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どうやらこの魔族とは話し合う必要があるようだ  作者: 森谷礼二
魔族、筆を執る
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ルキ来襲

お読みいただき、ありがとうございます。

「お初にお目にかかります、アグレアス卿。わたくし、魔界のバルバス総裁の娘で親善大使代行候補、ルキと申します」


 リリスと一緒に帰宅する途中、僕は一人の少女に声をかけられた。

 ルキと名乗る少女を見て、リリスは驚愕しているようだ。

 真っ赤なゴスロリ風ワンピースは、まるで初めて会ったときのリリスと色違いであるかのようだ。リリスと同様に幼さが残るが、どことなく気品を感じる小顔に、少し切れ長でややキツめの赤い瞳、真っ赤な髪は黒いリボンでツインテールにしている。


「ルキ……いったい何しに来たんっスか!」

 リリスがルキと名乗る少女を睨みつけながら問い質す。

「あら、どこのワイバーンのフンかと思ったら、腐った毒饅頭から湧いて生まれてきたという噂の、フンコロガシのリリスじゃないですの。もうとっくにどこかの辺境で野垂れ死にしておられるかと思ったのですけれど、まだしぶとく恥も外聞もなく生きていらっしゃったのですね。ずいぶんとお久しぶりですこと」


 ルキと名乗るこの少女は、礼を尽くした僕への態度とは打って変わって、リリスには上品な口調ながら次々と罵倒を浴びせてくる。

「駄犬なあなたの存在があまりにも矮小(わいしょう)すぎて、わたくしにはすぐに認識できませんでしたわ。豚以下の格付けな下賤(げせん)(やから)を視界に入れる習慣が、わたくしにはあまりございませんものですから、ごめんあそばせ」


「おいリリス、どんな知り合いだ?」

 ボロクソ言われているのにもかかわらず、まるで言い返さないリリスに耳打ちすると、

「魔界学園の同期で、なにかとリリスに因縁をつけてくる、いけすかない貴族の娘っス」

 と、敵意むき出しの顔でルキを睨みつけたまま僕に答えた。


「わたくし、この度、父バルバス総裁の名においての親善大使代行選出に対する異議申し立てにより、新たに親善大使代行候補として人間界に派遣されてまいりました」

 ルキが宣言する。つまりは親のコネを利用して、リリスの親善大使代行就任に待ったをかけたということか。


「そ、そんなの聞いてないっス!」

「今、言いましたわ。その中身の残念なオツムの両側面についている二つのビラビラしたものは、ただの飾りですの?」

 冷たい目でリリスを見据え、有無を言わせないルキ。


「報告書によれば、メス豚のリリスは分不相応にもブヒブヒと鳴きながら小説をお書きなさるようですわね。そこにこのわたくしも参戦いたします。もちろんアグレアス卿のご意向は尊重されますが、基本的には勝ったほうが代行職に就き、負けたほうは代行の下で雑用をすることとなります」

「くっ……絶対に負けないっス!」

「ふんっ、ちょっとばかり先代アドレアス卿に目をかけられていたからといって、いつの間にかちゃっかりと親善大使代行などという要職に就こうとする、抜け目のないチリメンジャコ以下の下衆なあなたも、このわたくしが来たからには、もはやこれまでですわ。審査員の目があまりにも節穴だった羅生門賞では不覚を取りましたが、今度こそ馬糞が服を着ているような存在以下のあなたに、きっちりと引導を渡してさしあげますわ」


 二人の間に火花が散る。

 魔力を感知できない僕にさえ見えるように、本当に火花が散っているのだ。


「では勝負の詳細は後日改めて協議いたしましょう。今日のところは、わたくしはこれで失礼いたします。アグレアス卿、見苦しいところをお見せ致しましたこと、深くお詫びいたします。ではごきげんよう」


 そう言い残し、ルキは何か魔法の詠唱らしきものを唱えると、一瞬でその場から消えた。

 リリスは怒りに打ち震えている。


「なあリリス、なんでルキって娘は、僕にだけ丁寧(ていねい)で、リリスのことはあんなにぞんざいに扱うんだ?」

 すると少し涙目のリリスは僕を見上げて

「魔界では、序列や階級は絶対なんっス。ルキの家はサトル様が相続する予定の爵位よりも序列が下ですので、それで敬意を払ったと思うっス。でも、平民のリリスは、貴族にとってゴミのような存在なんっス……」

