6.ヨシロウふたたび
第一会議室の中央には首をがくっと倒した白髪の少年が椅子に座り、それを馬蹄形に取り囲むようにテーブルが置かれている。テーブルには特捜本部のメンバーが詰めている。
ノートPCに接続されたプロジェクタから、少年の頭上のスクリーンにラインの映像が投影される。
――例ノ神代文字ノさいとヲ自動翻訳シタトコロ、驚クベキコトガワカリマシタ。彼ラハ今、だいだらぼっちヲ使ッテ、無差別てろヲ企テテイマス
「ヨシロウ君、ダイダラボッチって何なの?」
早乙女ルカが訊く。
「人間の恰好をしたコロボックルのスパイのことだ。日本に二万人ぐらい生息しているらしい」
山野辺丈太郎が答える。
――彼ラハ銃ヲ手ニ入レマシタ
「何だって」
埼玉県警本部長の川瀬警視が興奮気味にテーブルを叩く。
「だったら、今まで以上の被害が出るということなのか」
――残念ナガラ、ソノ可能性ハ否定デキマセン
ルカは吐息をつく。
特捜本部の会議に出席したのは初めてだった。
女のコロボックルに自宅のマンションで襲撃を受けた翌朝、魔太郎を連れて埼玉県警に出勤すると、昨日、徹夜だったという山野辺から魔太郎といっしょに特捜本部の会議に出席するよう指示された。
「ところで銃はどうやって手に入れたんですか」
千葉県警の佐々木警部補が訊く。
――だいだらぼっちハ、社会ノ様々ナ分野ニ入リ込ンデイマス。広域指定暴力団ノ幹部ニ成リスマシタだいだらぼっちガイマス。彼ガ銃ヲ密輸シテ、他ノだいだらぼっちニ流シタト思ワレマス
「でも一つだけわからないわ」
ルカが言う。
「神代文字のサイトにアクセスしたら、瞬時にコロボックルの刺客が来るはずよ。ヨシロウ君はなぜアクセスしても襲われないの」
するとスクリーンに長い文章が書きこまれる。
IPアドレスやGPS情報などを、先方のサーバーをハッキングして書き換えたのだという。こうすればアクセスしてもコロボックルから自分の現在地を知られることはない、とのことだった。
ヨシロウは最後におそるべき文を書き加えた。
――タッタ今、大宮ノこんびにえんすすとあニ、銃ヲ持ッタだいだらぼっちガ近ヅイテイマス