来場者の反応
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勝負開始から約三か月が経った。
変化が現れたのは、ネットやSNSに精通している若者世代からだ。
彼らの天界ランドに対する意見や感想は、おおむね次のようなものだった。
※ ※ ※ ※
「天界ランドのスタッフって、なんかやたらと偉そうだよな」
「だよな。なんで遊びに来てるのに説教されなきゃなんねえんだよ」
「俺なんか無理やり変なビデオを見せられたぜ」
「私も。そんで途中で出て行こうとすると『最後まで見ないと不幸になりますよ』って脅されるんだよ」
「俺は言葉巧みに変な壺を売りつけられそうになったぜ」
「おいおい、勧誘行為禁止じゃなかったのかよ」
「事務局に文句言ったら、入信の勧誘ではなくてグッズの販促行為だからセーフなんだと」
「なんかあいつら、目が死んでるよね」
「なんだか雰囲気からして抹香くせえんだよ、天界ランドって」
「パビリオンによっては、信者が占領しすぎて入りづらいところもあるよね」
「ずっと同じ展示で、もう飽き飽きだよな」
「そりゃ一生に一度見れないような世界の宝物ぞろいだけど、警備が厳しいのに加えて、ずっと信者が群がっているから、あんまり近くで見れないんだよな」
「その点、魔界ランドっていつ行っても毎回いろんな仮装やコスプレが見れて、飽きないよね」
「それに天界ランドって、別のパビリオンのスタッフ同士が仲悪くて、客の前で平気で喧嘩してるよな」
「そうそう。この前なんか、○○○○教のスタッフが●●●●教のパビリオンに、残飯や爆竹を投げ込んでたぜ」
「実はその話には続きがあるんだよ。今度は報復として、夜中に●●●●教の信者たちが○○○○教のパビリオン前に集まって、集団でウ●コをしようとして事務局に取り押さえられたらしいんだよ」
「それにしても、天界ランドの食事、タダなのはいいけど、なんか精進料理みたいだよな」
「だよな。しかもやたらと薄味なんだよな」
「最初はそうでもなかったんだけど、今では支給係のスタッフも、やらされてる感があからさまで、あんまりやる気ねえし」
「まあ魔界ランドは当日中の再入場は無料だから、腹減ったら天界ランドでメシだけ食って、魔界ランドに戻ればいいんじゃね?」
「でも、最近、天界ランドにはホームレスっぽい人が増えてきたよな」
「そりゃ入場料も飲み食いもタダだからな」
「魔界ランドのメシはどこにでもあるようなフードコートだけど、ずいぶんと安いよ」
「だったら天界ランド、展示物を一通り見たら、もう用事なくね?」
※ ※ ※ ※
そして彼ら若者世代は、ネット上で勝手に天界ランドのネガティブ・キャンペーンを始め出した。
毎日のようにCMが流れる天界ランドに対し、某巨大掲示板に、
『【宣伝】天界ランド必死だなWWWW パート1【過剰】』
というスレッドが立ったことを皮切りに、MAD動画やバカコラ画像、告発サイトなどが雨後のたけのこのように生まれていった。
一方、魔界ランドは、若者を中心に、徐々にだが賑わいを見せ始めていた。
彼らの魔界ランドに対する意見や感想は、おおむね次のようなものだ。
※ ※ ※ ※
「魔界ランドのスタッフって、あんなに入場料安いのに、すげえ気が利いてるよな」
「だよな。ちょっとトイレに行くのに迷っていたら『どうされました?』って言ってすぐにスタッフが来てくれるんだぜ」
「着替えてるときって、なんだかワクワクするよね」
「あれだけ衣装が揃っていると、迷っちゃうよね。コスチュームセレクト館って、デパートみたいだもん」
「こないだ『最新特殊メイクセンター』に行ってみたんだけど、短時間ですんげえリアルなゾンビにしてくれて驚いたよ。本当に目玉からうじ虫が出てくるんだぜ」
「撮影フリーエリアには、有名なコスプレイヤーが何人も来てたよね」
「いろいろ着てみたいし、何度でも行こうよ。仮装すれば入場料が半額なんだし」
