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17、黒いローブの御使い様と懐かしい家

 白い部屋に帰ってきた。

 あの時は特に何も思わなかったけれど、今はただただ真っ白な部屋は無意味に不安が溢れ出す。


「やっ! 久しぶり! 元気にしてたかな?」


 黒いローブの人が突然出てきた。ローブを深く被り口元しか見えないが、テンションが高い。


「初めまして。クマのヴィティと申します。御使い様ですか?」

「ええっ⁉ ちょっと待って! ぼくら会っているよね?」


 挨拶をして頭を下げたら、肩を掴まれて無理やり起こされた。言葉だけなら焦っている風にとれるが、口元が笑っているし、どこか演技っぽい話し方をする人だ。


「いいえ、初対面です」

「うんわー。すぐバレちゃった。どこでわかった?」

「牙がないですし」

「そこかぁ! 盲点!」


 大袈裟に自分の頭をぺちぺち叩いている。

 口調は似ているが、話し方が微妙に違う。そして笑った時に見えた歯が尖っていなかった。明らかに別人。


「あ、ぼくが彼の真似をしているんじゃなくて、彼がぼくの真似をしたんだよ。そこんとこ間違えないでね!」

「それはどうでもいいのでルストはどこですか?」

「辛辣ぅ!」


 軽く咳払いをして、真剣な話をするのかと思ったらやはり軽い感じで話し出した。


「クティノスを含めたあっちの世界はね、魂の癒しの場所として作ったんだけど、恨みが深いとダクになって暴走するんだよね。魂の反抗期かな? せっかく作った世界を壊されるのは困るから、彼にはダクになりそうな魂を先に浄化してもらっていたんだ。だけど最近恨みを持った魂が多いみたいでさ、対処しきれずにダクに取り込まれたんだよね!」

「取り込まれたっ⁉︎」

「彼も意識はあるから抵抗してるけど、中からじゃ無理みたいなんだー」


 ここまで状況を把握しているのなら、御使い様がルストを助ければ早いのではないかと、そんな他力本願な事を思ってしまう。

 私の思考に反応するように部屋が一瞬歪んだ気がした。それを見て御使い様が笑う。


「君もちゃんと心が動くようでよかったよ。ぼくは管轄が違うから直接手を出せないんだ。でも手助けをする事はできる」

「……すみません」


 御使い様は御使い様なりになんとかしようとしてくれていたんだ。


「まずは君のゆかりの地に送るから、そこから彼を探し出してね。君と彼は繋がっているからどこにいるかわかるよ!」

「どうやって助ければいいですか?」

「これでよろしく!」


 突然両手にずしりとした重みが加わる。私の手にはまさに死神の鎌といった鋭利な武器が握られていた。

 怪しく光る刃物に恐怖心があふれ出てくる。


「いやっ!」


 咄嗟に手を離すと鎌が消えた。

 どうして刃物が怖いのだろう。熊の獣人になったから野生動物の本能で拒否しているのかと思ったけど、今の感じは違う。体験した事のある恐怖だ。


「あー、やっぱりだめか。それは魂を簡単に断ち切れる便利なものなんだけどね。じゃあ特別に君には魔力の使用を許可するからそれで助けてね、頑張ってー」



 目の前が眩い光に包まれると白い部屋からとある家の前に移動していた。


「ここって……」


 生まれてからずっと住んでいた実家の前に立っていた。玄関ドアを開けようとしたら、手が通り抜け驚きで動けなくなってしまう。キツネさんは異世界へ行くには肉体は越えられないって言っていた。

 今の私は魂だけの存在なんだ。そのまま通り抜けて家の中に入ると、温かい実家の匂いに包まれる。


 魂だけなのに匂いってわかるんだね。錯覚かもしれないけど懐かしい。


 リビングは、窓際に母さんが育てている花や観葉植物が所狭しと並んでいた。壁には幼稚園の時、父の日に描いた絵や私達姉妹の写真が飾られている。いい加減恥ずかしいから何度も外してって父さんに言っても外してくれない。何も変わっていないな。

 唯一変わった所は隣の和室に私の仏壇がある事だろうか。


(……もう少し良い写真使ってよね!)

 自分の写真を睨みつける。本当に私は死んだんだと実感した。


「ただいまー、あれ? 誰もいないの?」


 聞き覚えのある声がして振り返ると姉が入ってきた。私を通り抜けて仏壇の前に座り慣れた手つきで線香を上げる。


「ただいま。お土産にでん◯けスイカ買ってきたよ。こういう機会がないと北海道産のものなんて送るばっかりで自分達で食べないもんね」


 箱を抱えていると思ったらスイカが入っているらしい。うわぁ、食べたい。


「真冬のバカ。友達庇ったのはスゴイ事だけどそれで死んでんじゃないわよ。小さい頃、雪に生き埋めになったのだって私を庇ったからだし、轢かれそうな猫を助けて怪我した事もあったよね。あの世でもっ、誰か助けてそぅ……っ、ふ、ぅう、ばか……ばかまふゆぅ」

「お姉ちゃん、ごめん、ごめんね」

「うっ……ぐすっ、真冬に負けないように勉強頑張ってきたのに、いないと張り合いがないじゃない……真冬がいないと、部屋のお掃除誰がやるのよー!」

「そこは自分でやろうね! お姉ちゃん‼」


 さっきまでのしんみりした雰囲気返して! 会話できないけれど、つい言い返していた。お姉ちゃんは勉強はできるのに片付けとか掃除が苦手だからなぁ。私が代わりにやるとお礼といっていつもアイスをおごってくれた。

 もうこんなやりとりもできないんだね。


「お姉ちゃん、急にいなくなってごめんね。私、あっちの世界で楽しく暮らしているから心配しないで。もう私のために泣かなくていいよ」


 姉に声をかけてその場を後にした。


「さっきから線香の煙がめっちゃ揺れてる。真冬がいたりして……なんてね」





 家を出て意識を集中するとルストの気配がする。一応、頭上を確認する。流石に空にルストはいなかった。空から降ってくるイメージなんだよね。でも今度はちゃんと見つけるよ。

 呼ばれるように気配を辿り向かった先でついに見つけた。


「ウァァアァア! アァアーーーーッ!」


 闇よりも深いダクがその巨体を引きずっていた。


 ルスト、今、助けるからね。


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