最終話。ルストとヴィティと
「冷たいですが驚かないで下さいね」
ここはクティノスで一番大きい広場。
私の背後にいる人達に声をかけて雪を制限なく出すと、目の前が一面銀世界になった。
周りにいた人達が「真っ白!」「ひんやりする」「雲が落ちたのか?」「すごーい!」と、それぞれ声を上げながら雪に向かって走り出した。
あのダクが大量に発生した事件は負傷者も死者も出ず無事に終息したそうだ。
「今までのダクと違って攻撃もしないし、討伐に来た狩人を見るなり『お前じゃない』みたいな態度で自然と核になった変なダクだったらしいのよ。でも浄化は必要だったから忙しい事には変わりなかったね」
キツネさんが笑いながら教えてくれて、原因の私は本当に申し訳ない気持ちになった。
怪我人が出なかったのはよかったけれど、迷惑をかけてしまったのでお詫びとして慰労会を企画した。
雪を見た事のないこの国の人のために、雪遊びをしてもらおうと思ったのだ。キツネさんと遊ぶ約束もしていたし。
お祭りの屋台みたいな感じで、焼きとうもろこしやじゃがバター、焼き鳥なども提供している。討伐に関わった人と神殿の人を招いたのだが、噂が広がり、続々と人が広場に集まって来た。
サビオや綿棒、その他の新商品のお披露目兼先行購入の場でもあるのでハリネズミさんは「儲かるわ」と喜んでいた。
「クマちゃん、これらの商品は他国にも輸出する事になったんだって? すごいね!」
とうもろこし片手にキツネさんが話しかけて来た。今、輸出って聞こえたような。
「その話、初耳なんですが」
「サビオも綿棒も、ついでにあの薄い手袋も他国にないものだからね。獣王が交渉の手札が増えたって喜んでいたよ」
「そんな偉い人まで⁉︎」
どんどん規模が大きくなっている気がする。獣王は今、他国の視察中で不在なのだが連絡は取れるようで私が考案した品々の事を知っているらしい。
向こうの世界の知識で、私の手柄じゃないです!
「次はじゃがバター食べようっと」
私の心とは裏腹に、キツネさんは尻尾を楽しそうに揺らしながら去っていった。
「あったかい飲み物どうぞ」
さっきまで雪だるまを作っていたハリネズミさんとトリさんに飲み物を差し出す。
「ありがとう、クマさん」
「丁度欲しいと思ってたんだ。ありがとー」
指先を赤く染めたハリネズミさんの代わりにトリさんが飲み物を受け取った。ハリネズミさんは雪遊びで冷えたのか、座っているトリさんの脚の間に収まっている。ラブラブか。
「クマさんのおかげで、あたしランクが上がったの。ありがとね」
「ハリネズミさんの努力の結果ですよ」
何度も試行錯誤して良い物を作ろうとするハリネズミさんじゃなければ、サビオは出来なかったと思う。
無事に番になったと、ハリネズミさんから教えてもらった時は嬉しかった。お似合いですね!
「トラさんとお姉さんと一緒に雪だるまを作っていましたよね? あの二人は?」
「あっちで戯れ合っているわ」
ハリネズミさんの目線の方向を見る。
「わたしの雪だるまの方が丸くて綺麗ですぅ!」
「俺の方がでかいだろ!」
何かの勝負でもしていたのか、雪を投げ合いながら言い争っていた。あの二人はケンカップルか。
「クマちゃん! 雪合戦しようよ!」
キツネさんに手を取られて、お姉さん達の戦いに参戦した。私とキツネさんVSカンガルーお姉さんとトラさんだ。
「あっちの雪玉すげぇ痛いぞ!」
「仕方ないです。協力しますよぉ」
ケンカしつつもお姉さんとトラさんは仲が良いな。息がピッタリだから。
でも、雪国出身に勝てるわけないよね。経験値が違う。雪の中で生き生きとしているキツネさんは本当にすごかった。
それを見て周りの人も参加し始めて、結局敵味方関係なく雪を投げ合っていくのはお約束。
「ヴィティ、雪が減って来た」
「あ、はい。今、追加しますね」
ルストに呼ばれて抜け出す。
いきなり大量の雪が降り注いだら埋もれるから、空から少しずつ降らす事にしよう。
上空に雲をかけて雪を降らせていく。みんな手を止めて空を見上げ始めた。
