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11、舐めるのは本能とサビネコ全身モフモフ



 目の前に転がっている二つの玉を手に取る。ダクの最後の鳴き声は今までの悲痛な叫び声ではなく、普通のワンコと変わらないものだった。

 少し大きめのビー玉サイズの玉を握りしめると、ほのかに温かくてなんだか泣きたくなってしまう。

 無性にルストの声が聞きたい。


「ヴィティーーッ!」

「ルストっ……」


 聞きたかった声が聞こえたと思ったら、やっぱり空からルストが降ってきた。

 着地した瞬間周りの雪が舞い散り、ルストの金目と腰布の金の刺繍がキラキラと輝いて天使が降りてきたかと思った。

 白の世界に黒と茶の髪色が一際引き立って見える。


「遅くなってすまない。……守ると言ったのに」


 ルストは私を強く抱きしめると絞り出すように声を出した。猫耳がへにょりと力なく垂れている。髪も乱れているし、額には汗が光っていた。心臓の音も今まで聞いた中で一番早い。

 急いで来てくれたんだ。


「ルストが来てくれただけで嬉しいです」

「泣いていたのか?」

「こ、これは、そ……うひゃ!」


 目尻に溜まった涙をルストに舐められた。


「こっちも怪我をしている」

「舐めるのなしで!」


 手の怪我も舐めようとしてきたので、全力で拒否させてもらった。ルストが「なぜ止める?」と不満顔をしていたが、門の中に戻る事を優先するようだ。

 私を抱き上げるとルストの周りに風が巻き起こり、ふわりと身体が浮いた。


「これ、どうやって浮いているんですか?」

「魔力を変換して重力操作、重量軽減、対象固定……あとは風とかで色々」


 説明が面倒になったのか色々で片付けた。魔力ってこんな使い方もできるんだ。

 まるで透明なエレベーターに乗っているようにゆっくりと上昇していく。


「あ、これ持って帰りたいです」


 崖に凍りついている草花が目に入った。ナミアソウがどんなものかわからないが、一種類しか生えていないから間違いないと思う。


「勝手に門の外に連れ出した奴のためになんで……」


 ルストがブツブツ文句を言いながらも氷ごと抉り出してくれる。

 崖の上に戻るとトラさんがいた。縄を下ろそうと準備していたみたいだ。


「無事か。よかったな」

「トラさんも助けに来てくれたんですか? ありがとうございます」

「勘違いするなよ。お前がいなくなるとあいつが泣くから仕方なくだ」


 トラさんもツンデレか。あいつとは、たぶん受付のお姉さんの事だよね。


「周辺を見回ったがダクはいなかったぞ。下はどう……」

「トラ、俺達は先に帰る。これを頼む」

「あ⁉︎ 冷てっ!」


 氷漬けのナミアソウをトラさんに渡したルストは、浮いたまま高速で移動した。

 ……トラさんを置き去りにして。


 門の中には足に包帯を巻いたハリネズミさんがいたけれど、疲れたのかトリの門番さんの膝を枕に寝ていた。愛しそうにハリネズミさんの頭を撫でるトリさん。よかった、大丈夫そうだ。

