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マディンゴ

「うわああああ」


祥明よしあきはすごくびっくりしたようですが、同時にテントの骨組みをつかみ取っていました。

テントはそれでもびくともせず。

祥明は肩で息をしながら、テントの中を見るよりも、私の顔を見ました。いや、睨みつけに近い、「見る」でした。初対面の人をこれほど怒らせたことは多分ないと思います。

ーいや、記憶はないので言い切れませんが・・・・。


「・・・あのお・・・」


「すみません・・・裏を返していたので」


もう、自分でも何を言っているのか訳が分かりません。


「すみません・・・」

私は先ほどよりも強く、言葉を主張し、軽くお辞儀しました。


「まあいい・・。ずっと見栄を張るのも嫌だ」



祥明はため息をついて、テントの隙間から、外を覗き込んだ。


「しっかしまあ・・・さっきの砂嵐は大変だったなあ」


「それでも、テントは・・びくともしない・・・・」


それだけが不思議でした。

どんなに引っ張り込んでも、どんなに必死ですがりついても、揺れさえしなかった。


「まあな・・・かおっ・・・・マディンゴのこだわりだからな」


「そうなんですね・・・・」


テントの中を振り返って確かめました。

外見ではすごく小さく感じたのですが、意外と中は大きいことが分かりました。

テントの中ではミニ市場を切り開き、どこか遠くでは暗いお城の影が見えてきます。まるで町。小さな町。

テントの紫がよい効果を出し、なんだか怖い反面、楽しい感じが出ています。

時々、上では虹が輪を描き、その上で白い翼が生え、さらには頭の上に立派な角の生えている馬が遊んでいるように見えます。


「あれ、なんですか?上の馬は?」


「知らないのか?子供のころ、よく遊んだんじゃないのか?ユニコーンだよ、ユニコーン」


ユニコーン・・・・。

どこかで聞いたようないい響きなのですが、なかなか分かりません。

明らかに祥明は怪訝な顔をしました。


「おや、そんなことも分からないのかい?」


「ゲッ・・・!」


「おやー」どうたらこうたら・・を言ったのは祥明ではありませんでした。

不気味なほど、目の前に女の人が立っていました。上に気を取られすぎて、前には気が付かなかったのです。

しかもなぜか、祥明は若干引き気味・・・・。


「・・・誰ですか?」


「あら、あたしは」


「この人はマディンゴ。俺、言ってなかったか?」


マディンゴ本人の説明を押しのき、素早く祥明は紹介をしました。

もちろん、マディンゴはとてもとても嫌な顔をしました。

改めてマディンゴをじっくりと見ますー。


マディンゴは見た目的に三十前半、髪はウェーブにして、脇ぐらいまでおろしています。ちなみに髪の色は濃い茶色と、薄い茶色が混ざっています。紫の・・・なんかたくさんの三角が並んでる(柄の名前は分からない)ブラウス、紫がかった青い深いスカート、黒のタイツ、チョコのような茶色いくるぶしの隠れたブーツを身に着けていました。

そして、ところどころにふわふわと、丸いアクセサリーをつけていました。


「紫がお好きなんですね・・・」


「ええ、好きよ。紫なら、何でも!このテントだってね、すごい予算かけたのよ。分かる?紫のすごさー」


マディンゴはなぜか紫のスイッチが入ったようでぺちゃくちゃしゃべり始めました。

私は困惑気味に「そうですか・・・」というしかありません。

このマディンゴは何をするために話しかけたんでしょうか・・・?


「ねえ、それよりウララの館に案内して・・・佳織」


「あんっ?今、『佳織』って言った?今、言ったよね?え?ちょっとやめてくんない?」


祥明は走るように、市場の中で最大級の大きさ(多分)の建物に駆け込みました。

マディンゴは早歩きで祥明に追いつこうとします。

私は必死で付いていきました。この二人、とっても早いのです。

祥明はふいに止まりました。マディンゴの方を向いて。

一方、マディンゴはというと、とても怖い目つきで・・・・例えるなら獲物を捕らえようとする、ライオン

もう睨みつけなんかのレベルじゃありません。


「頭ぐりぐりやられたい?」


「痛い痛い痛いっ」


祥明の頭に容赦しません。

『佳織』と名を呼ぶだけでこうなるならからかってしまったらもう・・一撃・・・。

祥明が苦しそうだったのであえて「コホン」と咳ばらいをしました。

佳織と・・・いやちがう、マディンゴと祥明は、一斉にこっちを見ました。


「あら、お見苦しいところを・・・」


マディンゴは手を引っ込めました。

祥明は頭をすりすり撫でました。


「それで・・?あなたは何をしたいの?」


「・・・・」


答えられません。ちらりと祥明が「ウララの館に行きたい」とマディンゴに言ったのは聞いたのですが・・

何をしたいのか・・・・。

しかし代わりに祥明が答えました。


「この人の記憶を探してほしいんだよ・・名前とか分からないようだよ」


「名前が分からない?」


マディンゴは私の方を向きました。


「じゃああたしの名前は?」


「マディンゴ・・・・」


微妙にマディンゴは勘違いしたようです。私は認知症じゃありません。

いや・・・自分の名前、忘れるぐらいなら言い切れないかも・・・。


「言えるじゃない」


「違うよ、あの人は自分の名前が分かんないんだって」


「・・ああ・・・」


なぜか今になってマディンゴは私をじっくり見ました。

マディンゴはため息をつきました。私になのか、祥明になのか、それは分かりませんでした。


「来て」


なぜかすごく真剣な顔をして、トコトコとマディンゴが先に行きました。

祥明と私はその後ろをついていきます。

どうやらここはロビーだったようで、マディンゴは左の赤いカーペットではなく、紫のカーペットが敷かれた左のドアを開けました。ドアノブ式です。


「うわあ」


そこは棚一つ、机一つのマディンゴには似合わない、空気漂っていました。

机、棚で茶色のみ。棚にはたくさんのカード入れと、本のように差し込んであるカードがずらりと並んでいました。三段目には分厚い紫の布の上に透明な水晶玉が置いてありました。

マディンゴが明かりをつけました。


「あ」


この部屋には紫が布しかない!と思いましたが、間違いでした。

明かりの下に、紫のシャンデリアがこれでもかっと輝いていました。

それで部屋の空気が台無しだなと感じました・・・・。


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