最終話 ささやかな勝利
最終話です。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
結局、勝負終了日の一カ月前にあっさりと魔界ランドは逆転し、その差は開く一方となった。
見習い天使アルメルスは、責任を取らされ『公設秘書の助手』から『公設秘書の助手見習い』に降格されたそうだ。つくづく見習うのが好きな奴だ。
アルメルスへの罰ゲームはなんだかうやむやになってしまったけれど、魔界側は代理戦争とはいえ天界に勝利したことで、大いに盛り上がっている。
終了日の夜にはいつもより盛大な花火が打ちあがり、閉園のカウントダウンが場内にこだました。
酒がふるまわれ、ビールかけやシャンパンファイトがあちこちで繰り広げられている。
浮かれたスタッフたちが【シー・クリーチャーズ】の巨大プールに次々と飛び込み、これまた浮かれた白クジラに飲み込まれ、潮吹きで空中に放り出されて飛び上がっていた。
ドラちゃんこと【ライド・オン・ドラゴン】の胴長ドラゴンも、【レプティル・ワールド】の西洋型ドラゴンの仲間たちと一緒に、優香の奏でるピアノ・ワルツに合わせて踊っている。
もうすっかり感覚がマヒした人間のフードコートスタッフたちまで、半漁人や半人半馬のケンタウロスたちと肩を組んで盛り上がっている。
もちろんルキやアイリスも、クラッカーを鳴らしまくり、紙テープを投げまくり、紙ふぶきを舞い散らせ、ことあるごとに他のスタッフとハイタッチするなどして喜んでいる。
もうすっかりヨゴレ芸人が板についた二階堂先輩も、すでに閉園前から全裸にネクタイ姿となっており、あらかじめ配っておいたトマトや生卵などを女性陣からぶつけられながら、器用にネクタイで局部を隠し、全力疾走で園内を逃げ回るなどしてはしゃいでいる。
明日から大規模空間魔法による改装工事に入るため、みんな大いにハメを外している。
総支配人の僕は、みんなから真っ先に胴上げされた。
なんだか照れくさいが、もちろん悪い気はしない。
次に胴上げされるのは、この企画の言いだしっぺで、副支配人でもあるリリスの番だろう。
こんなお祭り騒ぎ、リリスはさぞ浮かれているだろうと思いきや……。
「あれ? リリスはどこに行ったんだ?」
◇ ◇ ◇ ◇
リリスは喧騒から離れた場所で一人、東京湾の夜景を眺めていた。
なんだか声をかけづらい雰囲気だったが、僕は意を決してリリスに近づいて話しかける。
「どうしたリリス、あっちでパイ投げ合戦が始まってるぞ、行かないのか?」
リリスは僕のほうを見て会釈したが、すぐに夜景に目を戻した。
「元気ないじゃん、何かあったの?」
さらに僕は声をかける。
「勝ったっスね……」
リリスはぽつりとつぶやいた。
「ああ、勝ったさ」
「終わったっスね……」
「ああ、終わったよ」
すると、リリスは僕に駆け寄り、僕の胸に顔をうずめてワンワンと泣き出した。
「おいおい、どうしたんだよ、嫌なことでもあったのか?」
リリスは首を振る。
「リリスは……嬉しいっス……」
僕はリリスの頭をやさしく撫でてあげた。
「勝ててうれしいよな、まあ無理もないさ」
「いえ、天界ランドに勝ったことよりも、みんなが……ゲストの皆さんにも、スタッフのみんなにも、あんなに喜んでいただいたことが……リリスは……リリスは嬉しいっス……」
リリスは嗚咽し、涙をあふれさせる。
考えてみれば、リリスは最初たった一人で人間界に来て、やり方はともかく、使命を果たすために小さな体でずっとがんばってきたんだよな。
慣れない土地で、なかなか結果を出せず、ようやくつかんだささやかな勝利。
僕は、今日だけはいつまでもリリスにつき合うことにした。
魔界ランドは、明日から改装工事に入り、人間界との友好のための施設に変更となる。
ただ、要望が多ければ、もちろん勝負期間中のような低料金というわけにはいかないが、いつでも魔界ランド復活が可能になるよう、ほとんどの設備は分解して、衣装や備品類とともに魔界で一定期間保管される。
今回の騒動を含め、リリスが来てからというもの、僕は相続した資産をかなり使ったけれど、それでもまだ79京MP以上も残っている。
いまのところ、人間界との友好関係を築くという目的には、まだほんの一歩前進しただけだろう。
でも、これだけMPがあれば、今後もっとすごいことができるのではないだろうか。
これからどんな困難が待ち受けているのかわからないけれど、協力してくれる人、応援してくれる人がいる限り、僕たちは一歩ずつでも前に進んでいけると思う。
了
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
アイデアと気力と時間があれば、また別の作品を書いてみます。




