佳織、見る
※このお話の主人公は佳織・・じゃなかったマディンゴです。
「私」はこのお話では主人公ではありません。
ザクザク
この空間に響き渡るのは、砂利の音だけ。
息の音もしない。
一緒に歩いているのは、祥明と・・・・う、あ、あの子。
あの子しか言いようがない。
自分が誰なのかも分からないらしいし、ここがどこかも分からないらしい。
じゃあ、もう記憶の意味をなしてないじゃないか。
認知症なのか、あの子は。
見かけでは十四ぐらいに見えたけど、ホントは九十とか、百ではないのか?あの子は。
「佳織~かおり~・・・・か・お・り~・・・」
「なんだよっ!」
また祥明はからかってるのか?本当にやめてほしい。
「え?」
勢いよく後ろを向いたが、そこには誰もいなかった。
すぐ後ろにいるはずの祥明も、その後ろのあの子も。
「幻聴?」
いや、その「佳織」のことよりも大事なのは、祥明と彼女のことだ。
一人でここをさまよっても意味がない。
あたしは、駆け足で来た道を引き返した。
「うううううっ」
「大丈夫か?」
気づけば、緑の草がボーボー生えている道端に、丸くなっているあの子と、彼女の背中をさすっている、祥明がいるではないか。
まるでそれは、泣いている娘を泣きやめさせようとしている父に見えた。
でも実際、彼女は泣いておらず、ただうずくまっているだけである。
「どうしたの?」
思わず、あたしは尋ねた。
祥明はあたしに気づき、顔をあげた。
「なんか分からないけど、うずくまってしまって・・・」
そんなの、説明になってない。
もっとちゃんと説明して。
そう言おうと口を開くと、あの子がうなった。
「・・私は誰?あなたは誰?この男の人は誰?ここはどこなの?ねえ、迷子になったの?
ねえ、家に帰らせてよ、家はどこなの?なんで私はここにいるの?ねえ?わたし、なんかわるいことしたの?わるいことしたから、おしおきにここにつれてこられたの?ねえ、なんでわたしはこんなふうにしゃべってるの・・・ぉぉぉ」
そんなのあたしだって分からない。
しかし、なぜか、この子、戻っている気がする。
事実、彼女を見てると、どんどん子供の姿になっている。
「・・・なにこれ」
あたしは思わず言った。
ここの世界で、誰かが突然若返るとかありえない。いや、どこに行ってもそうだ。
なぜ、さっきまで大人しくしていた十四の子が、あたしの半分の背丈しかない、幼児に若返るのだろう。
その証拠に、さっきまでぴったりだった、服がすごいぶかぶかである。
と言ってもここでグダグダしていたら、彼女の記憶のカードまでたどり着かない。
ずっと、幼児のままかもしれない。
それなら、もう動いた方がいい。
「祥明、その子おんぶしてあげて」
「お、おう」
祥明はまだ戸惑いつつも、幼児になったあの子を背負って、三人でまた行ったばかりの道に進んだ。
どうなっているだろう。
明らかにおかしい。
あの子は本当になんなんだ?
何者なの?
あたしはいくつも、おかしな現象を目の当たりにしてきたが、これは初めてだ・・・。
ザクザク
「・・・・重い・・重い重い重い重い重い!!」
「どしたの、よ・・」
急に何を言うのだろう。
冗談半分であたしは後ろを向いたが、後の言葉が続かなかった。
祥明にのせられている、幼児はあっという間に、小学校低学年、中学年、高学年と年老いていき、さっきの
十四ぐらいの姿に巻き戻ったではないか。
あたしはもう、固まってしまった。
しかし、のせている祥明は急に重くなったので、あたしに助けを求めている。
祥明はあたしがあっけらかんとしているのを見て、助けてくれないのを悟ったのか、乱暴にもあの子を強制的に地面に下ろした。
「うわあっ」
十四に巻き戻った、彼女は、手をついてなんとか地面で顔面強打を防いだ。
あたしはそれを見て、無意識にも体がプルプル震え出した。
「・・・・・あなた、何者?」
「それはこっちが聞きたいですよ」
そうだった、この子に本音は通じないんだった。