緊急事態宣言の配達⑥
GW……GW……
「5月はゴールデンワーク!!」
運ぶ荷物が山ほどあれば、運ぶ人間も必要となる。
彼等にとっては働く事が日常の一部であり、変化もクソもない。
「あはははははははははは、世間は休みと自粛なのに。俺、6連勤なんですけどーー?」
一部壊れた人が何人か出て来る。周りの知り合い、みんなお休みなのに。ずーっとお仕事をしている自分がいる。こんな状況でも普通に仕事してるのを良いのか悪いのか。どう捉えればいいねん。
「あれ?部長、出勤だったんですか?」
「おう!コロナのせいだ!!」
やべっ、GWの楽しみといったら。クソ上司が連休のためおらず、仕事中にそいつの悪口を言いまくるという憂さ晴らしがあるのに。コロナで出勤とかどーいう事やねん。さっきまで愚痴ってたの、聞こえてた?
「体調悪い奴の経過確認。あと、GW明けの予定の打ち合わせ。いろいろ」
陽性反応はないらしいが、実際に体調を崩して休んでいる人はやっぱり出てきてしまった。
熱が出ているだけで来るなの指令。珍しいと思う、社畜の一同。
しかし、そんなに簡単に熱が出ない連中が揃っている。というか、気付かない連中が多いと思う。気にしないというか……。
「あ、この中で熱出てる人ー……いたら、帰れよー。集団感染したら終わりだからな」
「熱あったら出勤しねぇから」
「でねぇから出勤してるんですけど」
口頭で終わらすいい加減さ。それと、実直さというか。職場に足を踏み入れた以上、今日一日行けるという判断で来ている者達だ。ゴールデンウィークってなんだよ?って、イライラ顔で仕事に来た面構えだ。
今年の配達事情は結構変わっていた。おそらく、配送業者全員が思っていた事だろう。
「どんだけ通販多いねん!!」
運び込まれた荷物が入った箱に向かって、ガツンッと頭を打ち付ける。例年のゴールデンウイークの物量は、そう多くはない。みーんながお出かけしていると言っていい期間なのだ。しかし、今年は自粛故、通販でのお買い物。それも政府がお願いしているという有様。加速するわね。
「運ぶ身にもなれこの野郎!!ふざけんなぁっ!!7倍ぐらい出てるんですけど!」
別に全員出勤しているわけではないのだ。こちらも会社であるため、GWは従業員の出勤数を減らしているのだが、今年はすでに荷物が多いとの予測が出ており、事前に配置人数を増やす事になった。あり過ぎる荷物のために貴重な休みの期間を奪われ、出勤。
「明けてからでいいじゃん!!」
「そう言うなよ……」
通販だと良く感じる事なのだが。欲しいけど別にすぐ欲しいわけじゃない。ネットだと簡単に見つかって、頼めば届くから。そーいう感覚でのご利用が多い。別に責めてるわけではないけど、急ぎじゃないよね?
