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ドラゴンに首輪は、必要ですか!?   作者: takkaの包み
第1章 花冠の契約
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建設的な会話

『・・・だから、さっきからいってるでしょ!このアホ!』


『いや、そうじゃなくてだな。つか、アホって・・・。お前こそポンコツなくせに』


『あ、今〝お前”って言ったわね?絶対許さないから!』


『怒るとこソコかよ・・・』



 薄暗い森林の奥深くで、静寂を切り裂くような二人の話し声が響いている。


会話と呼ぶには、お互いの語気が強すぎる気がするが、気のせいではないだろう。

まさに、〝売り言葉に、買い言葉”。


 中身もなければ、意味もない。そんな虚しい会話が繰り広げられていた。




(どうしてこうなった・・・)



 チヒロは今にも噛付きそうな勢いで話す彼女リンを尻目に、天を仰ぐ。

こうなった原因がどちらにあったか。・・・今となっては、思い出せそうにない。


 木々の間から差込める頼りない光が、少年の心を表しているかのように揺らめいている。




ーーお互いの気力と体力を削り合う争いは、まだ終わりそうになかった。





◇◇◇◇◇

 

 まだ太陽がそれほど傾いていなかった頃。

チヒロは,リンから少しでも有益な情報を得るために、努力(・・)を強いられていた。


より詳細な情報を出来得るかぎり集め、理解を深めていくチヒロの性格に対し、リンは〝百聞は一見に如かず″をモットーとしているようだった。

それでも何とか必要なことを聞き出すことが出来たのは、リンの機嫌が良かったからとしか言い様がない。





「つまり、条件付きで魔法が使えるってことだよな?」


「そうね。マナのイメージさえしてくれれば。後は〝私が″やってあげられるから」




「れ、練習すれば一人でも・・・」


「多分無理。だってチヒロ、ガバガバなんだもん」




リン曰く、


〝ゼロ″か〝百″


〝ON″か〝OFF″


一度に出る『マナの量』が多過ぎるため、自分では制御出来ないらしい。

それは詰まる所、



「俺はリンがいないと魔法が使えない・・・?」



チヒロの瞳からスッと生気が抜けていくのが見て取れる。

そんな事は御構い無しに、リンは嬉しそうに口を開く。





「だから、私が騎手で、チヒロが馬。そう、役割で言うなら〝魔力貯蔵庫マナタンク”ね!」



「・・・」




致命傷になりかねない一言を。

リンにとっては上手い比喩のつもりだった。


チヒロは契約した時点で唯一無二の存在であったし、

彼の保有するマナの貯蔵量はパートナーとして非常に好ましいものであった。

ただ、それを彼女が言葉で表現しようとすると、なぜかねじ曲がって伝えてしまう。


ーーーリンの選択する言葉は辛辣だ。そこに愛情のようなものが込められていたとしても伝わることはない。



 チヒロが彼女の表情をつぶさに観察していれば伝わったかもしれないが・・・。それを今のチヒロに求めるのはあまりに酷なことだった。




(馬?・・・マナタンク?ーーー俺は、使い捨てカメラ的なあれか?)



残念ながらこのすれ違いは起こるべくして起きた。

チヒロは、反撃の狼煙を上げるためにいろいろと腐心するが、あまり有効な策は浮かばない。


ただ、悔しかったのだ。情けない自分にも、リンの辛辣な言葉も。

そうしてやっと捻り出した言葉が、












「・・・うるさい。つるぺた」





もう、だれも止めることのできない稚拙な争いの火蓋が切られた瞬間だったーーー。






◇◇◇◇◇


 太陽が夕日に変わろうとしている。

二人は肩で息をしながら、しばらく言い争いをしていたが流石に気づいた。久方ぶりの沈黙が訪れる。



((なんでこんなことしてるんだっけ?))


 体力の消耗は、否が応でも二人の頭に冷静さを取り戻させる。

なによりも、このまま森の中で夜を迎えるのが恐ろしかった。





「・・・ごめん、言いすぎた」




「私も、悪かったわ。ごめんなさい・・・」



 静寂が再度二人を包み込むが、そう長くは続かない。






(ぐぅぅぅ~)



「ふふっ、何よそれ」


「・・・これは仕方がない」


「まぁ、そうよね」


「腹減ったな」

「喉も乾いたわ」



 二人は目を合わせるとお互いに笑い出す。

どちらもやせ我慢していたのだ。体力を使えばお腹もすくし、あれだけ喋れば喉も乾く。

当然の結果だった。




 しとしきり笑いあった後、二人の行動は迅速だった。





「暗くなる前に、水と寝床の確保。できれば食料もほしいけどそれは欲張りすぎかもな・・・」



「寝床は心配しなくてもいいわ。その辺の岩山に大穴を開ければなんとかなるから。あとは水と食料だけど・・・」


「水は魔法で何とかならないのか?」




「それは無理ね。魔法は〝現象”として〝結果”をもたらすだけだから。・・・近くに川が流れていればいいんだけど」




 魔法もそこまで都合良くは出来ていないらしい。チヒロはがっくりと肩を落とすが、




「んー。やっぱり、・・から確認するしかないか・・・」




ぽつりとつぶやいたリンの言葉に不安を覚え、彼女の瞳を見る。そこには、


ーーーそこにはいつか見た、獰猛に輝く紅緋の瞳があった。



(これはヤバイ事考えてる目だ・・・)




