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マッシヴでありながらさっぱりとしたお洒落ロイヤル短編集

異世界転生したようでなんか違う感じのやつ

作者: せぶこ向坂

『目覚めよ……』


「…………んんっ……」


『目覚めるのです、勇者よ――――』









「………ここは?」



 知らない天井……知らないところ。おかしいな、ぼくはついさっきまで、お部屋で寝ていたはずなのに。



『ようやく目を覚ましたようですね』


「あの、あなたは誰ですか? ここはどこですか?」



 わぁ……きれいな人だな~。さらさらの髪にふわふわとした服、まるで女神様って感じだ。



『何もわからないのも無理はありません。あなたは死んでしまったのですから』


「ええっ!?」



 ぼくが死んだ? この人は何を言ってるんだろう?



『残念ながら、あなたは寝ている間に心臓麻痺を起こして死んでしまったのです』


「心臓麻痺……でも今、ぼくはあなたとしゃべっていますよね?」



 手も脚も動く……身体は温かいし目も見えてる。それに耳だって聞こえているじゃないか。う~ん、もしかしたら頭が残念な人なのかもしれない……こわい。



『あなたは一度死に、そして私の力で蘇ったのです。そう……新たな勇者となり、“ この世界 ”を救ってもらうために』


「勇者? ……あの、お話がよくわからないです」


『この世界は未だかつて無いほどの、恐ろしい脅威に直面しているのです。しかしこの世界にはあの“ 魔王 ”と戦えるだけの力を持った者はいません。そこで――――』



 やだなぁ……変なとこに連れてこられたと思ったら、いきなり電波な人の相手をさせられるだなんて。ここはどこなんだろう……お腹も空いたしはやく帰りたいな~。とりあえず適当に話を合わせて、おうちに帰る方法を聞き出そう。



『――――というわけで、あなたに勇者となっていただきたいのです』


「なるほど。でも、ぼくにはその魔王さんを倒す力なんてありませんよ」


『フフフ……安心してください。あなたには()()()()()()()()()使()()()()()()()()()を授けます。これさえあればもう、どんな悪も一撃の下に屠り去ることができるでしょう』


「そうですか、それはすごいですね」


『フフ……そうでしょうそうでしょう』



 ……なんかすごく腹の立つ顔だ。なんなんだろう。



「でも、あの」


『どうしました? 何か疑問があればなんなりと申してください』


「いやその、なんていうか――――」









「ぼく、牛なんですけど」









『………………』


「………………」





「あの~?」


『…………あ、申し訳ありません。今、なんとおっしゃいましたか?』


「え? えっと、ぼくは牛なんです。だから勇者になって魔王を倒すなんて、とても無理ですよ」


『う、し……?』


「はい、牛です。いくらぼくを選んでいただいたところで、そもそも人間ではないのでその特別なスキルというのも使えません」


『うし………』


「はい」


『………………』



 どうしたんだろう、急に黙り込んで。お腹でも痛いのかな? それともお腹が空いたのかな?





『………さぁ……なんのことでしょうか』





「えっ」


『ちょっとあの、おっしゃる意味がよく……』



 あれれ、なんだか目が泳ぎ始めたぞ。それにすごい汗だ。



『あなたが牛だなんてそんな……フフフ、そんなはずはありません』


「いやいや、どう見ても牛ですよ。四足歩行で白黒模様ですし、角もほら」


『えと、あの…………それは――――』





『そういう人間も、いるでしょう?』





「えっ」


『ででですからあなたは人間です。人間なのです、ええそうです人間なのですよ!』


「えぇ~」



 え、え、どういうことなの。ぼくが人間だなんて無理がありすぎるよ。だって牛だもん。こんなに白黒でずんぐりむっくりしてるよ? 草とかすごく好きだよ? なんなら反芻だってしちゃうのに。


 あっ! お腹の中に朝食べた草が残ってたぞ。むしゃむしゃ、美味しいな~。



『とにかく! あなたは人間なのです! 人間! 人間!! ニンゲーン!!』


「むしゃむしゃ………えぇ~!」



 この人はどうしてぼくを牛だと認めてくれないんだろう……どこからどう見ても、誰が見ても牛なのに。もぉ~。



「あの、あなたがどう言おうとぼくは牛なんです。どうしてそんなに人間扱いしたいんですか?」


『うし? ………うし……』



 なんだろう? 何かがおかしいぞ。



『そんな、そんなはずは………』



 ……う~ん。


 この人は死んだ人間を蘇らせて、別の世界の魔王と戦って貰おうとしていた。でも、目の前にいるぼくはどう見ても牛なのに、それを頑なに人間だと言い続けてる。


 つまり話をまとめると――――



「あの~?」


『…………あ……はい?』


「もしかして、蘇らせる対象を間違え――」





 ビクンッ!!





「あっ」


『ア………アッハハ、エェー?』



 絶対そう。これ絶対間違えてる。



『ヤダナーモウ、ソンナコト……エェー?』



 本当は人間を蘇らせるつもりが、間違えてぼくを蘇らせたんだ。これ絶対そうだよ。



『エェー? 女神トモアロウモノガ、間違……エッ、ソンナコトアリマスゥー!?』



 だってもうさっきの比じゃないほどに目が泳いでるもん、マグロくらい速いよすごい泳ぎっぷりだよ。汗のかき方も尋常じゃないよ、数分でプールがいっぱいになっちゃうよ。



『エ、牛トカ……エェ? ダッテドウミテモ人間……エェーッ!?』



 ああ、この人は自分の失敗を認められないのかな。だからぼくを頑なに牛だと認めないんだ。そうだ、ただ認めたくないだけなんだ。



『イヤー冗談キツイッスヨー、エェー? 牛テソンナコト、エェーッ!?』



 ……なんだか女神様って、もっと毅然として神聖な感じの方だと思ってたのにな~。なんか、なんか裏切られた気がする。



「あの、女神様?」


『エェーッ!? エェーッ!? エ………あ、はい?』


「間違えたんですよね?」


『うっ!?』


「人間と牛を、間違えたんですよね?」


『うぶふぅっ!?』


「非を認めたくなかったんですよね?」


『うげっふぅーッ!?』


「だから……自分に嘘をついたんですね?」


『んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』









 女神は泣いた。


 間違いを認められなかった己の不甲斐なさに、それをただ草をむしゃむしゃしてるだけの牛に指摘されたという事実に、ただただ泣き続けた。


 次第にその涙とか汗とか、まあなんていうか女神汁的な物が下界に溢れ出し、海も山も、その全てを飲み込んでしまった。


 それにより魔王は溺死した。魔王はカナヅチだったのだ。あと人々とか動物たちは泳いだり船に乗ったりなんかして、まぁなんか助かった。





 こうして、世界に平和が訪れたのである――――。










 泣けば大体どうにかなるみたいなとこある


 でもよい子は真似しちゃだめだぞ





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『めがみのへや』

当短編を連載化してます↑ よろしくびーむ!
― 新着の感想 ―
[良い点]  最初はよくある転生物かと思ったら、まさか主人公が────と言う展開に驚かされました。  一人称が僕、ということは死んでしまった理由が聞かなくてもかなり搾られてしまうのが悲しいですね、搾…
[良い点] 汁(しる)大杉 [一言] 汁がすべてを征した
[良い点] 笑ろた! [気になる点] 笑ろた! [一言] とにかく笑ろた!
感想一覧
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