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砂嵐と格闘

いきなり祥明よしあきが駆け出しました。


「祥明さん?」

大丈夫ですか?という意味もかねて、聞きました。


「知り合いがいるんだ。きっと、聞けば分かる」


「でも、オアシス、消えたじゃないですか?・・・それに地図も」


「まあね。でも、砂漠だろうが、関係ないからな、あの子は」

祥明は私の視線を無視して、どこか遠く、前を見つめています。私はそんな祥明を見ながら、しつこく、後ろからあわてて、ついていきます。


「名前はマディンゴ」


「マディンゴ?変な名前ですね」


「いや・・・・・本名は『佳織』なんだが・・・当の本人はその名前が嫌みたいでねえ」


祥明は区切りを入れるためなのか、なぜかやたらと大きいため息をつきました。


「自分で名乗ったんだよ、マディンゴって・・あっ」


祥明は急に自分の向きを百八十度回転しながら、前に出てきて、私に向き合いました。


「本人の前では決して『佳織』って呼ばないように・・・呼んだら・・・痛い目に・・・」


「痛い目・・・とは例えば、どんな?」


「それは訊いちゃだめだ」


私は首をかしげました。世の中、そんなに名前が嫌いな人っているでしょうか?名前を言っただけで、痛い目に合うって・・・

それよりも、名前の分からない私よりもましなのでは?


祥明はそんな私の様子を見て、微笑みながら、鼻で笑いました。見下しているのか、それとも微笑ましいのか全くどちらか、読み取れませんでした。


さらに、祥明は右に百八十度回転し、祥明が前になりました。

あっ、ズルい・・・。

・・・そんなに距離はありませんでしたが、タタタッと、駆け足で祥明に再び、ついていきました。


「あのテント、見えるか?」


「あっ・・・・はいっ!」


「あそこに、かっ・・・マディンゴがいる・・・というか、住んでる」


そこは黄色い砂漠に明らかに目立つ、紫の(みんな、おなじみ)三角形のテントでした。

この砂漠に何にもない分、紫が余計、際立って見えました。


「よし、あそこに・・あっ」


悲鳴を上げたのは祥明です。以前の地図を飛ばされた時よりも、必死そうで女子っぽいものでした。

それもそのはず、急に砂嵐が私たちを襲ってきたのです。私も悲鳴を上げたくなりました。

前回の砂嵐と、強さが全く違うのです。台風と例えても、おかしくありません。

なぜかこの地には砂嵐がつきものです。

さっきの会話がどれほど、平和で順調だったか、私は知る羽目になりました。


「早くテントの中に入れっ!」


そうです。こんなちんたら解説を入れている場合ではありません。

目を必死に手で押さえながら、何とかテントの中に走りこむことができました。


「くそお、このままじゃ、飛ばされるっ!」


ハッとして、後ろを向きました。祥明はまだ、砂漠の中で砂嵐と格闘していました。


「祥明さあんっ」


返事はありません。きっとそのぐらい、強い砂嵐なのでしょう。

いや、私が砂漠の中で砂嵐と格闘していた時も、サボテンやら、麻布やら飛んできて少々、目を傷めました。今、祥明の後ろでヒュ~と、ラクダが宙を舞っています。この世界、何でもありなんでしょうか・・?


「手を出してくださいっ、祥明さんっ!」

祥明は素直に手を伸ばしてきました。大丈夫です、なんとかテントの中の私の手でつかんだら、届きます。


私は砂漠へと手をのばしました。のびた手はみるみると、砂漠の砂をぷつぷつと反射していきます。

そのたび、私は痛いです・・。しかし目分量で予想していたものよりも実際は遠いものでした。

私は目の配慮でテントにある体に顔を寄せ、目を閉じました。そして少しずつ砂漠の方に体ごと近づけました。手だけでなく、今度は全身が痛くなりました。目は到底、使えものになりませんでした。


近づくごとにてを左右に振りました。指と指とではすれ違うのですが、どうしてか遠いのでした。

何歩か近づいているうちに、太い円の感触がしました。ほんのり温かいです。

瞬時にそれが祥明の手首だと認識しました。私はそれを逃さず、つかみ取ります。



さて・・・その後が問題なんです。砂嵐は「休む」ということを知らないかのように、

相変わらず私たちを打っています。

私も飛ばされそうな気がしてきました。


「どうしよう・・・」


目の前にあるのはテント。

私はテントをつかみました。

テントの質が怪しくなりましたが、テントはまるで私の要望を聞いたのかのように、びくともしません。


「んんんんんっ」


つかみながら、引っ張り込む。

しかし、祥明はおもちゃをねだる子供のように、とても重いものでした。余分な砂が祥明に付く上に、

砂嵐の抵抗が一緒についてきたのです。

でもそんな抵抗を振り切り、引っ張り込むしかありません。何とか私の体をテントに収めることはできたのですが、それではただ、祥明と手をつないだだけになります。


ピュウ~

いじめのように砂嵐は続きます。もっと勢力が高まったかのように感じられました。


「んんんんっ」


ーまるで綱引き。なかなか引き上げられません。それどころか、もはや助かっている私も乗っ取られそうでした。


「大丈夫かあ~」


いや、大丈夫ではありませんよ。祥明もそれを言っている場合ではないのでは?


「俺も手伝う」


ーー手伝えるならもっと早く言ってくださいよ~

祥明はテントの骨組みをグッとつかもうと、テントに近づいた。

・・・・いや待てよ・・、私は祥明の救助を助けているのに、その助けって・・おかしい?

つまり裏を返せば、「もう助けはいらない」ってこと??


「えっ」


すごい音を立てて、私はつい手を放してしまいましたーー。



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