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どうやらこの魔族とは話し合う必要があるようだ  作者: 森谷礼二
VS天界ランド
19/25

テーマパーク会議1

「ブレーンストーミングですから、どんどん意見を出して膨らませ、批判や否定は禁止ということでお願いします」


 テーマパーク会議が始まり、司会役の二階堂先輩が発言を促す。


 ――ブレーンストーミング。

 大企業の商品開発などでも行われている、否定禁止の会議方法。

 参加者の発想力を最大限に引き出すことを目的としている。

 半分魔族のくせに、どちらかといえば保守的な僕には、苦手な分野かもしれない。


 人混みを想像するのもダメなアイリスは、すでに青ざめている。無理して出てこなくてもいいと思うし、実際そう言ったんだけど、なぜかアイリスは毎日この場にいる。


 一方、リリスは真っ先に挙手し、


「いくつかアトラクションを考えてきたっス」


 とドヤ顔で言った。


「では、このホワイトボードを使ってプレゼンテーションをどうぞ」


 二階堂部長に(うなが)されたリリスは立ち上がり、ノートを見ながらホワイトボードに何やら書き始めた。


【ヌプラッシュ魔運転】


 おい、思いっきりパクリじゃねえか。


 ……いや、これはブレーンストーミングだ。否定は禁止。とりあえず聞こう。


「まずゲストは、スリル満点の穴あき水漏れ泥船ボートに、定員オーバーの過積載で乗り込み、未開のジャングル奥深くの底なし沼を、不安定に流れていくっス」


 これはブレストだ、否定は禁止。とりあえず聞こう。


「ゲストを乗せた泥船ボートは、いくつかの滝つぼに落下したり、途中で猛獣や原住民に襲われたり、マラリアやアメーバ赤痢・その他風土病に苦しんだりしながらも、命からがらクライマックスまで辿りつくっス」


 これはブレストだ、とりあえず聞こう。


「最後は落差200メートルで溶岩地帯に決死のダイブを慣行するっス」


とりあえず聞こう。


「コンマ数パーセント以下の確率で奇跡的に生還したゲストには、もれなく粗品を進呈するという、スリルとサスペンスと愛と友情と冒険と感動の一大スペクタクル・アトラクションっス」


 すると二階堂部長は膝を打ち


「素晴らしい! 世界中どこを探しても見当たらない、オリジナリティに満ち溢れ、まるでちょっとした映画のような、文句のつけようがないアイデアです!」


 と絶賛した。


「ふふっ、リリスにしてはやりますわね。大変口惜しいことながら、わたくしも秀逸な企画であると認めざるを得ませんわ」


 ルキも二階堂先輩に続き絶賛する。


 アイリスは青ざめたままだった。もはや聞こえてすらいないのだろう。


「まだまだあるっスよ」


 リリスはさらにホワイトボードに意気揚々と書きこむ。


【お上手(お●ョーズ)】


「このアトラクションは、手製のイカダにゲストが乗り込み、魔の海域バミューダ・トライアングルを、海図もコンパスも水も食糧もなしで、途中でうず潮に巻き込まれながら、潮の流れまかせに航行するっス」


 それは航行じゃなくて漂流じゃねえか、とツッコむのを我慢している僕をよそに、二階堂先輩とルキから「おおぉ……」と感嘆(かんたん)の声が漏れる。


「海ピラニアの大群や、ホオジロザメはもちろん、クラーケンやシーサーペント、魔界の超大型肉食白鯨などの水棲生物が次々と襲ってくるのを、ゲストは上手く避けていくっス」


