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悪夢の支配者  作者: sorairo
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最後の悪夢


***


 古澤と高川は高山の住むアパートに着き、インターホンを押したが、高山は出てこなかった。郵便受けを見るとたくさんの新聞や郵便物がたまっており、何日も留守にしているようだった。隣人に聞いてみても、普段からあまり高山を見ることはなかったそうだ。

 仕方がないので、今度は高山が勤めている会社を訪ねることにした。


 高山の勤め先は小さな清掃会社だった。この会社の社長に高山の事について尋ねようと思ったが、なんと、驚くべき答えが返ってきたのだ。

「高山君!? 彼ならつい二、三日前に辞めたよ。俺も急だったからびっくりしたんだよ。高山君、やっぱ何かあったのか」

 高山健太は、古澤と高川が来ることを分かっていたかのように、姿を消していた。

「高山はどこへ行ったのでしょうか。会社も辞めて」高川は首をかしげて言った。

「まるで、俺たちから逃げたみたいだったよな」


 結局、高山の行方をつかむことは出来なかった。高山を見つければ、黒木家の写真について何か分かるかもしれないと高川は期待をしていたが、知ることは出来なかった。


***


「このまま、この写真について知ることが出来ないのですかね……」高川は深いため息をついた。

「もう一度今まで起こったこと調べてみるか」

「はい。何が何でも、この写真の正体、突き止めましょう!」


 始まりは小林竜の事故死からだった。遺体のあった倉庫は今日も閑散としていた。いたって普通の使い古した倉庫で、おかしなところは見つからなかった。

「そういえば、小林はどうしてこんなところに来たんでしたっけ」

「さぁー、なんだったかね」

「ここに来なければ、死ぬこともなかったかもしれないのに……」

「確かに……。その理由、調べてみるか」

「場合によったら、事故死じゃなかったってことになりますよね」

「ああ。他殺の線も出てくるな」


 二人は、小林の事をよく知っているあの人に聞くことにした。

「すいません、近藤さん。聞きたいことがあります」

小林と同じ部活だった、現在服役中の近藤だ。

「いいえ。かまいませんけど。聞きたいことってなんですか?」

「はい。小林さんの事なんですけど、小林さんが遺体となって発見されたこの倉庫について何か知りませんか?」そう言って、高川は倉庫の住所と写真を見せた。

「あぁー。知ってますよ。私たち、よくあそこで遊んでいましたから。本当はいけないんですけど。すいません」

「私たちって、あの写真の――」

「はい。そうです」

「そのことは、他の人は知っていたんですか?」

「さぁー? 見てなきゃ、だれも知らないと思うんですけど……。あっ、でも、亮介の妹、陽菜ちゃんは何回か一緒に遊びましたよ。だから、知ってるとしたらその位だと思います」

「妹の陽菜ちゃん……」

「聞きたいことってそれだけですか?」

「いえ。では、最後にあの倉庫へ行ったのはいつですか?」

「みんなで集まったのは、私たちが卒業する時です。その時は陽菜ちゃんも一緒でした」

「あれから一度も行っていないということですか?」

「少なくとも私はそうですね」

「そうですか。ありがとうございました」


「小林は、昔が懐かしくてあの倉庫に行ったのでしょうか?」

「そうだとしても、黒木家の写真を持っていく必要性がない。あの写真が、三枚目の写真ならわかるが……」

「では、あの写真を置いたのは高山でしょうか? となると、もしかして、高山が殺したんじゃ……」

「まだこれでは他殺とは言いきれんからな。何とも言えない」

「小林の携帯とかって調べられますかね?」

「難しいんじゃないか。遺族が嫌がる可能性がある」

「一か八か、明日行ってみましょう。説明したら貸していただけるかもしれませんし」


 そして、二人は小林竜の遺族の所へ向かった。

やはり、最初は嫌だと言っていたが、何とか貸してもらえることとなった。


 携帯は鑑識に回し、調べてもらった。すると、意外なことに、死亡する前、最後メールをしたのは白血病で病死した安田彩だった。


***


「まさか、どうして彩さんが……。」高川は信じられない様子だった。

 小林が倉庫に向かった理由は彩からの一通のメールだった。そのメールは、渡したいものがあるから倉庫へ来てほしいという内容のメールだった。そして、倉庫には彩の代わりに友達が行くようになっていた。

