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ドラゴンに首輪は、必要ですか!?   作者: takkaの包み
第1章 花冠の契約
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二人のプロローグ

原初の願い。

それは欲求であったり、数ある嗜好(しこう)の一つだったりするのかもしれない。

もしくは全くの逆、拒絶や嫌悪として現れる場合もあるのかもしれない。

その性質、刻まれた本能のような何か。


そして、そのほとんどが生存にかかわるものであったのは当たり前のことだった。

ゆえに、無自覚。選択の余地すら与えられていないことに気付かない。ただ、他者よりも生き残るためだけに刻まれた、〝願い″の根源を。


もし、選べたとしたならば何を選ぶだろうか。

もし、人間ならば。

もし、大空にはばたく鳥ならば。

もし、巨大なクジラのような生き物だったならば。

もし、おとぎ話のドラゴンだったならば。



ーーーそして、彼ならば何を願うのだろうか。






 「ーーーはぁっ」



 周りに誰も居ないのを良いことに、滞りはじめた肺の空気を無遠慮に吐き出す。手ぶらに申し訳程度のランニングシューズ姿を見れば、少なくとも登頂が目的ではない事は明らかだった。


白椛(しらかば) 千尋(ちひろ)。平均よりも少しだけ背が高く、平均よりも著しく痩せている少年はーーー色白で、色素の薄い頭髪と瞳を揺らしながら山道を歩く。

時折、木々の隙間から差し込む陽光が彼の濁った灰色の瞳を少しだけ明るいものにするも、一時的なものでしかなかった。


まるで薄く引き伸ばされたかのような存在感。

この少年に比べれば、道端に生えている雑草のほうが幾分か・・・いや、よほど印象に残るだろう。




「・・・しんどい。きつい」


どんよりと曇るその眼は、地面すれすれを視界にいれながら自身の進む先をかろうじて見据えている。

寝てるだけでも体力を著しく消耗するチヒロという少年は、頂上を目指すような体力も、心の余裕も生まれる事がない。その証拠にあと数分も歩けば、彼にとっての最高到達点なのだ。

標高と呼称するのも憚られるほどの、あまりに低い登坂記録。


それでも。調子に乗って頑張り過ぎれば驚くほど疲弊し、仕舞いには風邪を引いてしまうほどの体たらく振りなのだから仕方がないことだった。

他者からみればふざけている様にしか見えないだろう彼の姿。それがチヒロにとっての全力だとは誰も思わない。---なぜならば坂ですらないのだから。



しかし、それほど虚弱であるチヒロが何故、わざわざランニングシューズを購入してまでこの無謀ともいえる登坂に挑戦しているのか。


それは、この日を逃せばギリギリだった生活がさらに悪い方向へ進んでいく確信があったからに他ならない。

彼の目的はひとつ、あのあからさまに巨大なシルエットの麓まで()()()辿り着くこと。それだけだった。




登山道の入口から歩いて〝五分″も掛からない(チヒロはその何倍もの時間が掛かる)この場所に、その巨大な杉の木はひっそりと佇んでいた。

貫くように伸びた樹の(たけ)は数十メートルに渡って陽光を(さえぎ)り、周囲には草木が不気味なほど生えていない。

高くそびえ立つだけでは飽き足らず、大きく広げた太い枝葉が自身の支配権をさらに先へと侵食させた結果だ。


〝彼"の生命力と強欲の為せる業。


チヒロは訪れるたび、この存在を再認識しなければならなかった。そして気付かされるのだ。

この植物に対して湧き上がる、〝嫉妬"に似た感情を。


しかしチヒロは知っている。この激情すらも、通り抜ける風が雑草を揺らすことよりも些末なことでーーーこの世界になんの影響も及ぼすことはないのだと。


視界を埋め尽くすほど大きく伸ばした枝がザワザワと揺れるたび、チヒロの汗ばんだ肌を涼やかな風が通り過ぎていく。

ひんやりとした空気、包まれるような木々のざわめき。

呼吸する度に、固く強張っていた身体が解けていくようにも感じた。肩が震えるほど早鐘を打っていた心臓もやがて落ち着きを取り戻し、常に感じていた倦怠感も吹き飛んでいく。





