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口論

「そう、言うけど・・・・・正直やり方知ってるの?」


「しっ!聞こえちゃうでしょ?秘密なんだから」


「・・・・まだマディンゴ何も言ってないと思うけど・・・」


祥明とマディンゴが、二人で話している。

ここは記憶室。記憶室とは、人々の記憶を管理する場所。

だというのに、失われた記憶を差し込むのは別の機械。


それが、今彼女の付けている『記憶差し込み機』。見た目は白い丸。下部に穴が開いていて、そこに頭を差し込む。そして、前には透明なガラス、後ろにはたくさんボタンが付いていて、何かと複雑。

この機械では離れてしまった記憶(カード状になっている)を頭に差し込むという目的。


そのカードはこの(マディンゴシティ)に降ってきていて、記憶室の棚にずらりと並んでいる。


「・・・・ってことはやり方を知らないってこと?」


「ああ、そうですよ。そうです・・!」


なぜか不機嫌でマディンゴが言う。


「なんでよ、さっきはできてたじゃん。彼女の頭に知らない人の記憶が差し込まれてたじゃん」


「それとこれとは別。だってこの子予想外だもの・・こんなの差し込み機のマニュアルに載ってなかった」


祥明とマディンゴの視線は差し込み機を使用中の彼女に向きました。

彼女は今は睡眠と同じ状態。


「差し込みができるなら切り離しだってできるよ・・・反対にすれば」


「あのねえ・・・この機械は『記憶差し込み機』よ?差し込みだけしか受け付けてませ~ん」


なんだか嫌味っぽくマディンゴが言った。

祥明は子供のように頬を膨らませていた。すねていた。

マディンゴはそれでもポチポチとボタンを押していく。


「前はこんなんじゃなかったのに・・・・・」


祥明は独り言でポツリと言った。でも小声だったからか、マディンゴは気づかなかった。

彼女がこの関係を知れば、悲しむだろう。「仲良しなのに・・・」と。

いやもしかしたら言わないかもしれない。

最近はマディンゴ、こんな調子なのだ。

怒りっぽい、イラっぽい。


「佳織・・・・」そう言いたいのをこらえていた。


マディンゴは佳織という名前だった。

それが、佳織自身が

「こんな名前嫌いよ」とマディンゴに改名してしまったのだ。

これ以降、「佳織」と言ったら、ぼこされることに・・・・。


佳織という名前は嫌いじゃなかった。マディンゴという名前は嫌だった。


佳織時代、いつも笑顔が絶えない明るい子だった。家庭内の話ではいつも良いことばかりだった。

家族関係は良かったはずなのだが・・・・なにがどうしてこうなったのだが・・・

しかし、マディンゴに改名してからも明るく笑顔が絶えないことは変わらなかった。


だんだん、マディンゴという名前が浸透したある日、マディンゴは態度が祥明に対して冷たくなった。

他の人はいつもと変わらないのだが、祥明だけには真顔で接するようになったのだ。

これを二十性格というのか?女って怖いなあ、と純粋に思ってしまった。

しかし、その冷たい態度ぶりは祥明だけに留まらなかった。家族、友達、ついには初対面の人まで。


どうしたのだろうか?


祥明はいつも思ってしまう・・・・・・



「ねえ、思ったんだけど祥明」


「・・・・・」


「へ?祥明?」


「あっ、な、何?」


祥明はマディンゴの声で我に返った。

マディンゴは最近の冷たい目つきで祥明を覗き込む。


「・・・まあいいけど・・・この『緊急』ってボタン押せばいいんじゃない?」


「緊急?!それはマニュアルでも押してはいけないって書いてある奴でしょ?ダメだよ」


「そだけどさ・・・他に何のためにこのボタン、どこの誰が付けたのよ?それだったらこんなボタン、いらないでしょう」


「・・・・・だからって押すと?」


マディンゴはこくっとうなずいた。


「試して失敗したらどうする?そこまで考えてる?」


「試して見なきゃ分からないじゃない、彼女こそ緊急じゃないの?」


やはり、祥明とマディンゴの視線は彼女に向いた。


彼女は自分がどこの誰であるかも分からない・・・ここがどこなのかも分からない・・・・

という認知症に近い重症。

一度、それらしきカードを差し込んでみたが、どうやら違うらしく。

そのカードは頭から引きはがさないといけないのだ。


「引きはがしたら自分を見失ってしまうよ、彼女」


「でもしょうがないじゃない・・・祥明も聞いたでしょ?彼女から許可もらったの・・・・」


祥明は、「はあ・・・」とため息にも深呼吸にも似た声を出し、マディンゴを見た。


「押して、緊急」


「うん」


「でも・・・・・・・責任者はマディンゴだから」


マディンゴは返事をせず、円い赤いボタン「緊急」を押した・・・・・・・・・。

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