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どうやらこの魔族とは話し合う必要があるようだ  作者: 森谷礼二
魔族、筆を執る
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タイトル

お読みいただき、ありがとうございます。

 結局、リリスは連絡もないまま家に帰らず、アイリスこと石津川愛理とともに三日間学校を休んだ。

 四日後、「すみませんっス、つい研究に夢中になってしまったっス」とアイリスの家から直接学校に登校したリリスからは、長時間読書と分析をしていたとは思えないほどの覇気が漲っているのを感じた。



「おや皆さんお揃いで。私が文芸部部長の、三年A組・二階堂清隆です。好きなバヌアツの島は『エロマンガ島』、好きなオランダの町は『スフェベニンゲン』です」


 放課後、久しぶりに社会科準備室に集まった僕たちは、魔界イメージアップ作戦会議の続きをすることになった。

 久しぶりに集まったといっても、この四人が揃うのが四日ぶりなだけで、僕はリリスがいなくて暇だったこともあり、一応毎日顔を出していたのだが。


「やあアイリスさん、今日もお綺麗ですね。もし私が同じクラスだったら、今頃とっくにアイリスさんのリコーダーや体操服を拝借して、自宅でフィーバーしているところですよ」

「あなたが同じクラスでなくて幸いです。相変わらず変態ですね、ダンタリオン」

「誰が変態ですか、失敬な。確かに私も小学校時代の学級会では『先生! 二階堂君が女子をいやらしい目で見てきます!』と、クラスの女子全員から糾弾され、『ん~、セカンド性徴初期のプリティなバストに、将来性をルックしていただけなんですけどねぇ~。セ●ム、してますか?』と弁明したところ、どうやらミスターのマネというネタが古すぎたようで、火に油を注ぐ結果になっていたものですが……」

「それはネタの古さ云々より、弁明ではなく恥知らずな居直りだったことが原因ではないかしら、ダンタリオン?」

「しかし、今の私は、自宅でもずっとネクタイを締めているほどの紳士なのですよ。もっとも、それ以外の衣服は一切着用しませんが」

「もはや全裸よりもタチが悪いですね……」


 ずいぶんと息が合っているが、この二階堂先輩と『アイリス』とのやり取りは、ここでのお約束なのだろうか。

 何だかんだで本人達は楽しんでいるようなので、別にいいんだけれど。


「ちわっス、二階堂先輩」

「やあサトル君、おつかれさまです」


 そんな挨拶をしている様を見て、リリスとアイリスがこそこそと話しているのが聞こえた。

「アイリス、このカップリングは、どういう組み合わせっスかね? リリスたちがいない間に、ずいぶんと進展しているように見えるっスけど」

「そうね、『眼鏡といえば鬼畜攻め』と世間では相場が決まっているけれども、ドМなダンタリオンの場合、『へタレ受け眼鏡』というところかしらね」

「なるほど、奥が深いっスね。それにしても、魔族には両性具有の種族がいるっスけど、人間のオスにはもれなく『ヤオイ穴』なる器官があったとは、リリスも知らなかったっス」


 どうやらアイリスの言う『布教』とは、このこと(BL)だったらしい。

 てか、そんな器官はねぇよ!


「ところで石津川さん、今は文芸部なのに、どうして『アイリス』なんだ?」


 僕は気になっていたことをアイリスにたずねた。

 彼女は今『文芸部および通常モード』の眼鏡の地味子、石津川愛理ではなく、髪をほどいて眼帯をつけた、自称魔王の娘『アイリス』だったのだ。

「これが夜の血族で闇を(つかさど)る私の、術式解放した真の姿なのです、アグレアス卿」

 相変わらずグレーのオーラを発しながらのイタい発言に、まるで真意が窺えない。


「おいリリス、どうなってるんだ?」

 リリスに耳打ちすると、

「さあ? リリスにもわかんないっスけど、アイリスの家で時間を十倍に増やす空間魔法を使った頃あたりから、あの姿じゃないと怯えて話してくれなくなったっス。時間に酔ったんっスかね?」


 なるほど、なんとなくわかった。

 アイリスはリリスのことを、自分と同じ中二病仲間だと思い込んでいたところ、本物の魔法を見せつけられて驚き、虚構の世界に引きこもってしまったのだろう。

 考えてみれば、僕のような能力も持たないただの人間が、リリスの荒唐無稽な話を本気で信じ、簡単に受け入れられるわけがない。


「では、第二回作戦会議を始めるっス!」



「――とまあ、こんな具合に、長編小説を書いて公募の新人賞に応募し、受賞して作品が刊行され、シリーズ化して、ある程度人気が出たあたりから、アニメ化の話が来るようになるのが一般的なようです」

 二階堂先輩のレクチャーが続いている。


「公募の新人賞は、応募して審査を受け、受賞するまでに数か月を要します。手分けして下読みと呼ばれる選考委員が、賞によっては数千もの応募作品を必ず誰か一人は読みますし、通常は何段階も審査がありますからね」