「病は気から、か・・・」



自身の単純さに肩を落とすが、実際に()()()()()。この場所に訪れるだけでこんなにも自身の体は変化している。



チヒロが他人よりも劣っていると感じ始めたのはいつのころだったであろうか。

年齢を重ねるごとに成長していく周りの友人とは真逆に進んでいる絶望感。気付いた時には、心身共に弱り切っていたのを覚えている。

体が大きくなる度、広がっていく虚無。無理やりにでも折り合いをつけなければ生きてなど行けなかった。

その結果、彼は競争から逃れるように外れ、地を這うようにその場から距離を置いた。


チヒロは〝諦めの良さ”が板について、もう簡単には希望を抱かない。




「・・・ふう」


危うく沈み込みそうだった思考に蓋をし、無心を心がける。

落ち込むためにこの場所に来たのではないのだ。




(大丈夫。いつも通り静かだ)


少しだけ周囲を確認する。

こんな田舎に、好き好んで森に訪れる人間なんていない。

しかし、念には念を。聞き耳を立て、静寂の始まりをジッと待つ。


いつもの様にーーー。







ーーチヒロは両腕を大きく広げ、一本杉に近付く。



『・・・めろ』





ーー待ち焦がれていた瞬間を、熱い抱擁を。



『・・・やめろと言って』


「ん?」




微かに女性の声が聴こえた気がして、心臓が高鳴る。

しかし、とっさに反応出来るほど反射神経は鋭くない。重心はとっくの昔に移動を終え、今まさに全体重をこの大きな一本杉に預けようとしているのだから。




ーーー当然のごとく、抱きついた。




「しょうがぁーッ!!」


「っつ!?」


突如、幼さの残る怒声が背後から聞こえ、恐怖にしゃがみ込んだ瞬間。





「んなっ!?」



さっきまでチヒロの頭部があったであろう空間に、ブンっとした風切り音。そして()()の驚愕を含んだ短い悲鳴が聞こえた。

恐るおそる頭上に視線を向けると、現在進行形で絶賛少女滑空中だ。

一瞬の出来事がゆっくりと見える。


走馬灯?

そんな疑問を抱きながらも少女の美しいまでに洗練された足刀の冴えと、見えてはいけない白銀の三角形をしっかりとこの目は焼き付けている。



飛翔にも思える程の〝ライダーキック″。

当たれば確実にチヒロの意識を刈り取っていたと思うと生きた心地がしなかったが、あくまで当たればの話だ。

その様子をぼんやりと思考停止した頭のまま眺めていると、頭上の少女と視線がカチリと交差していることに気付いた。

おぼろげだった瞳の焦点は、ある一点へと吸い込まれていく。


ゆっくりと嫌悪で歪んでいくその紅緋(べにひ)の瞳に、うっすらと涙が見えたからだ。

・・・時間を引き延ばしたように映る世界はここで、無情にも終わりを告げる。












ーー周囲のあらゆるものが破裂した様な音がした。




「むぎゃっ」




---何かが潰れたような声が聞こえた気がする。


飛翔のような一撃は目的を果たせずに虚空を薙いだあと、その勢いのまま地面へと落ち。爆ぜた。

翼をもがれた少女が顔面から突き刺さって行く様子を、チヒロは働かない頭のまま茫然と眺めていた。ただ眺めることしかできないでいた。




◇◇◇◇◇



けたたましい破裂音が一度だけ大気を揺らした後、やがて静寂が森に訪れ・・・いったいどれくらいの時間が過ぎただろうか。


 自然と五体投地の形におさまった少女は、ピクリとも動こうとしない。

チヒロに正常な思考回路が残っていたのならば少女の安否を心配することくらいはできたはずだが・・・現実はそう甘くない。


実際はーーー〝少年(置物)”と〝目を覆いたくなる現実(少女)”がただそこにあるだけだ。







「・・・ッ、くぅ・・・」



思い出したかのように突如、少女の背中が小刻みに震え始める。

シクシクと地面に突っ伏しながら泣く少女。誰から見ても、か弱い少女そのものであり、見る者の心を酷く掻き乱す。

彼女のあられもない姿が余計に拍車をかけていた。


さて、これは何なんだ?

