空とクリスマス
「サンタさんへ。友達が欲しいです! 」
中央魂管理局と呼ばれる天国と現世の境目にあるこの場所に一通の手紙が届いた。
「おい、暇神!なんで私の所にこんなふざけた手紙が届くんだ?私はいつからサンタになったんだ!!」
不機嫌そうにその少女は暇神と呼ばれる丸くて大きいその名の通り暇な神様に怒鳴りつけた。
「まぁいいじゃん。いいじゃん。空なら叶えてあげられるでしょ。叶えてあげなよ。」
暇神は眠そうにそう答えた。
少女の名は神崎空。
死者の魂を天国に導くか地獄に落とすかを審議するこの中央魂管理局でもトップクラスの役人だった。
空は不機嫌そうにしながらも手紙の裏側を見た。
「たけだ まり」
暗号のような文字を見た後、「あぁ名前か。」と空は呟いた。
クリスマスイブの日がやって来た。
「たけだ まり」という名の女の子はサンタが来てくれることを信じて静かに寝たふりをしていた。
日付が変わった。
どこかで古い時計の鐘のようなゴーン、ゴーンという音が響く。
瞬間、窓の外を眩い光が覆った。
「サンタさん!!来てくれたの!!」
まりは飛び起きた。
すると、「こっちだよ。」と声がして、まりが振り向くと、そこには赤いローブを着た空がいた。
「おんなのひと?」
まりがキョトンとしていると、「メリークリスマス!!私はサンタだ!さぁ、君の願い事を聞かせてごらん!」と大げさな演技をしてみせた。
まりは答えた。
「私は…私は…友達が欲しいです!」
まりは正座して空にそう言った。
いつもならここで「馬鹿かお前は。そんなもん私に願うな。叶えられるわけないだろ?だからお前は友達が出来ないんだ。」と言うような性格の空だが、今日はこう言った。
「わかった。なら、私が友達になってあげよう。それともう一つ「友達の約束」を教えてあげよう。」
「やったー♪ねぇ、友達の約束、教えて!」
まりははしゃぎながら空に聞いた。
「全部で3つあります。1つは心の底から仲良くしたいと思うこと。仲良くしたいと思わないと友達にはなれないよ?2つ目は優しくすること。優しくすると、自分も優しい気持ちになれるし、友達も優しい気持ちになれます。3つ目はありがとうをちゃんと言うこと。どんなに仲が良くてもこれは忘れちゃ駄目だよ?」
「わかった。…でも友達ってどうやって作ればいいの?」
「友達になろう。って言えばいいんだよ。」
「ええっ…でも…」
「大丈夫。まりちゃんなら出来るよ。友達の私が言うんだから間違いないよ。」
「わかった!えっと…」
「私の名前は空だよ。」
「ありがとう!そらちゃん!」
そう言った後、まりは眠くなったのか大きなあくびをした。
「もう遅いから寝よっか。」
空はまりに布団をかけてあげた。
「ねぇ、空ちゃん。また遊びに来てくれる?」
「もちろん、また来るよ。」
まりは静かに眠りに落ちていった。
「メリークリスマス。」
空はまりの部屋を後にした。
廊下に出ると、もう一つ寝室を見つけた。
空は躊躇なくその寝室に入った。
そこには30歳くらいの女性が眠っていた。
「久しぶりだな。茉莉花。」
空はそう言った。
彼女は竹田 茉莉花。
自殺しようとしていたところを空に止められ、生きることを決意した人間の一人だ。
空は自殺者を減らすという仕事も任されている。
その時だった。
「久しぶりね。空。」
茉莉花がそう言った。
空は「しまった…」と思い、すぐに部屋を出ようとした。
「まりの部屋から声がすると思ったらあなただったのね。そのままでいいから聞いて。あなたがあの時助けてくれなかったらまりもお腹の中で私と一緒に死んでたわ。ありがとう。空、まりの分もお礼を言わせて頂戴。それと…メリークリスマス。」
空はそれを聞くと、口を開いた。
「いい娘だなぁ。まりは。あんたに似てるよ。じゃあな。メリークリスマス。」
空は部屋を出た。
「おかえり〜。どうだった?クリスマスは?」
暇神が空にそう聞くと、空は答えた。
「退屈だった。あんなイベント何が楽しいんだか。ほらよ。お土産だ」
「わぁ〜、ちんすこうだ!」
「お前、神様なのにちんすこう好きって変わってるよな。」
美味しそうにちんすこうを食べる暇神を見て、空は普段は見せない珍しい笑顔を見せた。
「また今度会いに行ってやるか。」