集中していたら身体から突然力が抜け、ルストが支えてくれなかったら確実に地面に倒れていた。
「すみません」
おかしい。力を使いすぎたのかな。身体が熱い。頭がぼーっとする。あと、何故か無性にルストにくっつきたい。
気がつけばルストに抱きついていた。
「ヴィティ……まさか、発情期が来たのか?」
「はつ? え? わかんない」
声をもっと聞きたい。良い匂いもする。グリグリと頭をルストに押し付けた。安心する匂いだ。ルストの猫耳も可愛い。手を伸ばして猫耳を触る。
「ふあふあ、きもちいい」
「おい、これからしばらく休む。誰も訪ねてくるなよ」
ルストが誰かに声を掛けて私を抱えて走り出した。
家の扉を蹴破る勢いで開けたルストに性急にベッドに押し倒される。
「ヴィティ、いいのか。このまま本当に番にするぞ」
「ん、どうぞ」
走ったせいかルストの目尻がほんのりと赤い。
どうやって番になるかわからないが、任せておけば大丈夫だと思う。
「初めて君を見て助けられてから、俺の心の中にはヴィティしかいない。獣人は一途だ。これから俺の全てをかけて唯一の伴侶を愛し抜こう」
ルストの顔が近づいてきて、額に軽くキスされた。誓いのキスみたい。私も何か言った方がいいのかな。
でも、ベッドに押し倒されている状態で好きとか恥ずかしくて言えない。
「……毎日モフるんで覚悟して下さい」
「それはちょっと。ヴィティは俺のネコの体が目的なのか?」
「言い方! モフりたいと思うのはルストだけです」
「まあ、それなら。だが毎日は困る」
「えー。モフりたい」
「ヴィティ、もう黙ろうか」
そう言って私の口が優しくルストの唇で塞がれた。そのままペロリと舐められ、びっくりして口を開くと舌が入り込んでくる。
初めての他人の熱にどう反応していいのかわからない。舌を絡めとられ、吸われる。自分の喉から出る情けない声も、全部ルストに吸い取られた。唾液が溢れないように飲み込んだ時には、酸欠でいっぱいいっぱいで何も考えられない。
「……以前、人前で耳を触ったら舐め回すと言ったよな。覚悟してくれ」
ルストの金目が楽しそうに煌めいていた。
◇
私とルストが番となったその後……。
私は双子を産んだ。ルストと私の色が混じった三毛猫の男の子と、ルストの茶色と首元に私の白が入ったツキノワグマの女の子だ。
何故か獣人の国クティノスでは次々と赤ちゃんが誕生し、ベビーラッシュとなっている。
まさか、私に憑いていた子達が生まれ変わって来ているとかじゃないよね……?
「かーさま」「ママー!」
「どうしたの?」
「とーさまがかえってくる」「すぐそこ」
子供達と手を繋いでルストのお出迎えの準備をする。扉が開いてルストが帰ってきた。
「お帰りなさい、ルスト」
「ヴィティ、フユト、マト」
優しい笑みでただいまと言いながらまとめて抱きしめられた。子供達も「くるしい」「パパちからつよすぎ」と言いながら毎回喜んでいる。
「寝てなきゃダメだろ、ヴィティ」
「これくらい大丈夫です」
私のお腹には新しい命が宿っているのだが、ルストの過保護が復活し、一人では絶対に外を歩かせてくれない。
ルストは私と番になってから私以外の人にも笑いかけるようになり、子供達が生まれると子育てについて周りの人と交流を図るようになっていった。嬉しい変化だ。
たまに嫉妬してしまうのは内緒。
「毎日幸せすぎて怖いな」
「これからもっと幸せになるんですよ、ルスト」
あと四人宝物が増えるのは確定しているのだから。
死神さんの故意という名のうっかりでクマの獣人になった私は、愛しい家族に囲まれてこの世界クティノスで生きていく。
「今日もまたモフらせて下さいね」
「ま、また今度に」
「パパはママになでられると、とけちゃうもんね!」
「かわりにぼくたちをなでていーよ」
「それはダメだ」
「みんなまとめてモフるから問題ないよ! うりゃー!」
「きゃー!」「わっ」「ヴィティ、やめてくれ」
この笑い声はきっと途絶える事なく永遠に続いていくだろう。
終わり。
拙い作品に最後までお付き合い頂きありがとうございました。




