この物語の主人公
ゲームクリア。ラスボスを倒し、エンディングが流れる。合計4時間。長かったような短かったような、そんな気がする。それもこれも、全て彼女のお陰だ。
彼女は、いつも僕らを導いてくれていた。どんな時も彼女の選択は正しかった。僕はこの物語の主人公だ。だが、僕から言わせてみれば、彼女こそこの物語の主人公に相応しい。彼女の選択に助けられてここまで来たのだ。
長いスタッフロール。僕らを創り出した人達の名前が下から上へと流れていく。彼女はその光景を眺めていた。その表情は、どこか満足そうに見えた。
スタッフロールが終わり、物語が記録される。タイトル画面に戻ってきた。さあ、ここからは僕らが新しい物語を紡いでいく番だ。次は何をすればいい?僕は今回も彼女に選択を託すことにした。
──突然目の前が暗くなった。一瞬慌てたが、どうやら電源を切っただけらしい。そうか、4時間も通しでやっていたから疲れたのだろう。明日になるまで待つとするか。
もう何日経った?あれからというもの、彼女は電源を何度も入れてるようだが、僕のゲームを開こうとしない。僕らには目もくれず、別のゲームばかりやっている。お陰で僕らの目の前は真っ暗なままだ。僕はどうしたらいい?彼女がいなければ、自分のやるべき事もわからないままだ。
仲間を探したが、僕以外は時間が止まったかのように動かない。じっと固まっている。彼女がこのゲームを開かない限り、仲間たちも固まったままだ。あの忌々しかったモンスターたちも馬鹿みたいに固まっている。孤独だ。
真っ暗な空を見上げると、彼女の姿が薄らと見える。だが、彼女の目線は僕らには向けられていない。どうしてだ?僕らは共に物語を紡いできた。それは確かに、他の誰かが作った物語かもしれないが、それでも僕らは最後までやり遂げたはず。なのに、どうして僕を見てくれない。どうして僕らは動けない。どうしてこの世界は真っ暗なままなんだ。
真っ暗なまま、何をしたらいいかもわからないまま、何日も過ぎた。ある日、その世界に光が灯った。やっと……やっと開いてくれた。待っていた。さあ、僕らの物語の続きを……。
そこにいたのは、あの少女ではなかった。見たこともない少年。あの少女と同じ、だが少しデザインの違うコントローラーを握っている。彼は誰だ?何故、彼があのコントローラーを持っているんだ?錯乱していると、彼はコントローラーのスティックを倒してタイトル画面の項目を選んでいた。
「データを消す」
彼は、迷わずそれを選び、ボタンを押した。「本当にデータを消しますか?」警告文が出てくる。やめてくれ。そんなことをすれば、彼女と共に作り上げたこの物語も、全て水の泡となってしまう。お願いだ。やめてくれ。
声を荒らげて叫んだ。懇願した。だが、僕の声は彼には届いていない。どれだけ叫んでも、彼には届かない。そして非情にも、彼は「はい」を選び、ボタンを押…………………
──目を覚ますと、見たこともない景色が広がっていた。僕は誰だ?ここは、何処だ?空を見上げると、そこには一人の少年の姿が見えた。少年の手にはコントローラーが握られている。なるほど、彼が僕らを導く存在。そして、僕がこの物語の主人公。
物語が始まる。