疑問ばかりが浮かんではさっぱり働かない思考。

あえて例えるならば、目の前を暴走したトラックが横切り、挙句の果てに民家へと突っ込んでしまったような状況だ。

こんな場面で、咄嗟に行動できる人間はあまり存在しないだろう。少なくともチヒロには不可能だった。

しかし、状況は変わっていく。彼女の悲しみに震える背中をずっと眺めるているのは、精神衛生上あまり良いものではない。


チヒロは意を決したように、ブスブスと煙を上げ始めた暴走トラックへと近づいていく。刺激しないようにゆっくりと少女の肩に手を伸ばし、






「あのッ、だいじょーーー


 大丈夫か、と声を掛けようとした瞬間だった。少女の肩がピクリと震え、すぐさま彼女の右拳が飛ぶ。

振り向きざま、腰にひねりを加えた右ストレート。それはなんの躊躇もなく放たれ、こちらの命を刈り取る鋭さを備えているように見えた。

幸運だったのは、見栄やプライドを即座に手放したこと。チヒロは迫りくる恐怖に対して正直だった。

尻餅をつく羽目にはなったが、結果的に鼻先を掠る程度の被害で済んでしまう。




「なんでっ・・・!」


少女はヘタリと座り込み、驚愕の顔を浮かべているようだ。しかし、その表情はすぐさまなりを潜め、ゆっくりとその顔を歪めていく。

彼女の薄く色づいた唇がその形を変える。




「なんで避けるの!?」









ーーー ひどく透き通る様な声がチヒロの鼓膜を揺らす。

彼女に合わせ踊る毛束、その先に目が離せなかった。左右それぞれに束ねられていた髪は彼女の薄っすらとした鎖骨をなぞりながらサラサラと流れる。

ドキリと鼓動が一拍だけ高くなった気がしたが、しかし少女のあまりにも理不尽な言葉の意味を理解すると、チヒロは反射的に応えていた。




「そりゃ、避けなきゃ死ぬから・・・」


「大丈夫よ。ちゃんと手加減したもの」





「・・・」




だいぶ斜め上の返事が帰ってきたが、それでも 一応は会話が成立している。チヒロはまだヒリヒリと痛む鼻先を指でさすりながら、少しだけ緊張を解いた。

暴走トラーーーもとい、目の前の少女は燻ってはいてもすぐさま爆発するようには見えなかったからだ。


きっと今の状況は、大きな勘違いとほんの少しの不運がいい感じに拗れただけだと。

言葉さえ通じれば人は歩み寄れる。絶対的な溝は埋まらないにしても・・・。

ーーースイカとメロンくらいにはなれるだろう。たぶん。



少し前向きに考えられる様になったチヒロは、今日初めて自発的に口を開いた。





「・・・どうしてこんな事を?」


「どうしてって・・・本気で言ってる?当たり前でしょ!?」



「あ、当たり前!?こんなに立派な一本杉なんだから、ちょっとくらい触ったってーーー」


「異常よ!この変態!!」





(なんっ・・・だと!?)





