第2話「使徒のめざめ」
「俺が…………?」
「そうだ。レオン=クリオール」
レオンは混乱している頭の中で、必死にアルロワの話を整理していた。
「いやっ……、それ何かの勘違いですよ! 俺特殊な能力なんて持ってないですし……」
「そう……厄介な事に108人の神の使徒が全員能力に目覚めている訳では無く、多くは自らの能力に気が付いていない場合が多い。だから、全世界に点在する神の使徒の大半はまだ発見されていないんだ」
「……、そんな事言われても――」
その時、酒場の天井を巨大な豪腕が打ち砕いた。
その豪腕は酒場の大半を潰し、柱を失った天井が崩れ落ちる。
「!! 合成種族!!!」
「えっ、これもさっきの!?」
「ああ……、どうやらキメラは君がお目当てらしい」
「そんな!!」
レオンとアルロワは酒場を飛び出し、広場へと出た。
キメラはその巨体を揺らし、二人の後をついてくる。
「アルロワさん! またさっきみたいに倒して下さい!!」
レオンはアルロワの方を向いて叫ぶ。
しかしアルロワは、少し考えた後広場のベンチに座り込んでしまった。
「アルロワさん!!?」
「んー…………さっきはね、君が神の使徒だと思ったから助けたんだ」
「!!?」
「君が神の使徒じゃないなら、僕が君を助ける理由は無いんだよね」
アルロワはそう言って冷たく笑った。
「ふざけるな!!!」
レオンはアルロワの胸倉を掴み、荒々しく叫んだ。
「アンタがあいつを止めなきゃ、沢山の一般人が巻き込まれるんだろ!?」
「んー……、かもね」
「だったら!! 俺が神の使徒だとか関係なく、アンタはあいつを止めなきゃいけない筈だ!!」
そう言うと再びアルロワは小さく笑い、レオンの目を正面から見つめた。
「君があいつを止めれば良い。…………『神の使徒』、レオン=クリオール」
「バカな……」
「どっち道、君が逃げれば僕も逃げるよ。そうすれば、少なくともこの辺りの人々は相当死ぬだろうね」
「ッ――――!!」
「君が、人間を救うんだ。――それが神の使徒の宿命だ」
「…………!!」
『ガルルルルルルルル…………!!!!』
キメラは天を仰いで咆哮を上げ、レオンに向かって襲い掛かる。
――ゆっくりと振り向いたレオンの目には、確かな決意と覚悟が秘められていた。
レオンは右手をキメラに向け、左手で右手首を支える。
『“灼熱の業火”!!!』
レオンの右腕が眩い光を放ち、そして右手の掌から火柱が飛び出した。
「!!!」
その炎はキメラを貫き、キメラは苦痛の断末魔を上げる。
キメラがゆっくりとその場に倒れこんだ時、レオンはアルロワの方を向き直した。
「分かった……。俺が神の使徒だってんなら、バケモノだろうが悪魔だろうが全部止めてやりますよ」
「――俺が、世界を救います」
アルロワは、嬉しそうに微笑んだ。