表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第五章 迫りくる災厄

(´・ω・`)


 ここ最近、父の様子がおかしい。

 いや、父だけではなく、大臣達や側近の人達、会議に参加する他国の王様達。皆がピリピリしている感じだ。

 子供が首を突っ込むわけにはいかないのだろうが、けど自分の中にある不安と好奇心が抑えきれない。

 なので僕は、父がいる玉座の部屋に向かった。

 

 「父様。失礼します」


 「カルミスか。入れ」


 扉を開けた瞬間、父の忙しい姿が視界に映る。父様の側近である、フェリクス宰相と何か話している。

 ちょっとタイミング間違えたな...。そう思って戻ろうとしたが、


 「すまないなカルミス。すぐ終わらせる」


 と言って、フェリクス宰相を下がらせた。

 ...う、なんかごめんなさい。


 「仕事中に訪問とは珍しいな。いつもなら、父様の仕事の邪魔をしてはだめだ絶対にとかなんとか言って、昼間はここに来ないのに」


 「あ、はい...。お忙しい中このような訪問をお許しください。...しかし、ですね。どうしても気になることがあって...」


 僕の真似をした瞬間バカにしているのかと思ってイラっとしたが、それよりも先に今日の用件を言わなきゃ。さっき二人で話していた時、何やら真剣そうな顔で資料を見ながら会話していた。きっと重要なことなのだろう。まぁ、国王がやることで重要ではないことなんていうものはないんだけどね。

 そう言うと、父様は少し考える素振りを見せ、申してみよ、と姿勢を正して言った。

 僕はその言葉に甘えて、自分の中にあった疑問を吐き出す。


 「その...。最近になって父様含め、大臣の方々や側近の方々...他国の王様の方々が忙しそうにしているのが見受けられます。...何か、あったのでしょうか」


 そう淡々と、純粋な気持ちで言うと、父様は一瞬固まり、再び考えているポーズをとった。

 あれ、もしかしてこれ...聞いちゃいけなかったやつ...?

 しかし父は再び顔を上げ、こう告げた。

 その内容は、僕の視界を揺らし、そして思考回路を遮断させた。


 「[人魔戦争]が始まるかもしれない」


 「え」


 一瞬、父の言っていることが理解できなかった。人魔戦争?あの何百年か前に起きた、あの歴史上最悪の戦争のこと...?

 数多の命が失われ、数多の国が滅び、そして一度は世界が崩壊したあの[終焉戦争ラグナロク]。

 先代の王が自分の命と引き換えに世界の崩壊を止め、再生させたという偉業が伝説として残ったり、数々の英雄の伝説が残される戦争となった。

 数多の英雄譚はあった。しかし戦争は「戦争」でしかなかった。

 人々にトラウマを植え付け、一生消えることのない歴史へと変わった。それだけあの戦争は言葉に表せないくらい酷いものだったのだ、と。前に先生に教えられた。

 そしてその先生含め、今目の前にいる父は。

 その[人魔戦争ラグナロク」の経験者。つまり巻き込まれた人達だ。


 「え......いや、父様。冗談ですよね______」

 

 「残念だが、冗談ではない。現に[世界樹(ユグドラシル]や彼女の中に住む神々達が大量発現する魔物達の掃討にとりかかっている。とは言っても、ユグドラシルはともかく、神々は活動できる範囲や使える力は限られているが」


 神が地上に手を加えることは禁忌。それを犯してしまえば世界のバランスが崩れ、崩壊するからだそうだ。

 父が今の状況を僕の脳内に映し出した。それを見て僕は確信に変わると同時に、焦燥心と恐怖心に駆られた。

 そして本当に危険が迫っているのだと、そう思った。

 なんなのだろうかこの量は。しかも結界を破っている。あの父の、いや、歴代の王達が引き継ぐ力の一部であるあの結界が。世界樹ユグドラシルを守っているものと同様のあの結界が。

 モンスターが世界の境界線を越えて、周りの草木を枯らしていく。植物の魔力オドを吸っているのだろう。魔物の軍隊は確実に勢力を伸ばしながらここに向かってきている。

 これはさすがにまずい。いや、まずいどころではない。これでやっと、城中の人達や他国の王様達がピリピリしている理由が分かった。

 そもそもこの今確認できる魔物達を見ると、あれほどの結界を壊せるやつは見当たらない。魔物では何かの仕業だろうか。


 「父様。やつらを解放した首謀者は誰か把握しているのですか」

 

