名前を決めたい
登場人物紹介
キタキツネ・アミール
神殿の神官。モフモフ尻尾。再生と浄化の力がある。
ルストの師匠。前世の記憶あり。番の神官長に近づく奴はオスメス関係なく排除したい。ヤンデル。
実はモフモフ尻尾は神官長が毎朝ブラッシングしてくれる賜物。
神の御使い
常にフードを被って口元しか見えない。口調はウザい。
地球の神にイタズラして怒られた結果償いとして手伝いをさせられている。死と審判を司る神。
実は神だとわかっても態度を変えないルストの事を密かに気に入っている。
ウサギ・神官長(名前は決めていない)
種類はロップイヤー。垂れ耳。アミールの番。心の声を聴くことができる。その気になればクティノス中の声を聞き分けられる。
実は前世の記憶あり。前世アミールを看取った元人間。
人間と獣人の違いは色々あるが、妊娠期間も全く違ったようだ。
人間の妊娠期間は十月十日。
獣人の妊娠期間は一月。
しかも私は最初妊娠しているなんて気が付かなかった。お腹も全然大きくならなかったから。でも、予兆はあったと思う。
ルストの作ってくれるごはんが美味しくて美味しくて何度もおかわりしたし、力がみなぎってくる感じがして岩にパンチして砕いたりしていた。
極め付けは「今なら飛べそうな気がする!」と、住んでいる家の屋根から飛び降りた事だ。
「何やってる! ヴィティ!」
「あ、ルスト。風で受け止めてもらうの気持ちいいね! もう一回お願いします!」
「ダメだ。最近様子がおかしい。神殿に行くぞ」
神殿に向かっている途中、ルストにたくさん怒られたのに「ルストが私の事、考えてくれてる!」と謎の感動もしていなぁ。
今考えれば相当おかしかったよね。
そして妊娠の発覚。出産予定日は十日後という驚きの連続だった。
「ネコとクマちゃんの子どもになれたのが嬉しいのはわかるけど、このままじゃクマちゃんが怪我するから少し落ち着いて」
キツネさんが私のお腹に手を当てて言葉をかけた途端、身体の力が抜けた。
「神官長がね、『うれしー!』『はーく! はーく!』『あーたーい!』『まー! るぅ! すきー!』という声がうるさいくらい響くって言ってたのよ」
どうやらお腹の子が喜んでいて私まで影響を受けていたらしい。
そしてあっという間に出産。
痛くて痛くて二度と産みたくないこの野郎とさえ思っていたのに、赤ちゃんを見たらどうでもよくなった。
人間の赤ちゃんはサルに似ていると言われるが、獣人の赤ちゃんは……――――
「ぴぃやぁ」
「ぴゃーん」
ピンクでつるつるで細長く、ウーパールーパーそっくりだった。
ウーパールーパーの状態から少しずつ体毛が生えてきて、七日程でぷくぷくに大きくなり、なんの種族かわかっていく。成長が早すぎて目が離せない。
産まれた子はネコとクマ。よく一緒に寝る時ほっぺとほっぺをくっつけてお互いもたれるように寝るので可愛い。
首が痛くならないのかな? 幸せそうだからいっか。
ちなみにここまで獣の姿のままです。名前もつけていません。
自在に人型になれるようになって初めて名前をつけるものらしい。子どもの意思に反して名前で縛るのはよくないそうだ。
言葉が喋れるようになってから、子どもに名前を選んでもらう。親の仕事は名前の候補を決めておく事。
「名前の候補、何にしましょうか」
「俺の希望はヴィティの前世の名前を入れたい。一文字でも入っていれば呼べると思うんだ」
「あ、ならルストの名前も入れたいです。ルストのルと、私の前世の名前の真冬を合わせて……ルマ! ルフ! ルユ!」
「ルマとルフはともかく、ルユは言いにくいな」
次はルストのスでやってみよう。スマ、スフ、スユ。なんかいまいち。
なら、ルストのトで……トマ。さっきから名前が二文字だから今度は伸ばしてみよう。
「トーマ! トーフ! トーユ!