「ふむ、けっこう狭き門で、なかなかの長期戦っスね。まあだいたいアニメ化までの流れはわかったっス」

 神妙な面持ちでリリスは頷く。


「小説を書く際は、特に『てにをは』の使い方には十分に気をつけなければなりません。例えば『顔を出す』と『顔に出す』を間違えると、とんでもないことになりますからね」

 大事なことを、余計なひと言で時々台無しにしながらレクチャーを続ける二階堂先輩。


「それから、新人賞を受賞するためには、カテゴリーエラーを防ぐために賞の傾向を研究したり、オリジナリティのある設定や、魅力的なキャラクター、斬新なストーリーなどを作る必要があるのですが……」

「そのへんはけっこう自信あるっス。二階堂部長からいただいた入門書以外にも、何冊か指南書を買って読んだっスし、最近の人間界のことまでいろいろ調べながら、人気ラノベの研究もしたっス。今のリリスは、ラノベのことだけでなく、日本のサブカルチャー周辺事情にまで詳しくなっているっスよ!」

「なるほど、執筆に向けての準備は整えてあるということですね」

「はいっス。絶対に賞を獲れるかどうかはわからないっスけど、これでもリリスは以前、魔界の『羅生門賞』を獲ったっスから、わりといい線いくと思うっス」


 人間学の研究書約二万冊の編纂に加え、そんな賞も獲ったことがあるというリリスからは自信がみなぎっており、ずいぶんと頼もしかった。


「ではさっそく、いくつかのアイデアを発表するっス。あらすじはまだっスけど、最近のラノベ風に、内容がなんとなく想像できるような長いタイトルを考えてきたっス」

 そう言ってリリスはカバンから何枚かの紙を出した。


忌憚(きたん)なきご意見をお願いするっス」


 どうやらその数枚の紙には『最近のラノベ風に内容がなんとなく想像できるような長いタイトル』が書かれてあるようだ。

「どれどれ……」


 一枚目。


【魔界征服を目論む天界を相手に、人間界から転生したニートが無双でハーレム】


「どうっスか? さりげなく魔界と人間界の友好をテーマとして入れてみたっスけど」

「う~ん、なんだか『魔界征服を目論む天界』ってところ以外は、ありきたりな気がするぞ」

「えっ? そうっスかね。う~ん、けっこう最近の傾向を取り入れたからっスかも……じゃあ次、逆パターンっス」


 二枚目。


【人間界の学園に転校した魔族のニートが無双でハーレム】


「どうっスか? これも最近の傾向を取り入れてみたんっスけど」

「というか『ニートが無双でハーレム』は鉄板なのか?」

「そこはほら、テンプレっていうやつっスよ」

「それに、これもどこかで見たことのあるような設定の気がするぞ。だいたい『無双でハーレム』以外は、まんまリリスじゃんこれ」

「リリスはニートじゃないっスよ! う~ん、わりと自信があったんっスけどねぇ……じゃあ最後っス」


 三枚目ラスト


【血の繋がっていない妹とツンデレ幼なじみが毒舌美女の先輩と無双でハーレム】


「……これはちょっと面白そうかも」

 ストーリーは全く想像できないけれど。


「まあタイトルや内容は、もうちょっと考えてみるっス」

 そう言いながらリリスはタイトル案の紙をカバンにしまい込んだ。

「ああ、ぜひそうしてくれ」


「あと、何十冊もラノベを読んで思ったんっスけど、ラノベにおいて、ほぼ必須要素のハーレム展開が、リリス的にはどうしても納得いかないんっスよ。そんなのよっぽどイケメンで、かつ半径10km以内がブ男揃いでない限り、ありえないじゃないっスか」

「そりゃそうだけど、中高生男子の妄想を満たす要素があるほうが売れるんだろ。男なら誰だってモテたいだろうし」

「そこでリリスは、自然な形でハーレム展開になるような設定を考えたっス。ただ流行を追うだけじゃない、ラノベ界に一石を投じるような作品を生み出してみせるっス!」


 リリスの意気込みとは裏腹に、僕は早くもさっき頼もしく感じたことは、どうやら勘違いだったのではないかと思い直している。


「ちなみに私も、タイトルだけ考えてみました」


 今度は二階堂先輩がカバンからファイルを取り出す。


「なんでしたらそのままパクっていただいてもかまいませんよ」

「あざっス、二階堂部長! ぜひ参考にさせてもらうっス!」


 リリスは目を輝かせているが、僕には嫌な予感しかしない。


「大ヒット作品の亜流ですが、ダンジョン攻略モノ、転生モノ、妹モノと3つ考えてきました」

「どれどれ……」


【ポーションと間違えてローションを装備してダンジョンに来たが、出てくる魔物がサキュバスやケモミミ娘ばかりで結果オーライ】


【転生したら独身美人OL所有の電マだったヴィン! ~肩凝り無き御主人様との文字通りウィンウィンな関係~】


【お兄ちゃんのことなんか『一本』としか数えてないんだからねっ! この海綿体!】


 嗚呼、一瞬『読んでみたい』と思ってしまった少し前の自分を、思いっきり殴りつけたい……。


お読みいただき、ありがとうございます。


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