祥明、疑う
あの例の子は、例の記憶の山へ走り出した。
よほど、記憶の山にたどり着きたかったのだろう。
・・・・・そこまでは分かる。
しかし・・・・・。
「絶対、若返ってないか?」
「・・・・・・」
俺は、何とかかろうじて、声を絞り出して、マディンゴに訊いたが、返事はない。
マディンゴの方はというと、ショックのあまり、口をあんぐりと大きく開けている。
しかも、その体制のまま、動かない。
「マディンゴ?大丈夫か?」
「あの子は大丈夫なの?」
その大丈夫は・・・若返っていることの『大丈夫』?
彼女は走りながらも、どんどん若返って、幼児ほどの年齢になった。
ざっくり見て、五、六歳だろう。
・・・・でもまさかまた若返るなんて・・・。
「こんなこと、日常のように起きてんのか?マディンゴシティでは」
「いいえ、そんなんだったら、こんなにパニックにならないでしょう??」
少し怒り気味で俺に叫んだ。
そんなに叫ばなくても・・近すぎて逆に耳が痛い・・・・。
ともかく、幼児になったあの子をこのまま放置しては危ない。
俺は、あの子の後を追った。
「え、ちょっと・・・」
マディンゴが困ったような声を出しているが、あいつはなんとかなるだろう。
マディンゴの声をまるっきり無視をした。
「大丈夫か?」
しゃがみこんで、あの子に話しかけた。
この子はやっぱり、一度戻った時のようにうずくまっている。
無意識にあの子の背中をさすった。
「うん・・・・・・なんだかこわいの」
やっぱり戻ってる。
頭を隠しているから完全には分からなかったが、その体の大きさといい、今言った声といい、もう幼児だった。
「怖いって何が?」
「だれかがついてきてるみたいで」
ついてくる?
後ろを見たが、誰もいない。
マディンゴはまだ、あそこにいるのか・・・
「お、俺?」
自分に指をさした。
「ううん、おにいちゃんじゃないの」
・・・お兄ちゃんとは俺のことなのか?
「もっとこわくてくらくてくろくて、つかまったらにげられないみたいな、すごくこわいもの」
「怖いものって?ヘビとか?大丈夫だよ、俺が守ってあげるか」
「ちがうの!!」
彼女は頭を足のところに突っ込んだ状態で、首を横に激しく振った。
「ヘビとか、クマとかじゃないの。わからないの」
・・・なら、何なのだろうか?
人影がするとか?
・・・・そういえば・・・
「祥明」
「はは、はい?」
なんだか思わず、慌てて立ったが、ただのマディンゴだった。
なんで慌てたんだ?
「どんな感じよ?」
彼女の『どんな感じ』は絶対、あの子のことに決まってる。
「なんか、怖いものがいるんだってさ」
「え?記憶の山、目の前にして?」
あの子はなぜだか、もうあと一歩で記憶の山!というところでうずくまっている。
「うん」
これしか言えない。
この子は謎だ。
変身したり、何か怖いって言ったり、それなのに自分が誰か分からない。
だから、この目の前の子のことを『あの子』だとか、『彼女』だとか、『この子』だとかしか言えない。
・・・・・なんか、引っかかるな・・・さっき何考えてたっけ・・・そうだ、あの子が幼児になる前のことだった・・
「ま、しょうがない。また、おんぶしてよ、祥明」
「えっ!!」
もう、あれはかなりトラウマになってるのに?
前の時のようにもしも、大きくなって重くなったらどうするよ!!
「嫌だよ」
「は?いやいや、あなたの仕事よ」
「だってさっきみたいになったら、どうするんだよ?」
「そんなの、知らないわよ。自己責任!あと、さっきはすんなりやったのに、なんで今はこんなべらべらしゃべってんのよ」
「そりゃあ、ああなるとは思わなかったからだよ!」
「もう、つべこべ言わず、行きましょうよ!!!!」
「え?」
不意に誰かに押された。
それはマディンゴも一緒だ。
・・・・・・まさか・・・
「戻ってる!!」
ああ・・・思ってたこと、マディンゴが先に言っちゃった・・・。
「はい?何言ってるんですか?」
・・・・やっぱり、この子は謎が多い・・・。
マディンゴが『あなた、何者!?』って言ったのもうなずける・・・。