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04、初モフりと頬ペロ

 会った事もない神様。言葉と文字が不自由しないだけでもう充分です。私へのプレゼントはサービスしすぎではないでしょうか。

 いや、でもこの世界でのSは最弱・適性なしって意味かもしれないし。


「Sなんて称号、中々お目にかかれないものを見させてもらえるなんてついてますぅ」

「チィッ…………‼ アイツ今度会ったら殴る」


 感動している受付のカンガルーのお姉さんと不穏な空気を纏っているお怒り中のルストの反応で、なんかすごいというのはわかった。

 あと、ルストが何か喋っていたが声が低すぎて唸り声にしか聞こえない。


「狩人適性Sってどういう意味ですか?」


 私の質問に受付のお姉さんがすぐ答えてくれた。


「狩人にも序列がありまして、Sは努力次第で最高位の狩人になれる才能があるという意味でーす」

「ええっと、Sって英語ですよね?」

「エーゴ? それはわかりませんがSは国ごとの規格を統一するため、異世界人が持ち込んだ言葉を使用しているらしいですよぉ」


 サラリと出てきた異世界人という言葉に、その存在は当たり前に認識されているのだと思い知る。

 異世界人もいたんだ。私と同じ地球の人……確定だよね。


「国ごとで呼び方が違うと色々と面倒なんですよ。狩人も他国では冒険者と言ったり、ダクも魔獣や害獣なんて獣呼びされているので心外です! あ、でも適性がSのクマさんがいればダク討伐も楽になるかもですねぇ」

「ダクって一体……ぅわっ!」


 いきなりルストに抱き上げられた。

 先ほどまでのお姫様抱っこではなく、片腕で身体を抱き上げる縦抱きだ。目線が急に高くなり怖くてルストの頭にしがみつく。


「ヴィティに危険な事をさせるつもりはない。それより身分証明書だ」

「はーい。半分はこちらで保管しますね。組合にお金を預けて頂ければこれを見せるだけで支払いもできますよ。ご検討くださーい」


 あの光っていたガラス板がいつの間にか半分に割れていた。受付のお姉さんがその片方を手に取り、私達に差し出す。

 ルストは奪うように受け取って足早に組合を後にした。




「ルストどうしたんですか? 私、何かしましたか?」

「ヴィティは何もしていない。まさかクマがここまでとは思っていなかっただけだ」


 ルストは無表情だけど、猫耳がずっと反り返ったままだ。耳のてっぺんは日の光に透けてとても綺麗。

 思わず手を伸ばして目の前にある猫耳に触れる。


「っ⁈」

「ふわっふわっだ。あったかーい」


 猫耳の内側から生えている耳毛は髪の毛とは違いとても柔らかい。そのまま耳全体を撫で上げ、耳の付け根をマッサージするように指の腹で揉みこんでいく。

 反り返った耳がピンッと立ち上がり、気持ちいいとばかりに少し垂れた。


「……ヴィティ、これ以上はやめてくれ」


 つい楽しくて夢中でモフってしまった。ルストの顔が真っ赤だ。

 そして周りの人も驚愕の表情を浮かべ固まっている。


「もしかして耳を触るのダメだったりしますか?」

「家族や(つがい)なら問題ないのだが、それでも外ではあまりやらない」

「ごめんなさい」


 ルストは話しながら片耳だけぴくぴく動いている。恥ずかしい仕草だろうか。

 口では謝りつつも可愛いなと頬が緩んでしまう。すると、足が地面についた。ルストに下ろされたのだ。そのまま顔が近づいてきて頬をペロリと舐められた。


「なっ! なっ! なぜに⁈」

「お返しだ。人前で耳を触るのは頬を舐めるのと同義だと思ってほしい。次も触ったら舐め回すからな」


 意地悪な顔で自身の唇を舐める仕草は色っぽい。

 心臓の音がうるさくて無言でこくこくと頷くしかできなかった。




 その後、ルストは私を抱っこせずに歩かせてくれた。もう耳は触らないのに。

 その代わり迷子にならないようにと手を繋いでいる。抱っこよりは恥ずかしくないので、私はこっちのほうが嬉しい。


「お? ちゃんと身分証明書持ってきたんだな。偉いぞ」


 門に戻ってきた。黄色い髪のトリのお兄さんが笑顔で出迎えてくれる。動くたびに後ろの跳ねている髪がぴょんぴょんと揺れ動く。

 トリのお兄さんは身分証明書を受け取ると、何かの紙に記入しながらルストに話しかけた。


「そうだ、サビネコ。さっき採取から帰ってきた連中がダクを見たって話してた。今ごろ組合で討伐依頼出していると思う。たぶんお前さんに声がかかるぞ」

「なんで俺……」

「今、他の奴らは別の依頼で出払っているんだよ。話ではかなり大型らしいし、サビネコが適任だろ?」


 またダクだ。そしてルストが討伐するらしい。

 討伐という言葉を使うくらいだから危険だとわかる。ルスト一人で大丈夫だろうか。そんな事を考えているとトリのお兄さんと目が合った。


「クマの嬢ちゃんが適性あるなら、そっちでも……」

「俺がやる」

「わかった、睨むな。ダクは西の鎮守の大岩にいたってさ」

「すぐに行く」


 ルストは私の手を強く握ると「一人にはしたくないが」と話し出した。


「できるだけ早く戻る。それまでここで待っていてくれ。結界内なら安全だから」

「……わかりました。怪我しないでくださいね」


 一緒に行きたいが確実に足手まといだ。だけど、ルストと離れたくない気持ちもある。

 会ったばかりなのにどうして……。

 私の不安が移ったのか、ルストも申し訳なさそうに眉を下げる。


 お互いしばらく見つめ合っていたら、トリのお兄さんの殊更明るい声が聞こえてきた。


「だいじょーぶだって。サビネコは単独討伐何度も成功させてるし。帰ってくるまでクマの嬢ちゃんには、サビネコの昔話聞かせてあげるからね! あっという間に時間が経つよ」

「お前と二人きりが一番危険だ。ヴィティ、やっぱり一緒に行こう。絶対守る」


 さっきと正反対の事を言い出したルストは、私に背を向ける形でしゃがみこんだ。


「急ぐから乗れ」



 こ、これは、もしかして。今度はおんぶを体験するんですかね……?



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