テーマパーク会議2
「ご来場いただいたお客様に、魔族になってもらおうと思う」
思わぬ優香とのデートから二日後の放課後、僕は作戦会議でまとめたアイデアを述べる。
「ま、まさか転生魔法っスか? あれは禁忌魔法の最上級で、魔族が人間化するのは罰MP程度の軽犯罪っスけど、逆なら魔界でも重犯罪っスよ!」
リリスがあわてながら言った。
「いやいや、そういう人間を無理やり魔族化する類のものじゃない。説明が足りなかったな。つまり、来ていただいたお客様に、仮装やコスプレによる疑似魔族体験をしてもらうんだよ」
僕がそう説明すると、みんなはきょとんとしている。
「あの、アグレアス卿、僭越ながら申し上げますと、わたくしは人間がわざわざ魔族になりたがるとは思えませんのと、それがどう楽しんでいただけることになるのかも想像できかねるですが」
ルキの疑問に答える形で、僕はアイデアの説明を始めた。
「まず、『人間がわざわざ魔族になりたがらない』ってことだけど、実はそうでもない。もちろんずっとじゃなくて、ほんのひと時ならって話だけどね。ダーク・ファンタジーなんて創作のジャンルもあるぐらいだから、残念ながら魔族を忌み嫌う気持ちもあるけど、同じぐらい魔族への憧れも人間にはあるんだよ」
「はぁ、そんなものでしょうか」
当の魔族であるルキには、人間のこういった微妙な心理は分かり辛いのだろう。
「たとえばハロウィンには喜んでお化けの仮装をしたりもするし、ホラー要素を売りにしているロック・バンドもあるのは、夏フェスで見ただだろ? 実際、アイリスだって……これはまあいいか。とにかく人間には、魔族へのちょっとした憧れと、大なり小なり変身願望というものがあるんだよ」
「まだ少々納得はできかねますけれども、なんとなく理解はいたしましたわ」
「次に『なぜそれが楽しいのか』あるいは『どう楽しんでもらうのか』なんだけど、僕が『テーマパークは非日常的体験を提供する場所』って言ったのを覚えてる?」
「そういえば言ってたっスね。焼身体験や首つり体験、ヒモなしバンジー体験などは、スリッパ・アタックを食らいつつ却下されましたっスけど」
「つまりこの場合、『いつもとは違う場所に来た』という体験に加えて『いつもとは違う自分になっている』という体験が加わる」
「なるほど、確かにアグレアス卿のおっしゃるような相乗効果が生まれるかもしれませんわね」
「さらに『周りの人たちや一緒に来た仲間もいつもと違っている』とか『自分もそのいつもと違う世界を形作っている一人となっている』という、いわば参加意識の要素が加わるとなると、よっぽど本格的で大規模な仮装パーティでもない限り、他では味わえない体験になると思うんだ」
「な、なんだか最初は正直ショボいと思ってたっスけど、イケそうなアイデアの気がしてきたっス……」
「だから、出入口には巨大な更衣室を作って、入場者には最初に着ぐるみやコスプレに着替えてもらう。こちらであらかじめいろんな衣装を、色やサイズもいろいろ取り揃えて用意しておくんだけど、もちろんお客様に衣装を持ち込んでもらってもOK」
二階堂先輩の眼鏡が光る。
「ふむ、面白い試みですね」
「なんならこの際、最新技術と言い張って魔術を使ってもいいと思う。いっそ見た目の年齢や体型も変えちゃったりすれば、ご年配で本当は来てみたいけど気が引けているような人や、見た目のコンプレックスが強すぎる人にも、気軽に来てもらえるようになるかもしれない。洗脳は禁止だけど、擬態魔法は禁止じゃないからね」
「確かにルールではそうっスね。それに半日程度の擬態魔法なら、消費MPもたかが知れてるっス」
「それに、エキストラスタッフとして、多少の魔族が擬態もせずに混ざっていても、仮装したお客様に紛れてわからなくなる。つまり、メンテナンスなどの裏方をしてもらうことになる魔族のスタッフさんにも、そのまま堂々と表に出てきて気晴らしに遊んでもらえるってことだ」
二階堂先輩の眼鏡がますます鋭く光る。
「なるほど、そこに人間と魔族との交流が生まれるかもしれませんね」