「この友達って誰の事でしょう?」

「高山か近藤か真島の三人じゃないか?」

「でも、それなら、名前を書けばよくないですか。この友達は小林の知らない人だったのではないでしょうか? 例えば……」

「実家に写真と手紙を送ってきた送り主」


***


 彩は入院中家族の人以外誰とも関わりが無かったそうだが、担当の看護師が一回だけ家族の人ではない誰かと話しているところを見たことがあった。しかし、やはりこれ以上の情報は得ることが出来なかった。


「もう、限界ですかね……」高川はもう疲れ切っていた。「余計に謎が深まっただけだったな。」

「そもそも、どうして黒木家の写真なんですかね。もう誰もいないのに……。しかも、三枚とも黒木亮介が写っている。誰か亮介君に恨みでもある――」高川はあることに気付いたようだ。

「井上さん! 唯一の黒木家とのつながりですし。陽菜ちゃんまで、あんなことになってしまって……。もう一度、聞きに行きませんか?」高川は、古澤に訴えた。しかし、古澤は反応しなかった。

「これで何もなかったら、最後にします。だから、お願いします。知りたいんです。真実を」


 古澤は、高川に折れて、井上の所へ行くことにした。


***


 二人は、井上の住むアパートに着いた。

「井上さん、お久しぶりです。あれから、二枚の写真がまた出回りました。この三枚の写真、本当に知りませんか?」高川は、ほんの少し口調が強くなっていた。

「知りませんよ! 前にも言いましたよね?」

「おかしいと思いませんか? 黒木家はもう誰もいないのに、写真だけが出回って。でも、井上さんならやろうと思えばできるんじゃないんですか。黒木陽子さんの甥っ子ですから。」

「もしかして、俺が遺体の隣に写真を置いたとでも? ふざけないでください!」

「でも、警察に隠してることが一つあるんじゃないか?」古澤が今まで黙っていた口を開いた。

「隠してる? 何を」

「黒木陽菜ちゃん。まだ、生きてるんじゃないか?」古澤の意外な発言に高川は、驚いていた。

「警部、まさか、冗談を――」

「冗談なんかじゃない。あのとき、陽菜ちゃんが自殺した日、もう一人女の子が死んでたんじゃないのか? 隣の部屋に住んでいた白石恭子さんが」古澤は、冗談なんかを言っている様ではなかった。

井上はずっと黙っていた。

「でも、そんな話聞いてないですよ。」高川は混乱気味になっていた。

「ああ。そりゃあ、井上と陽菜ちゃんでなかったことにしたんだから」

「なかった事?」

「白石さんの高校の同級生に話を聞いたら、かなりひどいいじめが行われていたそうだ。耐えられなくなった白石さんは学校に退学届けを出していた」

「じゃあ、もしかして……」

「ここの大家さんには退室届も出していた。そして、だれにも知られないよう、迷惑かけないよう一人で死んでいったんだ」

「それを、井上さんと陽菜ちゃんが見つけた……」高川は、古澤の言いたいことが分かった。

「陽菜ちゃんは両親を殺された被害者でもあるが、同時に亮介の妹。つまり人殺しの妹でもある。ここで、黒木陽菜を殺そうと思ったんだな。白石さんは偶然、陽菜ちゃんと同い年。体格もそんなに違いはなかったから、燃やせばどうにかなると思ったんだろう」

