ジャングルを歩く
それから、私たちは、話しながら歩きました。
最初は、私がマディンゴと祥明を押して、走っていましたけれど。
「あなた、本当に覚えていないの?」
「覚えているのは、祥明とマディンゴのことと、記憶室のこと、記憶のカードぐらいです」
マディンゴは、「はあ」と呆れたように声を出しました。
「本当に、記憶室からここに来るまでの記憶はないの?」
今度は祥明がマディンゴの代わりに訊きました。
「はい。全然、覚えてません。なんか、記憶室からここにワープしたように感じるのです」
「そうか・・・」
祥明は深刻そうに腕を組みました。
本当に覚えていません。それは本当です。
記憶が途中で途切れているのです。
「本当にあなたって何者?」
「だから知りませんって」
そんなこと、最初から知っていたならこんなに悩まないはずです。
「それより、どこに行くんですか?」
私は思い出して、言いました。
この自分のことの記憶のことしか、話しておらず、これからのことは全く話してくれません。
「それはね」
「記憶室に君の記憶がなかったから、記憶の山に行くんだ」
とげのあるマディンゴの言葉を遮り、代わりに祥明が優しく教えてくれました。
なんだか、マディンゴは不機嫌です。
遮った祥明をとても怖い目で睨みつけています。
確か、記憶室でも不機嫌だったような気がします。
マディンゴはどうしたのでしょうか?
「記憶の山?」
「記憶室には管理人がいるんだけどね、その人に拾われないで『ゴミ』『いらない』とみなされた記憶のカードたちが集まっているところだよ」
「記憶室よりも、量が多いけど、記憶のカードがないならそこしかないのよ」
やっぱり、怒ったような声で、マディンゴは付け足します。
「ここから、どこにあるんですか?」
「・・・分からないんだよ」
「え?」
「記憶の山は、生きている記憶のカードのたまり場だから、一日一回動くのよ。それで場所が日によって違うの」
「じゃ・・・今、どこにあるか分からないんですか?」
「だから、そういったじゃない」
マディンゴはまたイライラしたように腕組みをして、言いました。
そのせいで、とても空気が悪くなりました。
とても気まずくなりました。
ジャングルのような道をただ、ひたすら無言で歩いています。
さっきの会話はまるで嘘のようでした・・・。