チヒロはゴクリと唾を呑みこむので精いっぱいだったが、何とか阻止しようと動く。





「リンさん?あまり危ないことは・・・」


「大丈夫。あなたならできるわ!」




「っ!?俺がするのか・・・?」


「当たり前じゃない。私には無理だもの」



チヒロは彼女が実際に魔法を使っているのをこの目で見ている。それなのに、彼女が無理だというのは何故なのか。

もはや、彼女の意図することがチヒロには理解できなかった。


彼が混乱で目を白黒とさせていると、リンはチヒロの右手をそっと掴み、胸の前まで持ち上げた。






「私には無理なの。わかるでしょ?」



 彼女の右手から、温もりとマナが伝わってくる。しっかりとリンの両目が伝えてくる。

『ちゃんと私を見ろ』と。

チヒロは、リンが自分にしてくれたように。彼女のマナの流れを手繰り寄せ、次第に重なっていく。



ーーーリンのマナはひどく澄みきっていて、サラサラとしていた。今にも途切れそうなほどに。




「どうしてこんなに・・・」


「心配?」


「・・・これは心配しないほうがおかしいだろ」





自分と比べてあまりに微弱すぎる。これが彼女本来の姿とは到底思えなかった。リンは何でもないような素振りで宣言する。




「別に問題ないわ。一時的になっているだけだもの」





 リンは本心からそう断言する。

〝あなたのおかげでね"とは決して言えない。彼に話しても、負担にしかならないからだ。


 これは、チヒロのマナが暴走したときの代償。彼の莫大なマナを制御するためには、彼女自身も何かを賭けなければ到底無理だった。

そして、マナの行き先は〝転移"と言う形で消化するしかなかった。


 そこまでの事をしても、彼女が恩着せがましくないのはひとえにに、自分も望んでいたからだ。


自身を縛る世界に別れを告げることを。





「まあ、頼りにしてるわ?」


「そこはきちんと断言してくれよ・・・」






少しの逡巡の後、チヒロの覚悟が決まる。

実際、チヒロには初めから選択肢などなかった。

『よしッ』と呼気と共に気合を入れ、静かに目を瞑る。そこにはひとつの願いがあった。



(ここで格好悪い姿を見せるなんて。あってたまるか!)





リンはそれに応じるようにチヒロの右手に両手を重ね、彼のマナの動きを制御する。

彼がイメージするのは突き抜けるほどの飛翔。発せられるマナの光は翡翠(ひすい)色。

それを正しく制御する。








ーーーこの日。この世界にとって初めての〝詠唱"が行われる。

己のマナを使役し、イメージを具現化し、それを正しく制御する。本来、詠唱なんて必要ないのだ。



しかし、彼のそれは〝願い"そのものだった。

『願わくば、こうであって欲しい』と、懇願とも取れる命令(・・)を言葉にする。


それは、詠唱とは呼べない代物だったかもしれない。

それでも尚、二人は同時に短く放つ。





『『---飛べっ』』





短い詠唱の後、ブツっと何かが擦れる音。

それは大気が、凄まじい飛翔に〝置き去り"にされた音だった。



少なくとも翡翠色の宿るマナでは考えられないほどの速度。それは雷鳴のように天空へと二人を送る。









頂点に達した二人は同時に息を飲む。美しくそれでいて果てが見えない。


自分たちが世界に比べてとても小さい存在なのだと気付く。

それは小さい二人にとって途轍(とてつ)もない恐怖であったし、希望でもあった。


二人はお互いを確かめる様にしがみ付く。

この広い世界では自身の存在が曖昧になりそうだった。だから、必死に縋り付く。


そして、この後訪れる結末を予感し、お互いに逃すまいとしがみ付くのだ。





〝魔法は現象として存在し、正しく結果をもたらす″



〝とてつもない飛翔″のあとには、正しく〝とてつもない墜落″が待っている。







「「い、いやあぁぁっ〜」」





人類で初めて、少年と少女は自力での飛翔と自由落下からの生還を成し遂げた。

少年は、自身が少女の叫び声に釣られて、同じように叫んでいた事を一生の汚点として刻んでいくこととなるーーー。







◇◇◇◇◇


「もう私の許可なしにあんな事しないで!この、オタンコナス!!」


「なっ、誰がするかあんな事。リンこそ、何が『大丈夫よ』だ!全然制御出来てないじゃないか!?」




「それはあんたが勝手にっ。・・・もう知らない!このバカ!!」




何とか風を利用した魔法によって着地を成功させた二人の間には、第二ラウンドを告げる鐘の音が鳴り響いていた。


結局。二人は川の位置はおろか、何の成果も上げられずに、森の中を彷徨うことになったのだった。



















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