と悔しそうに言った。

 どうやら魔界は、思った以上に厳粛(げんしゅく)な階級社会のようだ。


「けどさ、ほら、僕の意思は尊重されるんだろ? 確かに僕はある意味リリスを試している最中なんだけど、僕が待ったをかければ、あのルキって娘とわざわざ勝負しなくても良いんだし……」

 打ちひしがれるリリスを、僕なりになぐさめてみる。

「いえ、正々堂々と勝負してやるっス」

 リリスは険しい顔で応えた。

「魔界では序列や階級は絶対っス。でも、リリスはそんなものに負けたくないっス。貴族の威光を振りかざすルキの下で働くなんて、BL本禁止やチョコレート禁止よりも嫌っス!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「――なるほど、勝負するのであれば、公募の新人賞よりも、ネットの小説投稿サイトのほうがいいかもしれませんね」


 リリスがルキに宣戦布告された次の日の放課後、文芸部での作戦会議上で、昨日のいきさつを聞いた二階堂先輩が言った。


「公募の新人賞ですと、どちらも落選した場合、優劣がつけられません。でも、ネットの投稿サイトでしたら、アクセス数やランキングによって優劣がつきます。それに、ネット小説から人気に火が付き、書籍化やアニメ化までなされている作品も、今では少なくありません」


 リリスは今、三つの勝負を背負い込んでいる。

 一つ目は僕が言った『リリスの本気を見せてみろ』だ。思い悩むリリスには悪いが、協力者の出現によって逆にグダグダになりそうな感があったので、ルキというライバルの出現は、良い発奮材料となるのかもしれない。

 二つ目は『小説をヒットさせ、アニメ化する』だ。これはそれなりに時間もかかるし、正直、現状ではなかなか難しいだろう。もっとも、MPを使ったチート技を駆使すれば、話は別なんだろうけど。

 三つ目は『ルキとの決着をつける』だ。これについては、ネットの投稿サイトによる勝負となるなら、僕が独断で勝敗を決めることではないだろうし、事の成り行きを見守るしかない。


 リリスは昨日のショックを引きずっているのか、憮然とした態度で二階堂先輩の話を聞いている。

 そんなリリスを見て、二階堂先輩やアイリスも困惑しているようだ。


「もちろん、リリスさんに有利な勝負を持ちかけたいところですが、こればっかりはいかんとも……」

「資料探しや、息抜きのBL本の提供などは喜んで協力しますけど、実際に書くのはリリス本人でないと、フェアじゃありませんからね……」

「私も資料として、秘蔵のDVDや動画はいつでも提供いたしますよ」

「痴女モノのAVは、ラノベの資料にはなりませんよ、ダンタリオン……」


 すると、リリスは突然小さく唸りだした。


「ぅぅぅ……」

「ん? どうしたリリス」

「ううう……」

「なんだなんだ?」

「うっ、があああああ!」

 やばい、リリスが壊れた。


「ルキのばかぁあああ! あ・い・つ・わぁああ! いつもいつもいつもいつも、リリスのやることなすこと追いかけて邪魔しやがってええっ!」

 とうとうリリスは感情が爆発したらしい。


「リリスが新しい使い魔を飼ったときも、対抗して色違いのプチドラゴンを飼ったり、リリスが魔界モールでワンピースを新調したときも、わざわざ店を調べて色違いのワンピースを買ったり、リリスが羅生門賞にエントリーしたときも、あいつ絵画のほうが得意なくせに、わざわざ同じ羅生門賞にエントリーしてきやがったっスよ!」

