この記憶を抜き取ろう
「なんだ、これ・・・・・」
私がこれを見て第一声はこの言葉でした。
記憶が途切れているのは、なぜなのでしょうか?
最後に記憶があるのは・・・・マディンゴが私によくわからない丸いかぶりものをかぶせられたとき・・・。
それになぜかその後に、接着剤のように「俺」って言っている人の昔の記憶と、思い・・・。
「どう?」
マディンゴがかぶりもののガラス越しに訊いてきました。
なにが・・・どう?なのでしょうか・・・?
「どうだ?なんか、この記憶しっくりくるか?」
だ、誰・・・?
あ、そうだ祥明でした・・・。
あの先ほどの「俺」の記憶が侵食してきて、祥明のことを忘れかけるところでした・・・!
しかし、祥明は「記憶」と言っています・・・。
もしかすると、この「俺」の記憶のことでしょうか?
こんな記憶、ないと思いますが・・・。
まあ、最初から昔の記憶なんてなかったんだから、こんなこと言い切れませんが・・・。
気が付くと、マディンゴと祥明はじっと私の方を見ています。
あ、私返事をしていなかった・・・。
こんなかぶりものはいらないと思い、私はかぶり物をぬぎながら二人に言いました。
「なんだか、『俺』と自分のことを語っている記憶でした」
「ん、だからそういうのはいいから」
マディンゴがせっかちにも、私の丁寧な説明をはぶこうとしています。
「いいじゃないか、説明してあげさせなよ」
「・・・・」
この祥明の言葉にはマディンゴは黙ってしまいました。
「この『俺』はガキだったようで、滑り台を逆にのぼったり、廊下で先生が注意しているのにも関わらず、
友達と鬼ごっこをして遊んでいたようです」
「それで?」
マディンゴは興味をなくして棚に差し込んである、記憶のカードをゴソゴソと探り始めたので私は祥明に向き合いました。
「それで・・・なんか大人になって友達が『子供っぽい』と言ったことに怒っていました」
「ほう」
「しかし私はそんな記憶はありません」
「そりゃあ、そうだものね、あなたそもそも昔の記憶がないんだから」
マディンゴがふいに言いました。
なぜだかその言葉には皮肉があるように感じられます。
さっきはこんな態度ではなかったような気がするのですが・・・
「どうしたんだ、マディンゴ。急になんか不機嫌だぞ」
「何よ、・・・だってもう、この記憶のカードしかないもの、水色は」
「「え?」」
祥明と私の声が同時に重なりました。
「じゃあ、どうすればいいんですか?私はずっと記憶がないままですか?」
「いや、正確には俺、の記憶がずっとある、だけどね」
マディンゴが後ろを向いて言いました。
「もし、誤った記憶が脳にしみこんだら、どうなるのか?」
「永遠とその記憶で生きるしかないね、それにその記憶のままの人間になるねえ」
「え?じゃあ、この記憶、早く抜き取ってください!!」
私は足をジタバタその場で踏み始めました。
この記憶と一生一緒なんてまっぴらです!!
しかしマディンゴがその場で固まったまま、動きません。
私は迷わず、マディンゴのところへ進みでてました。
「どうしたんですか?さっきみたいに記憶を抜き出してください!!」
「もう、分かった!分かったから!!・・・・・揺らすの・・・やめて、ね?」
「あっ」
私はいつの間にか必死のあまり、マディンゴを揺らしてしまいました。
申し訳なく、私は手を離し小さく頭を下げました。
「でもいいの?」
マディンゴはブーツをカツカツ鳴らしながら、丸いかぶりものの前に立ちました。
しかし顔は私に向けられています。
「この記憶、とったらもうあなたの記憶がないまま、過ごすことも考えないと・・・」
「え?」
「だってそうでしょ?もしかしたら、あたしと会ったことも、祥明の名前も忘れるかもしれない」
私は無意識に祥明の方を向きました。
祥明は不思議そうに私の方を向いています。
・・・・そういえば、祥明は私が祥明の名前を忘れかけたことを知りません。
そう思うと、マディンゴが私の心を見透かしたように感じ、鳥肌が立ちました。
しかし、私の心はもう、決まっています。
「・・・・それでもいいんです、私じゃなきゃダメです」
「そうですか」
マディンゴはそう言いながら私の頭にかぶりものをかぶせました。
「ほら、祥明も手伝って」
「はいはい」
マディンゴはさっきと同じ言葉を言って、今度は祥明が返事をしました。
「さあ行くわよ」
その声が聞こえた瞬間、目の前が真っ白になりました
首を動かしても一面真っ白
「首動かさないの」
マディンゴの声がはっきり聞こえました
まだ深くは行っていないようです
しかし返事をすることができません
体中の感触がなくて、体中しびれているような感覚・・・
これは先ほどと全く同じでした
ゆっくりと真っ白な視界は真っ黒になっていきました・・・・・・・・