ここが少し面白いところなのだが、通販関係は到着次第、その日に配達が基本なのだ。
問い合わせとか来るし、こんな緊急事態でない時は決して多いわけじゃないから、できる事なのだが。ただ、今回は緊急的な状況。荷物が多い時は、配達しきれませんでした。って、泣きながら帰って来たいのに……。
「ダメだ。遅延、ダメ!」
「こーいう時くらい、ええやん!」
「金もらってるからダメだ!」
「急いで準備して、急いで配達地域に行くんだよ」
絶対に配達を義務付けられている。それだからこそ、配置人数を増やす対応にしていた。
「はぁ~、今。ホントにフリ〇多すぎ。不要不急じゃんって言いたいんですけど!」
「人によっては違うだろ……」
実際にこーいう関係を配達すると、辛さとメンド臭さ。ウザさ。それらを語るとキリがないのだが、ステイホームと言われてるゴールデンウィーク中にイライラしてしまう事は。
「遅延ダメとか言いながら!!デケェし、数は多いし!不在になるし!!テメェ等、生活リズムどーなってんだ!!おおーーいぃっ!!午前9時半~10時半頃の不在率高すぎぃっ!」
「不在やない。あいつ等、寝てやがる。呼びかけと長めに待機していろ」
こっちは朝から荷物の仕分けで忙しく、この荷物を捌くために急いで午前中から飛び出していくのだが、客が寝てたり、掃除をしてたり、犬の散歩とかしにいったりと、中々家から出てきてくれない。インターホンに出てくれない。いるのは分かっているので、何度か押して、声を掛けて無理矢理出させる。置き配でいいよ、って客の何人かは思っているのだが。あれは申請やご要望がないとできない仕様となっているため、ここらへんはいずれ改善されるかもと思っている。
っていうか、デカいポストか宅配BOXを買えよ!!って、配達員の本音。
天気悪い日は置き配はし辛いんでね……。
◇ ◇
「すいません、荷物が届いてないんですけどー!」
ゴールデンウィーク中、あるある。荷物受け取ってない申告。
「あんたさー、どーいう配達してんのー?仕事してる自覚あるのー?」
「その配達員、休みでいないんですけどー?」
長期旅行中だったのに、アマ〇ン頼んでんじゃねぇーよって。舌打ちしながら、お届け先の方へ向かう。届いてないんだから、別のお宅に配達したパターン。そんなお話。
ガンッ
「チラシの下に荷物あんじゃねぇーーかよぉっ!!」
そもそも集合ポストをちゃんと見てないで、届いていた件。今年はみんな自粛のためか、こーいう届いていない申告からの宝探しは案外少なかった。荷物の数は例年の7倍ほどではあったが、個人で対応したのはわずか1件だけ。後日またあるかもしれないが、その日の内にお客様がとってくれる事が多いのはありがたい。ゴールデンウィーク中、荷物で埋まっている家が何件かあり、どうやら帰省先から頼んでいるケースが多いそうだ。残念な話、連休中に荷物が盗まれているというケースもあったりする。
荷物がちゃんと家の中に入ってくれないと、こちらは安心できない。
「儂宛てに届くはずのミカンが一か月も前から届いておらんぞ!!ゴールデンウィークに送られてるはずなんじゃ!今、6月じゃぞ!」
「お前がもう食ってんだよっ!!(こちらは1か月前に、ちゃんとお渡ししていますけど)」
まぁ、ゴールデンウィーク中に届いてるはずなのに、届いてないとか言われる事もある……。
◇ ◇
「おーぉ、これ。あの。ネットで頼んだ奴かー。届けてくれてありがとねー」
見た目、失礼だが80代だろうか。お爺ちゃん。
「パパー、届いたよー!ア〇ゾン届いたー!!」
見た目、小学生低学年。
5年前くらいはネット通販をやっていた年齢は10代後半~60代前半ぐらいだったが。今回の騒動で目に見えて感じ取ったのは、80代のお爺ちゃんや10代前半の子達も平然とネット通販を利用されている事だった。
「初めてやって、ホントに届くのかぁ!ありがとな、兄ちゃん!」
ちょいボケている爺さんも、感謝の笑顔が素敵だ。
お茶の葉を初めてネットで頼んだと言っていた。カタログでの通販も疎かった感じではあるが、外出自粛なのと、歳のせいで買い物も億劫だったという。