 リリスは興奮して僕の胸ぐらをつかみ、まくし立てる。

「こうなったら、さっそく明日から本気出すっス! もうけちょんけちょんにしてやるっス!」

「お、おちつけリリス、挫折フラグだから、本気を出すならせめて今日からにしろ」

 しかし、リリスの興奮は収まる気配がない。

「羅生門賞は伊達じゃないところを見せつけてやるっスよ!」

 リリスの目は、某名作野球マンガばりに燃えている。


「ところで、その羅生門賞って、いったいどんな賞なんだ?」

「伝統と格式と栄誉のある、魔界学園の作文コンクールっス!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ネットの投稿サイトでの勝負をルキが承諾し、公平性を期すためにリリスが読んだものと同じ本を急遽買い揃えてルキに渡し、ルキの人間界での拠点となっているマンションに時間を十倍に増やす空間魔法を三日分かけ、日本語の読み書きもできるようにするなどの一連の作業を終えた後、リリスは早速、小説の執筆に入った。

 公正な勝負のため、これ以降はリリスも空間魔法を使えないことになった。

 また、僕はある一定期間、リリスが執筆中の小説や、彼女たちが投稿した小説を読めないことになっている。これはルールではないけれども、「リリスにも同じ条件で文句なく勝ちたいという意地があるっス」とリリスに徹底されたのだ。

 そんなリリスは、大好物のチョコレートパイを大量に買い込み、毎日、何かに取りつかれたように自室に籠っていた。学校でも、せっかく日本語の読み書きを覚えたにもかかわらず授業も上の空で、ノートに授業とは関係ない何かを黙々と書いているようだった。

 ルキの動向は知る(よし)もないが、リリスへの対抗心が強い彼女のことだ、おそらくはリリスと同様に身を削るような思いで執筆していることだろう。


 正直、僕は暇だった。

 文芸部部室こと社会科準備室に顔を出しても、なぜかアイリスの姿は見えず、二階堂先輩しか部活に出ていなかった。

「リリスさんはすでにオカルト研究部と文芸部に入部届を出していますが、サトル君はどうしますか?」

 二階堂先輩が僕に入部を(うなが)してくる。

 さっそくどちらの部にも入部したリリスは、すでに彼を『二階堂部長』と呼んでいる。

 でも僕は、まだ入部に関しては保留している。

「実は僕、一応、軽音部に所属しているんですよ。今は休部というか、活動を休止していますけど」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ――軽音部を休部しているのは、例の能力が少し関係していた。

 やるからには本気で何かに打ち込みたい僕と違い、他のメンバーは口では一丁前なことを言いつつも、練習よりも部室で駄弁っている時間のほうがはるかに長かった。

 自然、中学の頃から孤独を紛らわすためにギターを弾いていた僕とは、レベルの差が出る。

 それが一向に埋まる気配すらないのだ。


「なあ、ちゃんとやろうよ」

 ついにしびれを切らして漏らした僕の一言に

「お、おう、当然だろ」

「俺、やってるよ。家で練習も毎日してるし、もうちょっとで、なんつーか、壁を越えられそうなんだよな」

「そうそう、あと一歩? って感じだよな」

 彼らからは限りなく黒に近いグレーのオーラが立ち昇っていた。


「サトルは焦りすぎなんだよ。それじゃモテないだろ」

「もっとリラックスしてやるべ?」

「楽しまなきゃ意味ないじゃん」

 そりゃ音楽を楽しむなら望むところだが、実力もないのにただ馴れ合っていても仕方ないじゃないか……。


 案の定、文化祭での演奏はボロボロで、その後、僕はやる気をなくして部活に出なくなった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「――なるほど、サトル君は軽音部だったのですか。でも、うちの学校は文科系のクラブはかけもちOKですので、考えておいてもらえませんか? 部員が一人もいなくなれば即廃部ですけど、活動内容報告をしないと廃部の候補に挙げられます。一人でも部員が増えれば活動実績となりますし」

「わかりました。実際、僕も何だかんだでほとんど毎日来ていますし、考えておきます」


 リリスやアイリスがいる文芸部も楽しいが、数百年前に人間界に来たという二階堂先輩の話も、かなり面白かった。

 なかには史実がひっくり返るような、とんでもない話も出てくる。

 なにより二階堂先輩は、いまのところ一切嘘をつかないので、僕も安心して話ができた。

 二階堂先輩も「こんな話はサトル君にしかできませんね」と、まんざらでもないようだ。


 そんなこんなでダラダラと毎日を過ごしているうちに、当初リリスと取り決めてあった、二人のネット投稿小説を僕が読める解禁日がやってきた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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