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12、過激に過剰な加速する過保護と猫みたい

 ルストの過保護が過剰に加速している。

 私が両手を怪我しているせいか、毎食毎食ルストに食事を食べさせてもらっているのだ。


「指は動くので自分で食べられます」

「ダメだ。傷が悪化するかもしれない。ほら、口を開けて」

「むー」


 食事はまだいい。

 トイレとお風呂もルストが世話をしようとしてくるのだ。さすがに粘りに粘って一人で入らせてもらっているが、必ず扉の外で待っている。

 お風呂はともかくトイレは恥ずかしいからやめて。


 極め付けは足は怪我をしていないのに、移動はすべてルストに抱っこされるのだ!

 過保護を通り越して介護ではないのか。


「これって獣人にとっては普通なんですかっ⁈」


 机を挟んで一緒にお昼ごはんを食べている、受付のカンガルーお姉さんとハリネズミさんに問いかける。


「遠回しの溺愛自慢に聞こえますよぉ、クマさん」

「そうね。そもそも本人がいるのに話して大丈夫なの?」


 そう言ってハリネズミさんは私の背後に視線を向けた。私のすぐ後ろにいるルストに。

 そう、ルストは私を膝の上に乗せているのだ。

 サビオが完成したというので組合に行こうとしたらルストが抱っこで連れてきてくれた。そして私から片時も離れず今こうなっている。


「俺の事は気にしなくていい。ヴィティ以外の声は雑音と同じだ」

「ルスト、失礼だから!」

「ヴィティ、これ好きだったよな。俺の分も食べろ」

「んむむぅ、むぐ」


 私達のやり取りを見て、お姉さんがポツリと呟く。


「……『りあじゅー、ばくはつしろ』ですぅ」

「なにそれ」

「二人の世界に入って周りが見えないイタイ獣人の四肢が弾け飛ぶ呪文らしいでーす」

「怖いわね。トラとくっついたら使ってあげるわ」

「……」

「あ! それあたしの! 食べないでよー!」

「今日トリさんに抱っこで送ってもらったの知っているんですからねぇ」

「なっ……!」


 お姉さんとハリネズミさんがそんな話をしていたなんて、ルストに気を取られていて気付かなかった。






「これが完成品よ。確認して」


 ハリネズミさんが出してくれたサビオ(絆創膏)を手に取る。指に巻いてみて曲げたりしても、少し厚みがあるだけで伸縮性もあり問題は無さそうだ。


「クマさんが持ち帰ってくれたナミアソウなんだけどね、凍った事で繊維組織が破壊されて粘着性がサビオにピッタリになったの! 水にも強いし皮膚もかぶれたりしないのよ! 今後は崖でしか育たないナミアソウを栽培できないか研究するわ。凍らせなくても冷やせば繊維が壊れるか実験したいし……」


 興奮してちょっと早口のハリネズミさんが一生懸命に説明してくれる。

 そんなハリネズミさんを無視して、今度はお姉さんが話し出した。


「いくつかサビオをお試しとして刺繍屋に使ってもらっていますが、反応は上々です。サビオの安定供給が可能になれば売り上げに応じてクマさんに報酬が支払われますぅ」

「あ、報酬いらないです」


 私の言葉にお姉さんが止まった。ハリネズミさんも話すのをやめてしまう。


「作ったのはハリネズミさんですし、私は何もしてませんから。その分、サビオを安くしてみんなが気軽に買えるようにして下さい」


 サビオは元々向こうの世界の物で私がお金を貰うわけにはいかない。

 後ろから「ヴィティは欲がないな」とルストの声が聞こえる。そこ耳元なんであんまり喋らないでほしいです。


「……わかりました。ではこちらは確実に受け取って下さい。先日ダクを倒した報奨金になりまーす」


 お姉さんから紙を渡されると金額が書き込まれていた。ちょっとゼロが多くないかな?

 この世界のお金の価値をまだよくわかっていないけど、金額が大きいのはわかる。


「小さい家なら余裕で買えるぞ」


 ルストがぼそっと教えてくれた。


「そんなに⁉︎」

「普通は何人かで協力して倒すものですし、放置すればするほど森が穢れますから、これでも安いですよ。受け取りに名前を書いてください。ここですぅ」


(じゃあ、大型のダクを一人で倒したルストはかなり強いんだ。ルストは狩人ランクどれくらいなんだろう。そもそも何の仕事をしてるのかな)


 そんな事を考えている間に、私の手を動かしてルストが名前を書いていた。


「あ、そうだ。ハリネズミさん、時間があったら綿棒を作ってほしいんですけど……」

「めん、ぼう?」


 初めて聞く単語なのかハリネズミさんが首を傾げた。お姉さんもカンガルーの耳を片耳だけピンっと垂直に上げた。

 ルストも知らなかったし、二人の反応で確信した。この世界、綿棒がない!


「以前、刺繍屋さんで働くと慣れないうちは針で何度も指を刺すって言っていましたよね? 綿棒があれば部分的に汚れが落とせます。布に血が付いたらできるだけ早く綿棒に水を染み込ませてトントンと……」

「ちょっと待って。紙に書くから! 商品化するわよ!」


 慌ててハリネズミさんが紙を出してきてメモを取り出した。


「え、そこまでする必要は……。細かい所の掃除とか耳のお掃除くらいしか使い道がないですし」

「クマさん、それはこちらで判断しますぅ」


 綿棒と何故か血の落とし方について知っている事をすべて吐きました。お姉さんの質問の仕方が取り調べかと錯覚するほどだったんです。

 綿棒の絵も描いた。見た目がシンプルな綿棒はサビオを描くより難しい。



「あとは神殿から呼び出しがかかっています。この後、向かって下さいねぇ」

「神殿?」


 私を膝に乗せていたルストの身体が強張ったのがわかった。

 振り向いて顔を見たら、明らかに嫌そうな顔をしている。その顔は嫌いな匂いを嗅いだ猫みたい。


 屋根と屋根を飛び移りながら神殿に向かう。私も猫の気分が味わえてちょっと楽しい。

 下を歩くと、色んな獣人さんが声をかけてきてルストの機嫌が悪くなるからだ。特に男性が近づくだけでルストが威嚇する。

 怪我をした私を心配してくれただけなのにね。獣人さんはみんな優しい。


 ……ルストは子育て中の母猫かな。


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