剣幕な表情で責めたてられ、心に甚大なダメージを負うも、何とか平静を保とうと努力する。

確かにチヒロは、意識して人を避けてここに来ていた。

しかしそれは、やましい事をするためでも、他人に咎められる様な事をするためではない。ただ、この立派な一本杉に抱きついただけだ。


人を避けているのも単純に・・・他人の視線が苦手だからだ。どうしても気になってしまう。ましてや、抱きついている姿など絶対に見られたくなかった。




「毎回、毎回。コッチが何も言わないからって、ゴッソリ持っていって・・・。迷惑なのよ!」



「なっ!?俺は何も取ってない!」




何か、根本的に噛み合っていない。

確かに、マナーの悪い登山者もいるのは事実だ。野草を無断で採取したり、珍しい木の枝葉を折って持ち帰ったりする人間も存在する。

しかし、チヒロは一切そういった行為をした覚えはない。そういった事に興味も無いし、それだけのことをする度胸も持ち合わせていなかった。




「・・・もしかして無自覚でやってるの?余計にタチが悪いわ」




少女はハァと溜息をつき、おもむろに背中を向けて歩き出した。

周囲を一通り眺め、黄色の鮮やかな花を一輪摘み取ると、再度こちらに向かってくる。

長い乳白色の髪に合わせ、ワンピースの裾が躍っていた。



「はい。深呼吸して」


「へっ?」



喉からへんな声が出てしまう。

ズンズンと歩く少女が、先程摘んできた花をグッと押し出してきたからだ。

しかも、目の前でしゃがみ込む少女が何を言っているのか全く理解できなかった。困惑の眼差しを向けても少女はジッとこちらを見つめたままなのである。





「・・・いいから。言うとおりにして」



依然、混乱の真っ只中のチヒロであったが、少女の気の強そうな瞳に促されるまま、ゆっくりと瞼を閉じながら大きく息を吸い込んだ。



「・・・」




深呼吸を何度か繰り返す。

こんな状況でも、深呼吸すると重かった体が少しだけ軽くなる。我ながら、単純な構造の体に飽きれそうになっていると、



「もう止めても良いわよ」


少女の短い一言に現実に戻され、目の前をーーー。






「ね?これでわかったでしょ?」


「・・・」




ーーー目の前には、綺麗な黄色い花は見当たらなかった。その替わりにあったのは、干からびた灰色。もう花とは呼べない何かだ。






『ね?これでわかったでしょ?』



目の前の少女はそう言うと、自慢げに鼻を鳴らす。まるで、小さな子供が新しいオモチャを見せびらかすような仕草でしおれた花をチヒロの顔のすぐ近くで上下に振ってみせる。

コロコロと変わる少女の表情は、ずっと眺めていても飽きない魅力があった。


チヒロは灰色になった花を見た瞬間。

不自然に枯れた原因と少女の意図する事のすべては、自分が引き起こしたのだと予感する。

そうじゃないと、突如湧き上がった不安に説明がつかなかった。

 

〝意識して自分の内側を確認する”そんなことをする必要があるのだろうか。

普通ならばありえない。自身の身体は自分が一番知っていなければおかしいからだ。

それでも、あきらかに何かがおかしい。忽然と、唐突にこの胸を埋め尽くす〝不安”の意味。


自身の鼓動が、心音が分かるように。その原因を探す。

何故こんなにも焦燥感に駆られているのかを。





しかし、それほど苦労を必要としないようだ。

・・・そこには当然のように存在していたのだから。


"それ"に気づいた。気付いてしまった。


その瞬間、絶望がチヒロを襲う。

自分の身体が内側から膨張していくような感覚。

突然の体の変質に置いて行かれそうな心を、ありったけの無理解で守ろうと努力する。これは防衛本能が正しく発揮された結果であった。


無理解に無理解を重ね、理不尽に理不尽で返しても。それでも。



ーーチヒロには必要無かったのだ。理解をうながす言葉も、理不尽を押し付ける暴力も。

ーー白椛千尋は初めから、白椛千尋だったのだから。



この時初めてチヒロは、自身の異常を()()する。




「俺は、何なんだ・・・」



少年の言葉は誰に向けた言葉だったのだろうか?自分の身体は、自分が思うよりずっと広く、伽藍堂のように空っぽだった。『気付かなければ良かった』と自分の空っぽのからだを掻き抱く。気付かなければこんなに飢えを感じる事はなかったはずなのに。





