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記憶室とカード

「ここは、記憶室よ」


「え?」


あまりにもおかしすぎる上、聞いたことがない部屋の名前に驚きしかありませんでした。

記憶室とはどういうことでしょうか?

いくらここが会議室のようだとはいえ、イマイチ、言葉の意味が分かりません。


「なにか覚えている記憶はあるか?」

今度はマディンゴではなく、祥明よしあきが言いました。


「え??」

突拍子な質問なのと、誰もこの部屋についてこれ以上説明してくれないことに頭を抱え始めました。


とりあえず、なにか自分に関する記憶を探ってみますが、ダメです。

覚えているのはせいぜい、祥明の地図が飛ばされてしまったことぐらいです。

自分が結局何者なのか分かりません。


「やっぱりか」


「こんな人、初めてよ?」


マディンゴと祥明が頭を抱えました。

なぜか全員頭を抱えることになってしまいました・・・。


「あの・・・」


「「??」」


「なんですか?記憶室って・・・ここ会議室じゃないんですか?あと棚に並んであるカードは何ですか?」


マディンゴがちらりと私を見ました。

「あら、ここに来るの、初めて?」


「はい」


絶対そうです。もしそうならしっかり覚えています。

記憶が今ないから言い切れないけど・・・・。


「ふうん。じゃあ、まず説明するか」

マディンゴは深呼吸をしました。


「まず、ここはね、マディンゴシティ」


「まんまだな」

マディンゴは祥明に鋭い視線を送りました。


「遮らない、話を止めるな」


祥明は軽く「すんません」と謝りました。


「ここはね、オアシスがなくても立ってる。


 ほとんどの場合、オアシス、砂漠にあるものは、砂嵐で空間が変わるときに消えてしまう。

 でもあたしは膨大な予算とたくさんの年月をかけて、このテントでできたマディンゴシティを建設

したの。

 長くかかったわ~・・。そして、外見は狭く、内面は広く造った。ここは私の思考の全てといっても過言ではないわ。この町は二つに分かれているんだけどね、ここはその中の一つ、『みんしょ』のエリア

の『ウララの館』。

 名前はよく考えずに付けたんだけどね・・・この館では記憶の管理を行っているの」


「記憶の管理?」

私は復唱しました。やっと割り込むことができた言葉がこれでした。


マディンゴはペラペラとしゃべっていくのでとても割り込めずにいたのです。


「この地ははね、記憶がこぼれてくるの」


「こぼれてくる?」


私は首をかしげました。


「そう、こぼれてくるの・・・こぼれてきた記憶はカードとなって空から降ってくる」


「カード・・?・・・・あっ」


私は気が付きました。棚に並んでいるカードは・・・、


「そう、記憶のカードなの」


マディンゴは私の考えを見透かしたかのように言いました。

それなら祥明の質問も記憶室の名前の由来もなんとなく分かります。


「私の記憶のカードはここにあるんでしょうか・・・?」


「う~ん・・」


マディンゴは思い悩んだように棚をちらりと見ました。もちろん棚には記憶のカードがぎっしり詰まっています。


「それがねえ・・・記憶があなた、あまり覚えてないみたいだし・・・」


「特定できない・・・と?」


「うん・・・」


力なくマディンゴは言いました。

つまり・・・・・

私はずっとこのまま?!自分の名前も分からず、自分の正体も分からず、生きろと?

せっかくここまで来たのに・・・・


「あれ?なんか前来たより、カード増えてないか?」


「うん・・・そうなの・・

 なんか最近多くて・・返すよりも行方不明の物が増えてしまった・・・」


マディンゴは重いため息をついきました。


「・・・す・・な・・・・に」


「はっはい?」


「すきな・・ろ・・・に?」


「も、もう一回言ってください?」


「・・・好きな色は何ですか?」


「す、好きな色・・?」


マディンゴはなぜかテンションが下がって声が聞き取れませんでした。私は「み、水色」と言うと、マディンゴは何も言わずに記憶室から出ていきました。


「え?」


なんでマディンゴは出ていったのでしょう?・・・そしてなぜ祥明は平然としていられるのか・・?

記憶室には茶色い正方形の机とともに、四つ椅子が置いてありましたが、フニャンと、床に座り込みました。不安で腰が抜けました。

祥明はそんな私をなぐさめも、声もかけず、ただただ、白い天井をじっと見ていました。


「お待たせ」


それから、どのくらい経ったのでしょう?マディンゴが何やら丸いものを持ってきました。

しかし完全なる、丸ではなく下の方は穴が開いていて、丸い形の周りにはいろんな色のチューブが右往左往

してなんだかちょっと古いからなのかは分かりませんが、汚い・・・ような気がしました。


「それは・・・なんですか?」


「ん?まあね」


マディンゴはなぜか私の質問には曖昧な返事をしました。いや、これは答えではないような・・。

マディンゴはせっかく持ってきた・・・・・・なんかを机の上に置き、カードがたくさんの棚を探り始めました。


「何をしてるんだ、マディンゴ」


「ん・・・?あ、あった」


マディンゴの言った、「ん?」は果たして祥明の質問に対するものなのか、見つからないものに対してなのか分かりません。


それよりも、マディンゴは棚の中から、カードを一枚取り、祥明と私に突き出しました。

カードは水色で、・・・しかもちょっと白い線が入っていて、新品のように見えます。そして、とてもキラキラしているようにも見えます。・・・・いや、それは紫色の場違いのシャンデリアのせいなのか・・・?


「・・・とりあえず、これをはめて」


マディンゴの『これ』とはさっき、マディンゴが持ってきた、・・・・何だか分からないものでした。

確かに穴はありますが・・・・


「これ、私の頭に入るんですか?」


「入る、必ず」


なぜかマディンゴはそう言い切りました。


「でも、何のために・・・?」


「記憶を取り戻すために」


マディンゴは真剣な顔で言いました。しかし全くその説明をしてくれません。

私は忘れられたように立っている祥明を見ました。祥明なら詳細を説明してくれるはずです。


ところが、祥明は机の上に置かれた、・・・なんだか分からないものと、水色の記憶のカードを見ていました。全く目を合わせようともしません。


「え・・・?」


「ほら、つべこべ言わず、かぶって」


マディンゴはそう、言います。でも、質問したいことがあるのです。

なぜ、記憶を取り戻すためにかぶらなきゃならないの?それにこのなんだか分からないものは何なのか?

私はなんだか動けませんでした。


「・・・・・」


「うわあああ」


マディンゴが無理やり、かぶせました。その中に透明なガラスがあったので、前が見えました。

でもそこまでしてやる必要は・・・


「祥明、手伝って」


「うん」


素直に祥明はうなずいて、マディンゴと一緒に後ろに回り込みました。

さすがに視界では限界で何をやっているのかさっぱり分かりませんでした。


でも、なにかをいじりました。私の何かを。


「でも上手くいくか?」


「知らないわよ、やってみなきゃ」


マディンゴと祥明の声が聞こえた後・・・・、

ガラスが真っ白になりました

え・・・?

湯気で白くなったんだと思い、ガラスを拭こうとしましたが、手の感触がありません

というか、体の全ての感触が、ない・・・


白かったはずの視界はたちまち、真っ暗になってしまいました・・・




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