配達していると、色んな宅配業者が忙しく車を走らせていた。現場の要となる配送員は、通常の件数は無事に終わるだろうという判断から、最小限の人数で行く事が多い。人件費以外にも車の用意も含めると、経営的には絞りたいし、質も求めたいところ。
今回の騒動で、ネット通販の利用は4年ぐらい加速したような気もする。
ほとんどの人がネット注文となるんじゃないか。
「頼んだ翌日に届いちゃうとか」
「近場じゃ売ってないモノが見つかるしな」
ホントに。便利で。今の人達はそれが当たり前に思われている。
そんな当たり前にちょっとしたヒビが入るだけで、不安が敏感に出てきた。
とにかく今も、異常なくらいにネット通販の荷物が連日やってくる。
さすがにこの時期になると、マスクとか消毒液というものが4月頃よりも減ってきたが。やっぱり頼めば何でも届くという安心感は利用者には伝わったところもある(誤配や汚損もしてるけど)。悪天候の日も届けに来るのが当たり前。それが普通。
物流は今も若干ではあるが、コロナの影響で遅れやサービスの一時停止も成されているのだが。現場的には今年の1月、2月頃のサービスを現状のまま再開すれば……。
「無理だろ……毎日ギリギリなんだぞ」
「再配や他のモノまで多くなったら、対応できないよ」
「再配達が極端に減ったから今は上手くできてるだけ!ホントに!!」
人件費の高騰。そもそも、募集をしていても入って来る事もなく。長続きも見込めないし、戦力的にもギリギリなライン。現場が人間の数を求め始めれば、伴って車や機材の調達。経営する立場も考えろという意見。配達のサービスもこれから変わってくるだろう。
変わってもらわないと、日常の当たり前ができない。継続するだけでは足りないんだなと、思う。
「お?」
GW中に目にしたのが、色んな宅配業者さんだ。
こんなにもそーいう会社があったっけ?ってくらい、遭遇している。配達員って簡単そうに思える仕事だろう。そりゃそう思うよ。クレームで言われるけど、”この程度の仕事はしてください。”ばっかりですよ。
荷物持って、指定された場所に届けろ。
そんな仕事と思われるわけですが、もう何件あるんだよ。って、毎日ウンザリする件数。代り映えのしない日々に辞めていくケースも珍しくない。自転車に乗るのが好きでも、土砂降りの中で自転車を漕いで、行った事もないお宅に尋ねる。そんな彼等を見てると可哀想に思います。好きだからやっているのに、嫌いになっていくのはホントに辛い。
実際に体験するだけ程度なら、……。でも、それで一生生きるというのは、無理だろうって。辞めたくなったら辞めるのモチベーションで仕事をするのが、正しい感情と思いますね。配達システムは組めても、人間達はそう上手くは動いてくれいないんですよね。中間管理職の方々を見ると、悲しくなる気持ちと同じです。
これからネット通販や宅配はますます増加するだろう。
それで喜ぶ人達は確かにいるし、儲けられる人もいる。金をもらって運ぶ仕事ができるので、悪いわけではないし、無くならない仕事だろう。ただ、圧倒的に成り手がいない。機械でもうやって欲しいと思っていても、まだまだ厳しい現実。運び手がプツンと切れたら、ホントにどうなるんだと感じたこの一か月。
未来のサービスは今よりもさらに改善されるだろうが、そこまで人々は持ち堪えられるのか?
これからがコロナショックの影響が出て来るんだろう。人々がこの期間で感じた事は、多いはずだ。
できれば、こんな災害でも特に変わらないどころか、忙しい物流業界に人手が来たら嬉しいと思います。
全部で6作となりました。
これは自分がその当時に感じた事や起こった事を濁して書いている、愚痴や手記のようなものと捉えてくれると助かります。見当違いも甚だしいと思ってもらって構いません。
世界の災害に数えられるレベルの中で、たった一つの仕事をやっていたというのは、良い経験でした。大袈裟な言い方ですけど(笑)。ま、そんな中でも頑張ってるって報告です。
それと延長戦として、この緊急事態宣言中に起きた、あるお話を書きたいんですが……。
結構、アウトなお話になるので投稿方式と内容を検討中。
まだあまり触ってないんで、詳しくは書けないんですけど。
こちらも唐突かつひっそりと、書いて投稿できたらなーっと思います。