 二階堂先輩の眼鏡が鋭く光る。


「なるほど、『上手く避ける』が『お上手』にかかっているのですね」


 落語じゃあるまいし。


「奇跡の生還を成し遂げたゲストには粗品を進呈っス」


 すると二階堂先輩は机を両掌で叩いて立ち上がる。


「これまた素晴らしい! リリスさん、あなたは天才ですか? 天才なのですかっ!」

「これが開眼というものですかしら、感服いたしましたわ。どうやらわたくしの中のリリス評を、数段階引き上げなければならないようですわね」


 またもや二人はリリスのアイデアを絶賛する。


「次のアイデアは、ちょっと趣旨が違うものっスけど」


 好評に気をよくしたリリスは、さらに別のアトラクションのプレゼンを続ける。


【死んでレラ城】


「これはまあ【死ら逝き姫】のオマケの、各アトラクションの犠牲者から流用した死体が、むき出しのまま大量に放置されているだけの、ただの癒しの空間っス」


「いえいえ、そういうサブコンテンツも大事ですよ。ステーキにもつけあわせがないと、皿がさみしくなりますからね」

「リリス、あなたいつの間にか一皮むけましたわね。わたくしも置いて行かれないように精進いたしますわ」


 もはや二人は完全にリリスのアイデアに酔い痴れている。


「あと他にも、トカゲ型モンスターや大小のドラゴンが次々と襲ってくる【ヅュラツック・パータ】や、エ●リアンやプ●デターなどの宇宙生物が次々と襲ってくる【ヌペーヌ魔運転】も、生還者にはもれなく粗品として、棺桶一年分を進呈っス!」


 いつの間にそんなものを用意したのか、二階堂先輩とルキの手元からパンパンとクラッカーが鳴る。


「アトラクションの案もさることながら、粗品も素晴らしい! 棺桶一年分ということは、アトラクション終了後も奇跡的に軽傷な方には、ゴネて進呈しなくても済むのですね!」

「あなた、本当にあのガサツでスットコドッコイだったリリスですの? かようにも細やかな心配りまでしていらっしゃるなんて!」


 二人はリリスの企画を手放しで褒めちぎる。


「えへへ、照れるっスよ~、まあそれほどでもあるっスけど」


 頭を()きながら、まんざらでもない様子のリリス。


 ――もう我慢の限界だ。



「お前ら、アホかぁあああっ!」


 僕はとうとうブチ切れてしまった。

 もしここが昭和のお茶の間だったら、星●徹ばりにちゃぶ台をひっくり返していたかもしれないほどに。


「な、なんっスかいきなり、これは否定禁止のブレーンストーミングっスよ?」

「そうですよ、否定はするけど代案は出さないなんて、自分が優秀だと思いたいだけのオタンコナスで勘違い野郎のすることだと、私の友人のP.F.ドラッ●ーも言ってましたよ」

「アグレアス卿ともあろうお方が、どんだご乱心ですわ」


 いつものツッコミとはキレ度合が違うのを察したようで戸惑う三人。


 しかし構わず僕は続ける。


「まず前程が間違っているだろ! 人間界との友好が目的なのに、死者を続出させてどうするんだよ! 人間は魔族と違って、蘇生魔法も回復魔法も使えないんだぞ!」 


「「「うっ……」」」


 盛り上がっていた三人は、僕の指摘により一気に意気消沈した。

 リリスが関わって大盛況にもかかわらず、経営破綻したという魔界のテーマパークは、おそらく蘇生や回復魔法による経費拡大が原因なのたろうと僕は察した。


「そんなアトラクションは誰も乗らなくなるし、友好どころか警察が、いやもう場合によっては怪物退治に自衛隊や米軍すら動くだろ!」


 僕の叱責(しっせき)に、静まりかえる社会科準備室。


「まずは安全性を十分に考慮した企画を立てるべきだろ、そんなの大前提だ。死者はもちろん怪我人も出さない。あと、パクリはだめだ」


「そ、それならひとつ該当しそうなのを考えてあるっスよ」


 リリスはホワイトボードを消しておずおずと書き直す。


【ライド・オン・ドラゴン】


「これは東洋タイプの胴長ドラゴンの背中に、絶対に体が飛び出さないように配慮された安全バー付きのゴンドラを設置するっス。そこにゲストが乗り込んで、ドラゴンが大空に飛び立つっス」


「ふむ、ジェットコースターみたいなものか」


「サービス精神旺盛でお調子者のドラゴンは、次第にスピードを上げていき、最終的には音速をはるかに超えて、急旋回・きりもみ回転・急降下・地面すれすれの背面飛行からの急上昇などを、数十分間にわたってこれでもかとばかりに念入りに行うっス」


「……おい、まさかアトラクション名の由来は、ドラゴンがノリノリ(ライド・オン)だからじゃないだろうな?」


 どうやら図星だったようで、リリスはサッと目を逸らす。


「そして失神・失禁・脱糞・嘔吐・発狂・脳障害などを引き起こさなかったゲストには、粗品と空軍パイロットへの推薦状を……な、なんっスか? その振り上げたスリッパは! ああっ、痛いっス!」



お読みいただき、ありがとうございます。

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