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06、クマのポテンシャルの高さと職業体験

「クマちゃん! それ運んだら昼休憩行っておいで!」

「はーい」


 今、私は建材を運ぶお手伝いをしている。

 様々な仕事を体験してやりたい事を見つければいいというルストの提案だ。


 最初は食事処の給仕を体験させてもらった。

 日本(むこう)でファミレスのバイトをしていたから接客は慣れたもので、片手でお皿を二つ運んだら何故か拍手された。

 お店の人もこのまま働いてほしいと言ってくれたのだけど……。

 ルストが迎えに来てくれた時、たまたまお客様に絡まれている所を見られてしまい却下されてしまったのだ。


 次に体験したのは刺繍屋さん。

 細かい作業が多くて目が疲れるけれど、図案通りの刺繍が出来た時の達成感は大きい。

 意外な事に針に糸を通すだけで「初めてで成功だとっ⁈ すごい!」と大袈裟に称賛された。ずっと座って作業するより、小さい穴に糸を通す事の方が難易度が高いらしい。

 細い針金っぽいものがあったので、糸通しを作ってやり方を教えたら泣かれたのはビックリしたけどね。

 しかし、作業内容によっては男性と個室に二人きりだとルストが知った途端「他の仕事を探そう」とまた却下された。


 そして今やっている家を建てるお手伝いも、すでに辞めるように言われている。

 北極熊の潜在能力の高さか、重い建材も軽々運ぶ事ができた。家を建てるのも初めての経験で、みんなで協力して完成させるという工程もワクワクする。

 しかし、建材が倒れそうになり通りがかりの獣人さんが巻き込まれそうだったので、庇って私が代わりに下敷きになった。痛くもなかったし、怪我もなかったことに私自身驚く羽目になる。

 まさかこれも北極熊の力? 神様、プレゼント多すぎです。

 そして案の定ルストにバレてこの仕事も今日限り。


「親方ぁ、クマのヴィティ休憩いただきまーす」

「はいよー」


 屋根の上で作業している親方に声をかけて休憩に入る。

 (親方はサルの獣人。人間の耳の位置の少し上に大きい耳が付いていたし、高所での作業は必ず長い尻尾を巻き付けて命綱のようにしていたのですぐにわかった)



 なぜ毎回ルストが私の仕事に関して決定権があるのかというと、獣人の国クティノスで身分証明書を作るためには、獣人である事以外に門の中に住んでいる獣人が保証人になる必要があるのだ。

 何か問題を起こした場合、保証人となった獣人がすべての責任を負う。その代わりに働き口から住む場所まで口出しできる権利があるとの事。


 ちなみに私はルストの家に住んでいる。

 あの日一緒に寝たという衝撃が大きすぎて、ひとつ屋根の下で暮らす事を普通に受け入れてしまった。

 ルストの家に増えていく私の服や、食器。その他たくさん物をルストが毎日プレゼントしてくれる。


 仕事の事もそうだし、ルストは私に過保護すぎると思う。

 でも少しも嫌じゃない。




「報告書を書くまでが仕事なんだよっ! 文句を言う前にちゃんとしやがれ!」


 組合の前を通りかかった時、ドスの効いた聞き覚えのある声と吹っ飛ばされる屈強な体格の獣人が目に入った。


「自分の記憶力のなさを受付のせいにすんなっつーの!」


 声の主は受付のカンガルーのお姉さん。

 組合に扉が設置されていないのは、毎日のように誰かが蹴り飛ばされているからだったりする。


「あ! クマさーん。お昼ですか? わたしも丁度休憩しようと思ってた所で、よかったら一緒に食べませんかぁ?」

「はい。是非……(そこに転がっている獣人さんはいいのかな?)」


 私を見つけた受付のお姉さんが声をかけてきた。さっきまでの低い声ではなく高く可愛らしい声。

 受付のお姉さんとは、時間が合えばお昼ごはんを一緒に食べるほど仲良くなれた。


「全く! 気まぐれにダクを討伐したと思ったら、『倒してやったんだから金を寄越せ』って態度がでかいんですよぉ! 門の中に住んでいる獣人の事を『群れるしか能がない軟弱者』とか言うくせに食料や衣服を買っていくの矛盾してません?」


 文句を言いながら分厚いステーキをどんどん口に運んでいくお姉さん。

 草食獣(カンガルー)がお肉を食べる光景も見慣れてきた。


 ごく少数だが、門の中で生活しない獣人がいるらしい。ダクと遭遇しても一人で討伐できるほど強いという事なんだけど、態度が悪くてこうしてお姉さんがイライラしているのだ。

 もしかして身分証明書を作る時、保証人が必要なのはこういう人達のせいかもしれない。


「ダクの出現場所を詳しく教えてほしいのに『てめぇで調べろ』『そんな説明なかった』って言うんですよ⁈ 何様ですか! この野郎ぉー!」


 あ、ステーキ三枚目だ。お腹大丈夫かな。


「お姉さんの説明はいつもわかりやすくて助かっていますよ」

「……クマさん」

「それに強い獣人を蹴り飛ばせるお姉さんの方がすごいです!」

「クマさーん! 大好きぃ!」


 お姉さんが目をうるうるさせながらも手は規則的に動き続け、ステーキをペロリと平らげた。


「最初、クマさんも門の外にいる連中と同じだと思って警戒していたんです。でも、仕事ぶりの評判がすこぶる良いですし誤解してました。ごめんなさいぃ」


 食後のお茶を飲みながらお姉さんが謝ってくれた。

 最初に会った時尻尾を見せてくれたのは、遠回しに何か問題起こしたら尻尾(コレ)で攻撃するからなという牽制の意味があったんだって。


「いくら(つがい)とはいえ、サビネコさんがあんなに信頼していたのも納得ですぅ」

「……お姉さん、番って何ですか? 私とルストは違いますよ?」

「え?」

「え?」


 少し垂れているのが定位置のカンガルーの耳が垂直に立ち上がった。ウサギみたい。

 お姉さんの信じられないという表情に、私もさらに疑問を深める。


 ……番って獣人の中では一般常識だったりしますか?


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