「たとえ人間界の常識ではありえない姿のスタッフさんだったとしても、プロジェクション・マッピングだのホログラムだの、光学迷彩だの有機ELディスプレイによる最新の技術だの、AIだの最新のロボットだの、何とでも言い張ればいい。例えば首のないデュラハンやスカスカの骸骨男が場内を歩いていても、そりゃあ驚かれるかもしれないけど、『すごい技術だ』と納得はしてもらえると思う」
「さ、さすがアグレアス卿。ものすごい説得力ですわ」
「アトラクションは、正直、わりとオーソドックスなものでいいと思う。まあなるべく工夫はするとしても、別のところで他のテーマパークとの差別化を図っているんだから、そこをメインの売りにする必要はない。ただ、魔界にちなんだもので統一する必要はあるな。例えばリリスの考えた『ライド・オン・ドラゴン』なんかも、もっとソフトなものにすれば採用してもいいと思うよ」
「あ、ありがとうございますっス。ドラゴンへの調教魔法次第で可能っス」
「あと逆に、お客様に勇者やヒーローになってもらって、魔族を倒す体験をしてもらう、っていうのもいいかもね。もちろん武器や装備は安全なものを使って。まあリリスにとっては気に入らないかもしれないけど」
「い、いえ、天界ランドに勝てて、お客様に喜んでいただけるなら、もうこの際なんでもいいっス」
「そしてキャッチコピーは『毎日がハロウィン』かな。他には例えば『もっと、魔族になる』とか『あなたを思う、魔族がいます』とか『魔族、始めます』なんて感じで」
パクリはダメと自分で言っておきながら、パクりまくりのキャッチコピーを披露したところで、クラッカーが三つ鳴った。だからそんなものいつ用意したんだよ。
「素晴らしい。もしまだ彼が生きていれば、私はすぐにでもサトル君を元ビジネス・パートナーのウォルト・ディ●ニーと引き合わせていたところですよ! もっとも、しばらく組んだ後、なぜか彼は私に絶縁状を送り付けてきましたが」
「リリスは目からウロコが落ちたっス! もう納得しすぎて、なんだか視界がぼやけてきたほどっスよ! ……ん? ああっ、ウロコじゃなくてコンタクト落としたっス!」
「本当に素晴らしいアイデアですわ、アグレアス卿。……あら? わたくし今、パキッと何かを踏みましたわ」
「ぬおお、それ、リリスのコンタクトっスよ!」
「昭和かよっ!」
どうやらみんなにも意図が伝わったようで、僕はホッとした。
「しかし、それだけのことを無料提供で行うとして、MPの消費はかなりのものになりそうですね」
「まあそこはしょうがないっスよ。サトル様が出したアイデアっスから、承知の上っスよね?」
「かような体験が無料で味わえるとなると、きっとお客様も大勢いらっしゃることですわね」
「大勢……人混み……」
アイリスだけは青ざめる。ていうかなんでこうなるのにいつも律儀にここにいるんだろ。
でも僕は、無料を前程で話を進めるみんなに言った。
「いや、入場無料にするのではなくて、ほんの少しだけ入場料は取ろうと思う」
すると三人は、やはり驚きの表情を浮かべる。
「お待ちくださいアグレアス卿、『勝敗に収益は一切考慮しない』というルールは、天界側が言い出したことでしてよ?」
「そうっスよ、あいつら自分のところの信者を使って、人件費ゼロでさまざまな無料サービスをするつもりなんっスよ?」
「わりと短期間のこの勝負に、さすがにそれは無謀ではないでしょうか」
でも僕は、ここで信念を曲げないでおく。
「仮に一日や二日だけの勝負なら無料でもいいと思うけど、半年間となると、すべて無料ではいろいろと綻びが出てくると思うんだよ」
「うう……リリスにはサトル様の意図がまだつかめないっス……」
「たとえばだけど、普通に入場するなら千円、仮装してくれるなら半額の五百円、衣装持参なら二百円と、参加意識別に段階別の料金設定をつけようと思う。半額になるんだからわざわざ仮装なしで入場する人もあまりいないだろうから、仮装を促す効果もあるし、仮装はしたくないけれど来たいっていう人にも入ってもらえる。実質の入場料は平均五百円弱ってとこかな」
「でもアグレアス卿、どちらにしても赤字覚悟なのですから、入場料が実質五百円でしたら、いっそのこと無料にしてもよろしいのでは?」
「いや、たとえ少額でも、有料なのと完全無料では大きな違いがあるんだ」
有料VS無料。僕の考えが正しければ、これがおそらく今回の勝敗を分ける鍵となる。
お読みいただき、ありがとうございました。