んん……トーマはともかく残りは豆腐と灯油を連想するからなしですかね」
「トーマもなしだ」
ルストの声が地の底を這うように超低音。唸り声みたい。顔は普通だけど、ネコ耳が反り返って不機嫌マックス。どうしたんだろう。
「まさかクティノスでは不吉な名前なんですか?」
「いや、個人的に気に食わないだけだ」
トーマと名のつく人に嫌な事でもされたのかな。
結局ルストはそれ以降はお耳も元に戻って名前の候補を決めていった。
◇
御使いの独り言
「トーマは、あの子が刺されて生き残った未来での彼氏の名前なんだよって言えばいいのにぃ〜。嫉妬深いよね。
あれ? なんか寒気がする。まさか覗いてるのバレちゃったかな。今度会った時殴られないようにしようっと!」
◇
そんなこんなで、ある日子ども達を二人同時に抱っこしていたら急に光って人型になった。
人型になってわかったことがある。
ネコの子は、茶色、黒、白が配色された三毛猫だったんだけど、人の形になると男の子だと判明した。
子猫の状態だとわからなかったんだよね。
そして、ネコの子はとてもうるさかった。
「まぁああああぁあぁぁぁあ! めんしゃーーい!」
こんな感じでずっと泣いている。
クマの子は女の子で、我関せず状態でスヤスヤと寝ていた。マイペースだね。
「何かあったのか?」
「る? るぅ? るうぅうぅ! めんしゃーーい!」
騒ぎを聞きつけてルストが部屋に入ってきたけれど、ネコの子はルストにもギャン泣き。泣いている理由がわからないから、どうすればいいのかな。
「謝罪は受け取った。俺もヴィティも怒っていないから安心するといい」
「みゅーぅ」
ルストが頭を撫でると安心したのかネコに戻ってしまった。とりあえず泣き止んでくれてよかったよ。
「ルストすごいですね。私、焦るばかりで何もできませんでした」
「謝っているみたいだから話を合わせだけで、実は俺もよくわかっていないんだ」
二人で首を捻っていると、鈴を転がしたような可愛い声が聞こえてきた。
「ネコはね、パパとママにけがさせたことをきにしていたの」
寝ていたはずのクマの子が起きていた。
さっきも思ったけど、人型になるとすぐおしゃべりできるのね。すごい。
「そうか。ネコの子は俺を取り込んだ元ダクか。確かに気配が似ている。気にしなくていいのに」
「教えてくれてありがとう、えっと」
「マト。マトってよんでね。パパ、ママ」
クマの子、改めマトはふんわり笑った。心臓を撃ち抜かれたらしいルストが、口元を押さえてプルプルしている。
名前の候補に『マト』はあった。ちゃんと聞いていたんだね。
ちなみに、ネコの子は名前の候補一覧を全部読み上げさせられて『フユト』以外では返事をしなかった。とても猫っぽいと感心した。
◇
「ヴィティ? 笑っていたが良い夢でも見たのか?」
「……ルスト。フユトとマトが初めて人型になった時の夢を見ていました」
「ああ、泣きながら謝ったやつか」
ベッドで寝ている私の頭を撫でながら、ルストが懐かしそうに目を細めた。
今、私は二回目の妊娠中なのだが、ほとんど寝て過ごしている。今度はお腹の中に三人いて、全員大型獣のため魔力がゴリゴリ吸われているらしい。(キツネさんを通じて神官長が教えてくれた)
ルストは守りやすいと喜んでいた。一回目の妊娠で私が飛び降りた事をまだ根に持っているみたいなの。
次に産まれる子ども達も人型になった時に盛大に泣き叫ぶのかな。元気に産まれてきてくれるだけで充分なのにね。
自分のお腹を撫でて、もうすぐやってくる楽しい未来に思いを馳せた。
オマケ〜御使い視点〜
「御使い、聞きたいことがある」
「なになになーにぃー? なんでも聞いて!」
「御使いは俺にルストと名をつけてくれたが何か意味があったのか?」
僕が一番最初に提案した名前を深く考えもせず「それでいい」と言った君が気にする日が来るなんてね。番を得ると変わるもんだねー。
「ドイツのヴルストからとったんだよ、美味しそうだよね……わあっ! 殴ろうとしないで! 本当はドイツ語でルストはサビって意味なの!」
「そうか」
嘘。本当は古代語で幸せ掴む者って意味なんだよ。幸せになってね。
「それはそうとして、この前覗いていただろ? 殴らせろ」
逃げよう。
番外編もお付き合い頂きありがとうございました!