「ところでさ、あの【ライド・オン・ドラゴン】って、ドラゴンが最新のAI(人工知能)なんだって」
「らしいね。調子に乗って『もっと速く』ってみんなでコールしまくったら、ドラゴンが張り切っちゃって」
「あとでスタッフの若い兄ちゃんに、スリッパで叩かれながら怒られてたね」
「あれって最新の光学迷彩でレールが見えなくて、本当に空を飛んでるみたいだよな」
「俺は【アクアドライヴ】が一番面白かったよ。ちょっとネズミーランドのアレに似てるけど、もっとジェットコースター寄りなんだ」
「いろんな海の怪物がぎりぎりまで襲ってくる【シー・クリーチャーズ】もなかなかだったよ。最後はでっかい白クジラに本当に呑み込まれて、そのままゴールまで運んでいって降ろしてくれるんだ。最新のAIってすげえよな」
「【レプティル・ワールド】もすごかった。リザードマンがすげえ迫力で襲ってきてビビったよ。サラマンダ―は本当に火を噴いてたし、最後のドラゴンが襲ってくるところなんか、ぎりぎりで頭をかすめていくんだぜ」
「だよな。俺の前にいた人なんか、最後のドラゴンに帽子をくわえられて、また頭に戻されていたのには笑ったよ。すごいリアルだったけど、あれもAIなんだろうな」
「【コスモ・クライシス】も宇宙モンスターがグロくてすごい迫力だったよ。たまたま一緒に乗ってた小さい子供が泣き出したんだけど、最後は頭を撫でられて飴をもらってて、なんか和んだよ」
「それにしても魔界ランドって、スタッフの女の子も可愛いし、凝ってるよね。猫耳の娘なんか、耳をピクピク動かしてたよ。見たところカチューシャでもないみたいだし、あんなのどこで売ってるんだろ?」
「そういえばエルフ姿の美人スタッフさんも、つけてる長い耳を自在に動かしてたな。あれってどういう仕組みなんだろ?」
「スタッフといえば、下半身がリアルな蛇の着ぐるみのラミアちゃんが可愛いよな。あの着ぐるみの尻尾、トグロまで巻くんだぜ。最近の着ぐるみ技術ってすげえんだな」
「でもあの着ぐるみのスタッフの人たち、近くで見ても背中にチャックがないんだよ。いったいどうやって着てるんだろうね」
「このまえ、『魔界ふれあい牧場』ってところにも行ってみたんだけど、動物がみんな懐っこいの。でも、遺伝子操作らしくって、ウサギに角が生えてたり、猫に羽があったり、ちょっと変わった動物ばかりなんだ。『ケルベロスちゃん』って呼ばれている頭が三つある子犬は、たぶん精巧なロボットなのかな」
「キッズスペース内で、ちびっ子たちが勇者や魔法少女になって、魔王軍と戦う参加型のアトラクションもやってたね。子供向けの衣装もかなり充実してるよ」
「ああ、勇者や魔法少女の中に『大きなお友達』が若干混ざっているのが気になるけどな」
「ところで、魔界ランドのフードコートって、なんであんなに安いんだろ?」
「俺は飲食業だからわかるけど、あの値段じゃ原価と人件費だけでもなきゃ利益が出ないぞ」
「まあいいじゃん、安いんだから」
「そういえばさ、ちょっと前に少し話題になった『秋葉原チョコレート☆サバス』っていうアイドルグループが、『チョコレート☆サバス@魔界ランド』っていう名前に変えて、ここのメインステージで、平日は夕方に、日曜は一日三回の無料ミニライブをやってるんだって」
「ああ、見たよ。客席に物を投げ込まなくなったり、機材に鉄パイプを突き刺さなくなったりと、ずいぶん大人しくなってるけど、スリッパ片手の若い兄ちゃんが常に監視してるからかな?」
「歌とダンスは相変わらず凄かったな。歌詞も別の意味で凄いけど」
「サバスファンのハッピも仮装扱いで、持参すれば入場料が200円になるんだって。俺もアイリスちゃんのファンだし、ファンクラブの『甘鯖缶』に入ってハッピを揃えようかな」
「なんだお前、眼帯萌えだったのかよ。俺はリリスちゃん派だけどね」
「それにしても、超リアルな着ぐるみを着た非番のスタッフの人たちまで、さらにその上からファンのハッピを着て一緒に盛り上がっていたのには笑ったよ」
