本能寺が変
天正10年、6月2日。
京の南にありし山城国にて、本能寺と二条御新造の2つから火の手が上がっていた。戦によって発生した火災である。
「敵は本能寺にあり!」
という言葉によって始まったこの戦は、仕掛けた謀反人こと明智光秀に軍杯が上がっていた。
開戦から僅か数刻、最早戦場の土は織田勢の屍から滴る血潮で鮮血の色に染め上がっており、勝鬨をあげるのは間近であった。
残すは本堂、信長の寝所を残すのみ。この時、明智の軍は皆顔を綻ばせていた。よもやこの戦況を覆す事などできる筈がないからだ。
ゆえに、彼等は目の前で起きた現象を見て、間抜けにも目を瞬かせる事となる。
「ややっ、あれはなんじゃ!」
「雷じゃ! 織田が奇怪な術を使い始めたぞ!」
兵は皆動揺している。黙してはいるが、光秀もまた目の前で起きている出来事を理解できずにいた。
本堂の前、約2間の空間に青白い稲光が、太鼓のような音を掻き鳴らしながら慌ただしく明滅している。稲光は時が経つにつれて強くなり、ついには陽よりも存在感を示す光となって周囲を包んだ。
光が収まり、光秀の眼が周囲の明るさに慣れてきた時、稲光が明滅した地点に1人の男が佇んでいた。
「怪しい奴め! 名を名乗れ! 化生の者か!?」
光秀は馬上より刀を振るい、その切っ先を男へ向けて凝とすえる。
男は光秀の射殺すような視線をものともせずニっと不敵に微笑んだ。
「I'm the President」
「その言葉! 南蛮縁の者か!」
「……おっと失礼、ここは日本だったな」
男は突然日ノ本の言語で話し始めた。どうやら2つの言葉を操れるようだ。
「すまない、つい大統領言語で話してしまった。
改めて名乗ろう!
私はっ! アメリカ合衆国の統治者也っ! そうっ! 大統領だっ!!」