意気揚々
すみません短めです。
「イエスの前と後ろには『サー』をつけるっス! それが虫けら以下の価値しかない貴様らに与えられた唯一の権利っス! わかったっスか、このウジ虫ども!」
「「「サー・イエッサー」」」
「声が小さいっス! ジジイのファックのほうが気合が入っとるっス! もう一度、口からでっかいクソをひねり出すっス!」
「「「サー・イエッサー!」」」
「リリスは厳しいっスが公平っス、種族差別は許さんっス! 竜豚・獣豚・アンデット豚、すべて平等に価値がないっス! 今の貴様らは中学生男子の部屋のティッシュなみの消耗品っス! わかったっスか、このクリ●ックスども!」
「「「サー・イエッサー!」」」
毎週日曜日恒例の開園前全体朝礼で、オリーブグリーンの軍用カウボーイハットをかぶり、竹刀を片手に魔界ランド副支配人のリリスは、壇上からスタッフ全員へ向け、某ベトナム戦争映画のハート●ン軍曹ばりに罵詈雑言まじりの叱咤をまくし立てている。
といっても、スタッフの一同は、
「ハハハ、またはじまったよ、しょうがねぇなぁ」
「先週は『イエス・ユア・ハイネス!』で、先々週は『ジーク・ジ●ン!』だったよね」
「最初の週は下唇をつき出して『おいっス! 声が小さ~いっス! もう一度おいっス! シーッ、静かに! 今からこの刑務所を脱獄するっス』だったよなぁ」
「二週目は確か、アゴをシャクレさせて受け口で『元気っスか~!』から始まって、最後は『1・2・3・ダーっス!』だったな」
「人間学って、こんなことばかり習うのかな」
「ちょっと面白そうだから、俺も魔界に帰ったら勉強してみようかな、人間学」
「そうだな、いつもの『ショウワカヨ』っていうツッコミも気になるしな」
「お約束のアレもそろそろじゃねえか? ……ほら、叩かれた!」
「アグレアス卿も大変だな、もうマイスリッパがボロボロだぜ」
などと苦笑しており、海兵隊訓練学校のような地獄の訓練が行われるわけでもない魔界ランドの朝礼は、終始なごやかなムードに包まれている。
すでに勝負開始当初の悲壮感は払拭され、手ごたえをつかみつつある魔界ランドスタッフの士気は高い。
僕は初めて自分自身にMPを使い、『ポリグラフ』の能力を営業時間中にブーストした。
すると、細かい内容まではわからないが、お客様が潜在的な不満をかかえていることや、お客様が今現在困っているのが感知できるようになった。
そして僕が場内でそれらの黒やグレーのオーラを見つけた時には、状況を見た上でスタッフに指示を出し、声をかけさせるようにした。
それにより、顧客満足のため手厚いサービス、いわゆるホスピタリティが向上した。
また、盗撮などのトラブル防止のため、場内は一部を除き撮影禁止にしたが、スタッフにカメラや携帯電話を渡しての記念撮影や、スタッフとの記念撮影ならOKとした。
そして記念撮影要員確保とホスピタリティ向上のために、場内巡回スタッフを要所要所で多めに配置した。
また、フードコートのテナント各店舗には、調理器具まで揃えた状態で、食材のみ用意してもらうだけの完全無料入居をしてもらった。各店舗には、初期投資も地代家賃も水光熱費も負担しなくてよい代わりに、そのぶん販売価格を安く設定してもらった。
入場料収益は、納税予定分や現金支払い分を残すとそれほど多くは余らなかったが、MPに換算して裏方も含むスタッフ全員に分配した。ただ、お客様を脅かす役をやっているスタッフへの寸志や、調教魔法で憎まれ役をしてくれているモンスターに与える餌代は、少し多めに色をつけた。
特に一番体を張って働いている、リリスが『ドラちゃん』と呼んで可愛がっている胴長ドラゴンには、特別に餌を数ランク上のものにしてあげた。
僕の資産を財源に魔界から報酬や餌が支給されているので、本来はそういった心付けは不要だったのだが、実際にお客様が落としていったお金を分配すると、スタッフのお客様に対する心構えがまるで違ってくる。
ちょっと困ったのは、もはやチョコレート☆サバスに欠かせないメンバーで、人混みが大の苦手なアイリスという馬を走らせるためのニンジン、つまりガチ●モ本を何度も大量に買う羽目になってしまったことだ。
BL本のこととなると、人混みでもわりと元気だったコミケでのアイリスを思い出し、思い切ってガチホ●本を買って試しに読ませてみたところ、その効果は絶大だったのだ。
もはやソフトなBL本では元気が出ないアイリスのために、帽子と伊達眼鏡とマスクで変装し、時には身の危険を感じながらも、新●二丁目のルミ●ールをはじめとする都内のアダルト専門書店を制覇してしまった僕は、さぞや店員に真正のガチ●モだと思われていることだろう。
それらの本は、アイリスが「はうっ、ま、まさか、ダンタリオンとアグレアス卿も、こんなことを……ああっ!」などと、心外かつ恩知らずなことをつぶやき、時には興奮しすぎて鼻血まで出しながら読み、よくわからない身体メカニズムによる鋭気を養っていた。
さらにアイリスが読破した後のそれらの本は、地階にあるチョコレート☆サバスの楽屋に貯め込まれ、リリスやルキはもちろん、アイリスの布教を受けた一部の女性スタッフたちの福利厚生の一端を担っているという。
でも、僕と二階堂先輩が話しているのを物陰から覗いて、アイリスとその入信者の女性スタッフたちが一緒にキャッキャ言っているのは、正直やめてほしいものだ。
こうしてスタッフのモチベーションは維持され続けた。
また、噂を聞きつけたマスコミ各社が、次々と取材を申し込んできた。
これはどんなTVコマーシャルよりも宣伝になる。
嘘をつけない僕は、少々不安ながらも、マスコミ対応を広報担当の二階堂先輩に一任した。
僕たちが学校を休んでいたことに対する記憶操作で、また数百億のMPが費やされるだろうけど、今はそんなことを気にしている場合ではない。
僕が有料にこだわったのは、ブランディング(ブランド化)とスタッフのプロ意識のためだった。
一度『魔界ランドは楽しい』というブランドができあがると、お客さんは勝手に価値をつけて楽しんでくれるのだ。
また、お金を払って来てくれたお客さんに満足してもらった、という成功体験は、スタッフのモチベーション向上につながる。
しかしそれらは、入場料無料やスタッフ無報酬だと成り立ちにくいのだ。
「そこまで考えていたっスか。サトル様って、こういうのに向いてるんじゃないっスか?」
「いやいや、僕なんかアイデア出しの時に関連書籍やビジネス書を何冊か読んだだけの『にわか』だよ。今は潤沢な資金があって、利益度外視でいいからできてるだけなんだ。本当に投資を回収するだけの利益を出すとなると、もっとシビアだよ。娯楽産業っていうのは、業態にもよるけど、最終的には何割かしか生き残らない世界なんだ。人間は飽きっぽいし、衣食住のような生きるために必要不可欠なものではないからね」
能力をブーストした僕の目には、天界ランド全体から黒やグレーのオーラが濛々(もうもう)と立ち昇っているのが見えた。
幸いにも魔界ランドからはそんなオーラは出ていない。
勝負期間の終了まで約二カ月。逆転は目前だ。
お読みいただき、ありがとうございます。
最終話は8月10日の予定です。
ぜひ最後までお付き合いください。




