひぎっ……い……言うかよ、糞が……」


ガタガタ震えながらも強気に言い返してくる男。


良い度胸じゃないか。



僕は首の剣を更に少し押し込む。


「へぁぐ……っ!ど、どうせ言ったら殺すんだろ?」


「訊かれたことに正直に答えれば殺さない。約束する」


「し、信じられるかよ……!」



駄目か、無理もないっちゃ無理もないけど。


でも、こっちもだからって諦めるわけにもいかない。


いつ誰かが外の様子を見に穴から出てくるかわからない以上、ゆっくり話してる時間も無い。


ここは……切り替える必要があるか。



前世で家族からちょくちょく言われてた言葉『スイッチが入る』


名前をつけるなら~狩りモード?


僕の顔から表情がすとんと抜け落ちる。


頭の中がこれまで以上に、澄み切った冬の夜みたいに冷める。


「そうかそうか言いたくないのかそれは困ったね。じゃあ頑張って言いたくなってもらわないと」


何か嫌なものを感じたのか、盗賊の顔が青ざめる。


「な……何する気だよ……?」



まあ意地張るのは結構だけど、なるべく早く気が変わって言いたくなることをお勧めする。


言っとくがこちとら、獲物をいたぶるのは得意中の得意だ。

お読みいただきありがとうございます。


猫は決して、可愛らしいだけの動物ではないということで。



家猫が獲物を捕まえた際にいたぶるのは、あれは狩りの訓練らしいですね。


人に飼われている猫は狩りをすることが少ないので、たまに機会があると捕まえた獲物を使って練習をしているのだそうです。

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