 「あぁ」


 父様は溜息交じりに返事した。え、なんかすごい嫌な顔をしてるけど...誰なんだろう。


 「竜王[クライトス]だ」


 竜王。全ての魔物達の頂点に立つ[竜族]の王。強大な魔力と圧倒的なカリスマ性を振りかざし、普通の人間や普通の魔物であればひれ伏すどころか動くことすらできない。

 そんな人が今回の首謀者...?一体何が目的だろうか。


 「あいつ...自分の[娯楽]のためだけにわざと結界を壊したんだ。あぁ安心しろ。皆のために二度と動けないようにしておくから」


 はははっ、と笑いながら殺意を剥き出しにしている父。いや、皆のためというか私情じゃないかな...。

 何にせよ父が言う通り、竜王は面白いから結界を壊した。竜王であればあの結界を壊すことは難しいことではない。

 それだけ竜王の力は強いということだ。


 「...」


 しばらくの沈黙が流れる。竜王のいたずら心が世界を亡ぼすところまで大事になってしまい、父はどこか世界の王として責任を感じているようだった。正直父も、ここまで悪化するとは思わなかったという。

 僕もなんだか父と同じように竜王に対してなにか鉄槌を下したくなった。いや、本気で殴りたい。結界が壊れて少ししか経っていないいないとはいえ、このままいけば本当に人魔戦争が始まりかねない。

 それだけはどうしても防がなくてはならない。


 「...カルミス」


 ふと父に名を呼ばれ、少し体こわばった。それを見た父は苦笑していたがすぐに真剣な顔になり、僕に再び話した。


 「そのためにお前に無詠唱魔法を覚えさせた。魔物襲撃に対抗するための、な」

 

 父はそう言った。

 僕に無詠唱魔法を覚えさせたのは、今回の魔物襲撃に対抗するため。よりによって何故最初の魔法の訓練内容が無詠唱魔法取得なのか気になってはいたけど、まさかそんな理由だったとは思いもしなかった。

 特に理由も何も言われなかったから軽い気持ちで無詠唱魔法を練習していたから急にそんなことを言われて、今までの自分を呪いたくなった。

 もしこれで僕が無詠唱魔法を習得することができなかったら、父はどうしていたのだろうか。理由を最初から言ってくれていれば、僕は死ぬ気で習得しようと努力をしたことだろう。

 理由を最初から言わなかったのは何故だろうか。


 「...何故最初からそのことを言わなかったのですか」

 

 「ん?無詠唱魔法を覚えさせようとした理由か?」


 父は一瞬きょとんとした顔になったがすぐに僕の問いに答えてくれた。


 「それは...最初からお前を戦場に出すなんて考えていなかったからな。無詠唱魔法を覚えさせたのは確かにこのためだが、あの時はお前を出していいものか悩んでいた。アマツキも言っていた。まだお前を戦場に出すべきではないとな」


 僕から目線を外し、若干俯いた。確かに僕はまだ未熟であるし、ついこの間魔法を実際に撃った、いわば生まれたての赤ん坊である。そんな者が戦場なんかに出てみろ。真っ先に死ぬだけだ。立派な自殺行為だ。


 「父様」


 「ん?」


 でも。でもだ。

 

 「僕は______それでもレヴィリオ国王、ルイン=ヴェルター=ソレイユの息子です」


 「...」


 それでも僕は、この「国王」の息子だ。遅かれ早かれ戦場に出る時がくるのであれば、それが今になっただけの話である。

 次期国王候補として、戦場の一つや二つ乗り越えられなくてどうする。今回はかなり規模がでかくはなるが、これを収めてこそ真の国王に近づけるのではないだろうか。

 そう考えると断然やる気が出てきた。

 父は少し曇った表情にはなったがすぐに、そうだな、と言って苦笑いをした。

 父としては息子を犠牲にしてまでの戦場にはしたくないのだろうが、でも総力戦でなければあの数の魔物は抑えきれない。

 戦場では非情になれ。いつか父に言われた言葉だ。情に熱くなってしまうのなら自害しろ。いちいち兵士達の死に嘆いていたらその間に国が亡ぶかもしれないからだ。

 戦場では命はいとも簡単に失われる。塵やごみのような価値しかないと。そう教わった。


 「というわけだ。カルミス。お前には今回の人魔大戦には参加してもらう。これは王の命令だ。逆らうことは許さない」


 「はい、陛下」


 改めてそう言われ、僕は心の整理がついた。だが。

 ...ふとよぎってしまう。もし自分が死んだら?もし父や母、兄妹が死んだら?それが運命だったと嘆くしかないのか、と。父は前回の人魔大戦で大切な人達を何人も失ったというが、その悲しみをどうやって乗り越えたのだろうか。もしかしたら今もまだ引きずってしまっているかもしれない。

 なら僕は家族が死んだらどうなってしまうのだろうか。もしかしたら生きることを止め死を選ぶかもしれない。またそれも運命だというのだろうか。

 

 「...カルミス」


 ふと父が僕の肩に手を置き、僕が何を考えているのか見透かしたかのようにそれ以上は考えるなと目で言ってきた。

 そうだ。戦場に向かう度にこんなことを毎回思っていたらキリがない。無心にならないと。


 「最初はそんなものだ。私もそうだったからな」


 「...」


 父はそう言って、玉座の間から出て行った。

 僕もそのあとを追って、部屋から出た。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