 起きたら私は無事な事とトラさんがナミアソウを持ってくる事を伝えてほしいとお願いしておいた。




「ヴィティ、手の中のものを見せてくれ」


 家に帰るとこう言われ、素直にルストに白く光る二つの玉を差し出した。


「ダクの核が浄化されている。これはヴィティが?」

「違うと思います」


 頭を振って否定する。

 怪我の手当てを受けながら、崖下で起こった事をルストに話した。




「そうか。きっとあいつらも最後に楽しく遊べて満足したんだな」

「あの、ダクって……」

「お腹が空いたろ? すぐ準備するから待っていてくれ」


 質問は最後まで言わせてもらえなかった。

 食事中も何度もダクの事を聞こうとしたが、その度に強制的に話が出来なくなる。手を怪我した私のためにルストが「あーん」して食べさせてくれたからだ。


 その後、なんだかんだ話を逸らされ私はキレた。


「ルスト! 教えてくれるまで出しませんからね!」


 ルストを私の寝室に閉じ込め、出ていけないように扉の前に立ち塞がった。

 てっきり焦ると思ったのに、ルストは余裕のある笑みでこっちに近づいてきた。


「まさかヴィティから一緒に寝たいとお誘いがあるなんてな」

「ん⁉︎」


 一緒に寝たい? 違う違う。そんなつもりはない。

 なんか顔近くないですか? え、ちょっ、待って⁈

 鼻と鼻が触れ合った瞬間、ルストが消えた。


「ルスト……?」


 足元にはルストの服が抜け殻のように落ちている。少しだけ膨らんでいる服から小さい耳がぴょこりと飛び出てきた。


「にゃぁん」

「ルストっ⁈」


 服の中から出てきたのはニャンコ。サビ猫だ。

 頭と尻尾の色合いがそのままルストと一緒だけど、獣人って獣の姿にもなれるの? か……可愛い。


 猫の姿のルストはベッドに飛び乗ると、ちょこんと座ってこっちを見てくる。

 尻尾でぱしぱしベッドを叩き「さ、寝るぞ」と言っているようだ。


「ルスト、その姿だと話せないんですか?」

「んるるぅ」


 鳴き声も可愛いとか反則! しかも口を開けないで喉で鳴いたね!

 気がついたらベッドに横になっていた。猫の誘いを断れる人がいるなら見てみたい。


 ルストも寝る準備のためか体中をペロペロ舐め出した。

 肉球と肉球の間を舐める時、たまにガジガジ噛む仕草が猫っぽい。いや、猫なんだけどね。黒が多いサビ猫の口から、ピンクの舌がチラチラと見えるの最高なんですけど。

 ぞぉりぞりと舐める音まで聴こえるよ。


「ルスト、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいんで撫でてもいいですか?」

「みゃう」

「ありがとうございます」


 人の言葉はわかるようで片耳だけピクンと動かし、猫ルストはゴロリと横になってくれた。

 手を伸ばして目の前のモフモフを撫でる。


「はぁ、最高」


 サラサラの毛並みは触り心地抜群でとても気持ちいい。ルストも目を閉じてゴロゴロ喉を鳴らしてくれた。特に喉周りを親指と人差し指で挟むように掻いて上げたら、ゴロゴロ音が爆音になった。


「こう? こうするの気持ちいい?」

「んぐるるるるぅ、にゃっるー」


 ルストのサビ猫の毛並みは頭から背中にかけて黒が多めで、胸とお腹、尻尾は茶色が多かった。

 特にお腹の毛は、明るい茶色と霞んだ茶色が縞模様になっていて、モンブランにキャラメルソースをかけたような贅沢な彩り。合間に見える黒はチョコレートチップかな。


「んん、ホットケーキみたいな良い匂い」

「みょっ⁈」


 つい顔を埋めて吸っていた。ほぼ無意識。

 てしてしと額に肉球の感触がしたけど、そんな軽い抵抗ただのご褒美です。

 私が寝落ちするまでルストをモフモフモフモフして堪能しまくった。




 ◇




 その夜、頭を撫でられている感触で意識が浮上した。でも眠くて目蓋が開けられない。


「君はいつも誰かの為に自分の生命を簡単に投げ出すんだな。この世界に連れてきたのは失敗だったのかもしれない。ヴィティ、どうかこの世界を、獣人を嫌いにならないでほしい。…………俺の事は憎んでいいから」

「だいじょぶ。すき……よ。るすと、の、ことも、す……だから、ね。なかな、ぃで」

「っ、起きているのか? ヴィティ?」


 夢現(ゆめうつつ)で何か話した気がするけれど、目覚めた時にはよく覚えていなかった。















獣化を解くと基本全裸なので、この時のルストさんは全裸です!


大事なことなのでもう一度!


この時のルストさんは全裸です!!

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