「ーーやっと気付いたのね」



囁くような彼女の言葉は、少しだけ優しさを孕んだ音色をしていた。










◇◇◇◇◇


  少女は少しだけ読み損なっていた。

この無礼極まりない灰色の少年は、予想していたよりもずっと苦しげに答えを求めている。


 ・・・彼はきっと正しく理解したのだろう。


  それは彼女の思惑通りに事が進んだに違いなかった。この〝世界の有り様″と〝無自覚に少年が振りまく災厄″を彼自身に気付かせるという意味では。

しかし、少年の何かを拒絶しようと必死に堪える姿は、いささか大袈裟であり、余りにも迫真に迫っていた。

  先程まではオイタした少年を少し懲らしめてやろうと思っていたが、この少年の前ではそこまで冷酷に徹することは出来ない。



  不意に彼の独白のような問いが聞こえ、少女はなんとか声を喉から()り出す。

ちゃんと少年の耳まで届いたか自信がない。

自分の口からこんな蚊のなく様な声が出たことに、今日何度目かの自己嫌悪を抱く。




(こんなの・・・、ズルい)


  この少年と出会ってから、掻き乱されるばかりだ。何ひとつ、自分の思い通りにならない。

渾身の一撃も、嫌悪の眼差しさえも届かない。

初めて優位に立ったと思った今でさえ、気付けばこんなにも振り回されている。


確かにこの少年は異常だった。それでも、流石に限度がある。彼は紛れもなくヒトであり、ヒトを逸脱することはないのだから。






(普通ならこんな苦労しないのに・・・)



・・・普通なら?

前提が間違っていた。彼女の疑問は確信にかわり、少女は初めて少年を〝視る″


 ーー本当はもっと早く気付くべきだった。

普通じゃない自分と関わる彼もまた、普通ではないのだと。

自分を超える異常がこの世界にある事を。

この世全ての生物と物質が当たり前に持ち合わせている物。

少女は彼の身体に、『魔力(マナ)』の一欠片も見つけることが出来なかった。


ある一点を除いて。








◇◇◇◇◇



「・・・助けてくれ(殺してくれ)


「ーーーッ」



 心から願ったそれは〝呪い″そのものだった。

彼はこの渇きを抱えたまま生きていく自信がなかった。だから〝助けて(殺して)″欲しかった。



「・・・ズルイ。ズルイ、ズルイッ!そんなの卑怯よ!!」



「何でもする、だから。俺を助けて欲しいんだ」



 チヒロは彼女なら何とかしてくれると確信していた。自分よりも2,3歳は年下であろう少女に、絶対の信頼と服従を誓う。

少女は少しの間、両眼を(つむ)り自らの両手を胸に抱く。







「・・・いいわ。殺して(助けて)あげる」




 両膝を着いて項垂れているチヒロの両手を握り、少女の紅い双眼が少年の瞳を射抜く。




「名前を教えて」





 ーー少女の手から何かが伝わってくる感覚があった。



「・・・チヒロ」


「そう。それじゃあ、チヒロ。私の名前を呼んで」





  少女は当たり前のように無理難題を突き付ける。それでも、さっきよりも煌々と輝く彼女の瞳は恐ろしいまでに獰猛で真剣だった。

 自分もそれに呼応するように感覚を研ぎ澄ます。



 手から伝わる魔力は真白(ましろ)色。真珠のように白い少女と紅緋の瞳。澄んだ心地よい音色。

言葉にしなくても少女の全てが全身全霊で語りかけてくる。





 ーーーーーああ。簡単じゃないか。




「・・・リン」




 息を吐くと同時に自然と溢れ出た名前。周囲の大気は喜びで振るえている。

ジリッとした胸の痛みを感じると、二人の間に圧倒的な質量のマナの奔流が起こる。それは何の指向性も与えられなかった純粋な魔力の塊だった。

周囲の木々は根こそぎなぎ倒され、暴風が吹き荒れる。



 チヒロはチカチカと明滅する視界とチリチリと肌を撫でるマナに包まれながら、ゆっくりと白い世界に呑み込まれていく。

 全てが白に染まる瞬間、額に何か柔らかい感触を感じた。その後、チヒロの意識は簡単に落ちていくのだった。





『よくできました』





 光が一点に集約し、プツリと途切れた。そこには、巨大な一本杉と静寂がズッシリと変わらずに佇んでいるだけだった。

何の知識もないですし、執筆速度もありませんが。どうぞ長い目で見て下されば幸いです。

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