第一弾PV完成、そして伝説へ……
「おやサトル君、お久しぶりです。ようこそDAW研究部へ。私が部長の、三年A組・二階堂清隆です。好きな数学の方程式は『パイアールの二乗』などパイ関係、もとい円周率関係です」
久しぶりに社会科準備室に顔を出すと、居たのはアレンジと思われる作業に取り組んでいる二階堂先輩だけだった。
おそらく三人娘は、都内のライブハウスで明日行われるファースト・ライブに備えて、校外のスタジオでリハーサルをしているのだろう。
昨日はリリスもルキも泊りがけのレッスンで家に帰っておらず、学校も休んでいる。
「すみません、ギターパート入れ以来、ご無沙汰してます。その後どうですか?」
すると、それまで黙々と作業をしていた二階堂先輩の眼鏡が鋭く光った。
「実はつい昨日、PV第一弾が完成して、ネットの動画サイトにUPしたところです。すでにものすごい再生数で、コメントもガンガン付いていますよ!」
「おお! ついにですか! 昨日はリリスもルキも留守だったし、今初めて知りました。いやぁボーカル入りの完成品を聞くのは初めてです。さっそく見せていただいても?」
「もちろんです。いま再生しますね」
二階堂先輩は作業中のDAWソフトをセーブして、ウェブブラウザを立ち上げ、動画サイトをディスプレイに表示する。
再生した動画には、リリスが黒地に白の襟、ルキは色違いの赤、アイリスは黒一色の、アイドルらしく普段よりもミニスカートなゴスロリファッションに身を包み、フォーメーションを組んで澄ました顔で静止している三人が映し出された。
照明の効果によるのだろうか、三人ともすごく輝いて見える。
「うわぁ、雰囲気出てるなぁ。それにしても、変わったセットですね。マネキン人形で囲われて……おおっ!」
そして前奏が始まると、さすがMPでブーストした三人のダンスはキレッキレだった。
もはやアイドルグループの枠を超えて、いっぱしのダンスユニットばりの高度な動きだ。
失礼ながら鈍そうな、あのアイリスですらも要所で華麗にバック転を決めている。
僕のギターも、こうやって動画で見ると新鮮な、それでいてちょっと照れくさい感じがする。
ダンス系のビートがループし、優香の奏でるメロディと絶妙に絡み合う。
アクロバティックでスピーディな三人のダンスが、ますます熱を帯びてくる。
そして前奏が終わり、MPで歌唱力をドーピングした彼女たちの歌が始まった。
◇ ◇ ◇ ◇
【ときめき☆ラブ心臓/秋葉原チョコレート☆サバス】
作詞:雨宮リリス&雨宮ルキ
作曲:こばゆう
編曲:二階堂キヨタカ
ギター:S@TORU
* * * * * *
あなたの熱い その心臓
(ドキッ☆ ドキッ☆)
握り潰したいわ
(ドクッ☆ ドクッ☆)
あなたの生っ白い どてっ腹に
(勇気を☆ 出して☆)
この刃物を 突き立てるの
(グサッ☆ ザクッ☆)
吹き出す血しぶきに 揺れる思いを込めて
(ヌメヌメの臓器 えぐり出しちゃえ☆)
あなたの と・き・め・き ラブ心臓
トカゲや蛇よりも気色いいわ
あなたの ぶ・ざ・ま・な 断末魔
虫けら以下の命は もはや風前の灯
もっとドキドキさせてよね
(もう死んじゃうの? つまんな~い☆)
(カッコ内はコーラス)
◇ ◇ ◇ ◇
三人は間奏で刺付き鉄球や槍斧、チェーンソーを振り回してセットのマネキン人形を次々とぶち壊しまくり、あらかじめマネキンに仕込んであった血糊による鮮血の雨を降らせていた。
アイドルグループのPVというよりも、スプラッター映画のクライマックスシーンのような、もはや狂気の沙汰な映像だ。
「どうです? 他のアイドルグループとは、ひと味もふた味も違うでしょう?」
ドヤ顔のプロデューサー兼マネージャー・二階堂先輩の眼鏡が鋭く光る。
「だ、台無しじゃないか……」
失敗した。
優香が作った曲の完成度、二階堂先輩のアレンジ力など、さまざまな要因に目が眩んだ上、バンド練習の忙しさにもかまけて、この連中のトンデモっぷりをすっかり忘れていた。
考えてみれば、小説やゲームの内容、それに夏フェスでリリスとルキがデスメタルやゴシック系のバンドのステージに釘づけだったり、玩具屋や金属加工業者、ホームセンターなどの意味不明な雑費類を大量にMP換金承諾要求してきたり、実は二階堂先輩が意外とロクデナシだったりと、こうなる予兆は十分にあったのに……。
これじゃ僕と優香のちょっといい友情話のくだりや、親父の形見のギターによる感慨深いくだりが、全くの台無しだ。
◇ ◇ ◇ ◇
僕の予想を裏切り、『秋葉原チョコレート☆サバス』は、ライブ中の「毒舌姫ルッキー様の罵倒MCコーナー」が話題となるなど、史上最狂クラスのバカドルグループとして、カルトな人気が、ネットを中心に、ほんの一瞬だけ出た。
そしてPVも『猟奇なあの娘に誘われて密室』『恋と手斧と惨殺死体』『生首畑でとっ捕まえて』などの新曲を次々と動画サイトにアップロードし、往年のハードコア・パンクばりに猛烈な毒を吐き散らした。
だが、ライブで鎖や竹刀・サーベルを振り回して客席後方から登場する、客席に躊躇なくダイブする、毎回機材をぶっ壊す、客席に赤いインク入りの水風船・爆竹・ロケット花火などを次々と投げ込む、容赦ない罵倒で客を泣かせる、プレゼントの花束でファンを叩く、火を噴いてあやうくボヤ騒ぎになりかけるなど、大昔のパンクバンドや悪役レスラーばりのやりたい放題をした結果、とうとう都内中のライブハウスから締め出しを食らってしまう。
また、それら一連の行為は、一度、学校帰りに制服のままライブを行ったときの様子がネットの動画サイトに流れたことが原因で、学校関係者にも知れ渡る事となり、文化祭の出演申請まで却下されてしまった。
もちろん当初の目的である魔族の魅力を大々的にアピールするための、TVをはじめとする各種メディアへの出演はおろか、大手芸能プロダクションとの契約もメジャーデビューもなされないまま、活動はフェードアウトしていくことを余儀なくされた。
面白い、続きが気になる、抱いて!(女性のみ)、ぜひうちの孫娘の婿に(資産家のみ)などと思った方は、ブクマや評価をおねげーしますだ、ダンナ様。




