表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

絶望の先にあったもの

作者: 悠香


 京都に来るのは、いつぶりだろうか。


 妻との思い出の地を巡る中で、私はふと思考を巡らせる。確か、娘夫婦と共にここを訪れたのが最後だった気がするから、かれこれ七年ぶりか。二泊三日の旅行で、ここ嵐山を中心に紅葉の名所を巡り歩いたのを思い出し、ふと笑みがこぼれる。

 あの時は、みんな笑っていた。喧嘩することもしょっちゅうあったが、それでもお互いがお互いを尊重しあって、楽しく過ごしていた。


 それが崩れたのは、その京都旅行の帰り道だった。娘の夫が運転する車が事故に遭い、助手席に座っていた娘が大怪我、運転していた娘の夫は頭を強く打ち、三日後に死亡した。

 それを知った娘は、夜中に病院を抜け出し、自殺を図った。幸いそれは未遂に終わり、娘はすぐに病室に戻され治療を続け、二週間後には無事退院した。

 しかし、退院して自宅に帰ると、娘は再び自殺をしようとした。しかも一度ならず何度も。その度に妻が止めに入り、病院で検査を受けさせていた。そのまま入院することも少なくなかった。

 娘の自殺未遂は、合計で七回にも及んだ。そして、娘の自殺を、未遂とはいえ何度も近くで見てきた妻が、とうとう精神を病んで入院することとなった。妻は、全ての感情をどこかに置いてきてしまったような、まるでただの人形のようになってしまった。

 妻の入院から約一週間後、私が妻の看病のために家を開けていた時に、ついに娘が自室で首を吊って自殺した。そして、それと連鎖するように同日に妻の容態も急変し、翌日脳死判定が下された。

 その日は偶然にも、あの忌まわしい事故からちょうど一年が経った日だった。


 たった一年の間に、私は家族全員を失った。その時に負った心の傷は、今なお癒えずに残っている。自ら命を絶とうと思ったことも何度もあった。

 それでもその度に、娘の夫の葬式の際に妻が泣きながら言った、「優真さんの分も、私たちみんなでしっかり生きないとね」という言葉を思い出し、踏みとどまった。

 その時に誓った妻も、娘もこの世には既にいないけれど。それでも三人の分も生きることが、私の使命だと思ったから。


 回想を終え、私は欄干から身を起こし、七年前にも訪れた天龍寺の方へと歩を進める。橋を渡りきったところで、通りの角にある、少し古びて趣のある建物が目に入った。

 何となく気になった私は、中を覗いてみることにした。中に入るとそこはお土産屋さんで、京都の銘菓や伝統的な京野菜などが並べられていた。それらと共に、アニメのキャラや恐竜などを模した、いわゆる「創作こけし」がそこには並べられていた。

 私は、それらのこけしを見て、再びあの日の記憶が蘇った。


 京都旅行の最終日。予報が外れて、土砂降りの雨が降ってしまい予定していた観光地巡りが出来なくなってしまった。私たちが途方に暮れている中、妻が提案したのが、「こけし製作体験」だった。

 予約もなしに製作体験なんてできるのかと思ったのだが、雨の影響で予約のキャンセルが相次いだらしく、私の心配は杞憂に終わった。

 こけしと言っても、作ったのは創作こけしだった。こけしと聞いて頭に思い浮かべるものは、伝統こけしといって、東北地方で産まれたものだということを、作り方の指導をしてくれたおじさんに教えてもらった。

 二時間近くかけて、それぞれが思い思いのイラストのこけしを完成させた。私たちが作ったこけしたちは、若干いびつな形をしていたが、みんながその出来栄えに満足していた。最初はあまり乗り気じゃなかった娘夫婦も、こけしが完成する頃には一番はしゃいでいたのが印象的だった。


 その時作ったこけしは、四つとも家のたんすの奥にしまわれている。何度もたんすから出そうと思ったのだが、どうしてもできなかった。それを見ると、その日に起きた事故と、それから連鎖するように起きた悲劇を思い浮かべてしまうと思ったからだ。

 だが今日再び京都に来て、家族とかつて訪れた場所を巡って、それらを外に出してやろうと思った。見えるところに飾ってやろうと。

 過去に起きたことは、もうどうにもならない。だからといって、全て忘れてなかったことになんでできない。できるわけがない。当たり前だ。そこには今はない、けれど確かにあった彼らの跡があるのだから。

 だから、楽しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと。全て逃げずに受け止めて、まっすぐ生きていこう。今ここでそう誓おう。後ろばかり見ていたら、きっと優しかった妻に怒られるだろうから。


 六年かけて、ようやく前を向ける気がした。


 私は、ひとつのこけしをお土産に買って帰ることにした。たんすに眠るこけしたちと一緒に、過去とけりをつけられた証として飾ってやろうと思った。



どうも、悠香です。三作目です。

私の拙い文章を読んでいただきありがとうございます。感想等頂けたら嬉しいです。


今回の小説も今まで同様、三つの単語をお題に書いていきました。今回は「恐竜、こけし、野菜」の三つでした。繋げ方がなかなか怪しいですね……

それと過去三作全部暗くなってる気がしたので、そろそろ明るい話でも書いてみます……


この先、さらによい文章がかけるように努力していきますので、これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