「陽菜ちゃんを自殺だと思わせるために、ちゃんと遺書も書かせたんですね」

井上は、黙ったままだった。

「井上さん! もう、本当のことを言ってください」

井上はやっと口を開いた。「陽菜ちゃんは……。五年前死んだんだ……。死んだんだよ! だから、もう……」そう言うと、その場で泣き崩れた。


井上が落ち着いたくらいに、古澤は質問をした。「井上、あれから陽菜ちゃん――、いや、今は白石恭子か。白石恭子はどうしたんだ?」

「会ってない……。本当は、一緒に別のところで暮らす予定だったんだけど、いなくなってた……。だから、分からない」

「そんな……。でも、あの時まだ陽菜ちゃんは高校一年生。どうやって暮らしていったんだろう」

「どうやって暮らしたかはわからんが、でも、今確実にちゃんと生きてるってことはわかるよな」

「えっ。どうしてですか?」高川には分からなかった。

「はい。そうですね。」

「あの写真を出回したのは、白石恭子だ。そして、入院している安田と会話をしていたのも、小林をあの倉庫に呼び出したのも白石恭子がやったことだ」

「となると、近藤さんが真島さんを殺したときは?」

「第一発見者は白石恭子だろう」


 高川は、ここであることに気付いた。

「陽菜ちゃんがここまでする理由ってなんでしょうか? 亮介君はもういないから、復讐しようが――」その時、高川、古澤そして井上はこの事件の真相がわかった。


***


 小林の遺体が発見された倉庫に、ある女性と男性がいた。


「いつから気づいてた?」男性が女性に尋ねた。

「さぁ。いつからだっけ?」女性はそう答えた。

「目的は俺だろ? 何で、みんなまで殺す必要があった?」男性はまた質問をした。

「じゃあ、なんでお父さんとお母さんを殺したの?」男性の質問には答えず、質問をした。

「……。お前には俺の気持ちはわからない。俺とおまえは違うから。もともとの出来が」

「えっ?」

一瞬、時が止まったようだった。

「俺は小さいころからバカだったから、最初から就職する気だった。そして、おまえは頭がいいから大学に行くことになってた。別に、それはよかった。でも、やっぱ、うちにはバカは必要なかったんだな」

「どういうこと?」

「言われたんだよ、家出てったら一生戻ってくんなって。仕方ねぇよな、教師の息子がこんなバカだったら業務妨害してんのと同じだもんな」

二人とも、それからしばらく何もしゃべらなかった。


 この沈黙を破ったのは女性のほうだった。

「私がみんなを殺した理由。それは、あんたにも私と同じ思いをさせたかったから。私は、お父さんとお母さんそして、兄まで死んで独りぼっちになった。だから、あんたにも一人になってもらった」女性は、男性をにらみつけた。「まぁ、結局こうして兄は生きてたんだけどね」男性は女性に向かって笑顔を見せた。

「いや。私のお兄ちゃんはもういない。お父さんとお母さんが殺されると同時に、お兄ちゃんも死んだ」男性の笑顔を無視してにらみ続けた。

「そっか、そっか。そうですね、白石恭子さん。」男性は口元がにやついた。

「あんたは、高山健太と一緒にいた時、火災事故に巻き込まれた。そして、高山は死んであんたは助かった。その時、あんたは高山には介護施設にいる祖母しか親族がいないことを思い出して、そこで入れ替わった」

「よく調べたねぇ~。その通り。俺はあの時、黒木亮介を殺し、高山健太になった。」


 そして、高山は白石に聞いた。

「で、俺をどうしたいわけ? 殺したいの? じゃあ、刺す? 撃つ? それとも――」

「自首して」

白石の声が小さく響いている。

「はぁ?」

「私の目的は、あんたに自首させること。きちんと、罪を償ってもらうこと」

「お前、俺に自首してもらいたいがためにこんなことしたのかよ。普通さぁ、こういう時って殺したり――」

高山の声を遮ったのは、大きく破裂したような、倉庫全体に響き渡る音だった。

「ふーん。打ち殺す気になった?」高山はなぜか笑っていた。

「これは脅し。だから、ちゃんと自首して」

「はいはい。じゃあ、ここで電話してやるよ。そっちのほうが嬉しいだろ」そう言って、本当に電話をし始めた。


 電話が終わり、高山は

「気が済んだ? 早くしないと、警察ここに来るけど」それだけ言って、その場に寝転んだ。


***


 高山と別れた白石は、昔黒木家があった場所に来ていた。ここですべてが終わり、始まった。白石は目をつぶり大きく息を吸った。鞄から銃を取出し、銃口をこめかみに当てた。

引き金を聞こうとした瞬間、誰かに邪魔された。

白石の目の前に立っていたのは、高山だった。

「なんで!?」

「なんでってこっちのセリフだよ! なんでお前まで死ぬ必要があるんだよ!」

「復讐するって決めた時から最後に死ぬつもりだったの! だから離して!」


同時に周りには銃声が響いた。


「お兄ちゃん……。ねぇ、お兄ちゃんしっかりして! 目、覚ましてよ!」


しかし何度呼びかけても反応することはなかった。


***


 高山からの突然の自首に驚いた古澤と高川は、高山に言われたとおり、倉庫に向かっていた。車には井上も乗っている。しかし、向っている最中に高山からの電話があり、急遽黒木家のあった場所へと変更された。


 黒木家のあった場所に着き、車を降りた瞬間、銃声が聞こえた。銃声のあったほうへ行くと、そこには、黒木亮介と陽菜がいた。

「陽菜ちゃん! しっかりして!」高川は必死に呼びかけた。

陽菜はまだ意識があった。目を開けて、高川の顔を見るとそのまま目を閉じた。そして、目から涙がこぼれた。


 その日の夜、月も星も全く顔を出さず、雨が降り続けた。


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