「俺の推しメン、ルッキーの毒舌も相変わらずで、またMCで客を罵倒して、土下座させて泣かせてたけど、あの客、実は喜んでるんじゃねえか? なんだかんだで毎回来てるし」
「あとさ、高校生ぐらいのバンドも、メインステージにたまに出てるんだ。演奏はまあまあ聴ける程度のレベルなんだけど、スリッパを後ろポケットに差したリードギターの人と、ピアノの超可愛い女の子だけは、すごく息が合ってて、超すごい演奏をするんだよ。私、もう一発でファンになっちゃったよ!」
「見た見た! 最後はサプライズでチョコレート☆サバスのメンバーが出てきて、サバスの曲をバンドアレンジ・ヴァージョンでやってたよね」
「なんでも、あのピアノの『こばゆう』って娘が、サバスに全曲を提供してるんだって」
「マジックショーもすごかった。本当にチェーンソーで箱ごと体を真っ二つにして、ステージ上が血まみれになって、切った断面まで見せているのに、箱が元の場所に戻った次の瞬間には、体はおろか箱まで元通りなんだ。仕掛けが全然わからないよ」
「あと、ニカイドーなんとかっていう眼鏡の知らない芸人さんが、下ネタ漫談をやってたよ。最後に裸でブリッジする『キリン』っていうネタをやろうとして、スタッフの若い兄ちゃんにスリッパで叩かれて、ステージから引きずり降ろされてたけど」
※ ※ ※ ※
その頃、天界ランドでは、総支配人の見習い天使アルメルスが苛立っていた。
前半の貯金もあり、今のところ総来場者数ではまだまだ魔界ランドに勝ってはいるが、天界ランドの来場者数は完全に頭打ちになっているのだ。
各宗教の信者という絶対的顧客を抱えてはいるが、一般客が日に日に減少している。
「おい貴様ら、なんだこのザマは。何かもっと来客者が増えるアイデアはないのか!」
アルメルスの叱責に、天界ランド運営委員会である各宗教の幹部一同は戸惑う。
「あの、総支配人、ちょっといいですか」
運営委員の一人が、おずおずと挙手して発言する。
「なぜ入場無料なのに、そんなに来場者を増やすことを考えなければならないのでしょうか?」
アルメルスは怒り心頭で、
「馬鹿か貴様ら、このままでは魔界ランドに負けるからに決まっているからであろう! この低能どもめ!」
と怒鳴った。
すると、運営委員である各宗教幹部は、口々に不満を言い出した。
「どうして魔界ランドに勝たなきゃならねえのか、意味がわかんねえよ」
「そんなもん知ったこっちゃねえわ」
「こっちは無理して金も人手も出してるんだよ」
「収益もねえし、入信の勧誘も禁止だってのに、なんでこれ以上協力しなきゃなんねえんだ」
「うちは来てくれる信者さんが喜んでくれるなら、それでいいんだよ」
「魔界ランドとも仲良くやりゃあいいじゃねえか。うちの宗派の教義は『汝、隣人を愛せよ』なんだぜ」
「その通りだよ、文字通りお隣さんなんだから、共存共栄でいいじゃねえか」
「魔界ランドから流れて来てくれて、うちの教えに興味を持ってくれる人もいるんだぜ」
「こっちは教皇様の命令だから仕方なくやってんだよ」
「うちなんか、信者さんからの貴重な献金と、ボランティア頼みでなんとかやってるんだ」
「俺なんか報酬なしの手弁当だぜ」
「そもそも、あんたは一切何もしてねえくせに、なんでそんなに偉そうなんだよ」
「てめえがアイデア出して勝手に実行すりゃあいいじゃねえか」
「だいたい何だよ、そのいつもくわえてるバラは。お前、ふざけてるのか?」
非難ごうごうで収取がつかなくなり、最後には身の危険まで感じたアルメルスは、
「き、今日のところはきゃいさん(解散)!」
と言って、運営委員会の会議から逃げ出した。
天界ランドの入り口では、「やだやだ、天界ランドやだ! 魔界ランドに行く~!」と子供が駄々をこねている。
その後、運営委員である各宗教幹部一同による連名の不信任決議状により、アルメルスは更迭された。
次回更新は八月八日の予定です。
残り二話、ぜひお付き合い下さい。




